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56テールズ ~聖杯の伝説~  作者: 曽我部穂岐
第三章 月と宝石のトラジティー
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第十一話 ハンターギルド


「もう少し行けばこの街オークルオーカーのハンターギルドがある。晩飯を食いに行く前に所用で寄るから、面倒ごと起こすんじゃないぞ――特にそこの全然聞いてない奴!」


 等間隔で幽玉の鉱石オブストンの街灯が灯されたレンガ敷きの大通りを歩きながら、ロベルトは辺りをきょろきょろと見回しているレイをびしりと指さす。


 これほど大きな街は初めて来たため、どこまでも連なっているように見える商店の店先や露店の見たこともない食べ物に釘付けになって上の空であり、完全にどこからどう見てもおのぼりさんである。


「あー、あれね。『おいおい、ここはお前らみたいなガキが来るところじゃないぜ』とか言って実力の伴わない三下が絡んでくる必須イベントね。そしてこの私の特大魔術を目の当たりにして恐れおののき平伏ひれふす、と」


 ウィニーはやたらとうなずきながら言うが、こちらも分かっていない。


「そんなベタな展開があるか。――というか、それ面倒ごと起こしてんじゃねえか! 連盟直轄の公共施設だぞ。ギルド内で私闘したら普通に双方捕まって牢屋にぶち込まれるからな」


「えー、つまんないわね。そういうの憧れてたのになー。そもそも、何でハンターギルドなんかに行くのよ。夕食の後でいいじゃない」


 文句を垂れるウィニーにロベルトがため息をつく。


「みなまで言わせるなよ……長逗留のせいで無いんだよ、手持ちの金が。この規模の街のハンターギルドは連盟支部も兼ねてるんだ。治安機構の構成員なら為替かわせで自分の金が下せるんだよ」


 為替――現金の移動を伴わない資金決済は、大世界連盟設立による流通の発達と共に世界中に広まった仕組みだ。昔は国外に長距離輸送を行う大商会くらいしか活用していなかったが、現在では個人間の商取引でも使われるくらいには普及している。


「あーなるほど。連盟本部の治安機構所属ってことは結構、給金貰ってるはずよね。となれば夕食は当然おごりね!」

「なあ、カワセって何だ?下ろすって大根か??」


 もはや食事にしか興味のない二人に、ロベルトは返す言葉もなく歩を進めることにした。



 五十メートルも進まないうちに、周囲より背一つ大きい三階建ての茶けたレンガ造りの建物が見えてきた。通り沿いに突き出した軒先は何本もの円柱で支えられており、寄棟屋根の中央には太陽を囲む竜胆の紋章が掲げられている。


「おー、ここがハンターギルドか」


 レイがギルドの扉を開けると、その声に中にいた数人の賞金稼ぎらしき男たちの視線が集まった。そのほとんどはすぐに興味を失くして視線を元に戻したが、受付口の手前の長椅子で暇そうに巻煙草をふかしていた、色白の眉毛がなく目つきの悪い若い男が立ち上がると、生き生きした表情で肩をいからせて近寄ってきた。


「おいおい、ここはお前らみたいなガキが来るところじゃな――」


「やかましい」


 が、言い終わる前にレイの後ろから入ってきたロベルトに張っ倒される。


「いてえ…畜生、子供なんて滅多に入ってこねえから、一度は言ってみたかっただけだったのによ。――って、『金剛石ダイヤモンド』の旦那じゃねえですか」


「こういう馬鹿も稀にいるから気を付けろ。――って、ウィニーは魔術構成展開するな」


「おおう、おっかねえ嬢ちゃんだな。悪気はねえんだ、勘弁してくれよ」


 目つきの悪い男は灰色の短髪を掻き上げて笑いながら起き上がった。そしてロベルトに親しげに話しかける。


「随分久しいじゃないですか、旦那。いつからこっちに来てたんです? 連絡くれりゃあ迎えをよこしたんですが」


「今日、着いたばかりだ。ちょっとした雑用のつもりが時間と費用を食っちまってな。為替で金を出したい。奥の部屋は使えるか?」


「空いてますぜ。……分かってるとは思いますが、お連れの二人は入れませんぜ?」


「そうだな。すまないがレイとウィニーは待っていてくれ。十分もあれば用は済む」


 そう言ってロベルトは受付口の横から奥の扉へと消えていった。


「この先は治安機構の構成員以外立ち入り禁止なんでね。あんちゃんと嬢ちゃんはこっちの椅子にでも掛けてくれ」


「……というか、おっさんここの職員だったんだな」


 進められるがままに受付口の前に腰かけたレイは、男の顔をよく見る。まず、第一印象は目つきが悪い。目が細いのもあるが眉毛がないのが人相の悪さに拍車をかけている。そのくせ色白で顔の凹凸が少なく、髪の毛も薄い灰色なせいか、どうにも印象に残りそうにない顔だった。


「オイオイ、おっさんはないぜ。俺はまだ永遠の二十四歳だってのに。それとも俺が凄腕の賞金稼ぎに見えたかい?」


 顎に手を当ててポーズを決める男だったが、どう見ても顔つきと身なりは路地裏にたむろっていそうな顔色の悪いチンピラである。ウィニーは内心、これウザい人だと思った。レイも、ロベルトのおっさんと同い年で似たようなこと言ってる奴がいるぞと思ったが、表情には出さず話題を変える。


「なあ、せっかく時間あるんだからハンターギルドについて教えてくれよ」


「ああ、いいぜ。俺も暇してるしな。ハンターギルドを語るには賞金稼ぎについて理解しなくちゃならねえ」


 そう言って目つきの悪い男は講義を始めた。



 曰く、賞金稼ぎポットハンターと呼ばれる職業について。


本来、犯罪者の取り締まりは国家、つまるところ騎士団の責務だった。法を定めるのが国家である以上、司法の権力と義務も当然国家に集約されるべきものだ。国力や規模の大小を問わず法治国家である以上は、治安維持のためであっても私兵や私刑あるいは私的逮捕権を一般人に認めるわけにはいかなかったのである。


 また、凶悪な犯罪者に懸賞金をかけて情報提供を募るということも古くから行われてきたが、犯罪者の根城を見つけて通報したが騎士団が到着したときは、既にもぬけの殻というようなこともよく起きていた。さらに司法制度が国によって違うため、国外に逃亡されてしまうと外交上の問題にもなり、手を出せないといったことが多かった。


 同盟国同士では犯罪者の引き渡し条約が結ばれている場合もあったが、犯罪者に国外逃亡を許したとなれば自国の面子にも関わる問題であることから、余程の重犯罪者でない限り適用されることはなかった。


 懸賞金の額もあくまで情報に対して支払われるのものであったため、それほど高額でもなく、身の危険を冒してまで犯罪者を探そうなどいう殊勝な者は稀だった。


 しかし、およそ二百五十年前、その状況は一変する。


 世界暦七九三年、大世界連盟設立である。


 世界規模の同盟により国家間の闘争がほとんど無くなったことで、今まで戦争の重要な戦力であった「傭兵」たちが職を失い、野盗などの犯罪者に転落することを懸念した連盟首脳部は、傭兵団の一部を取り込むことで「治安機構」という強大な軍事力をもつ組織を創り出した。


 しかし、世界中にある傭兵団すべてを雇い入れることは、人件費面や個々の実力差等、様々な問題から不可能だった。そこで治安機構の管理下に「ハンターギルド」と呼ばれる組織を作り、そこに所属する「賞金稼ぎポットハンター」という職業を創設して、職を失った傭兵の受け皿としたのだ。


 そして、今まで各国がそれぞれ独自の基準で懸けていた懸賞金の額を大幅に引き上げ、一律の基準で治安機構の名で連盟より支出することにした。


 これにより死罪に値する犯罪者は、その名の通り、狩られる者―――「賞金首バウンティ」となったのである。


 賞金稼ぎは登録免許制の職業だ。今まで国家が独占していた逮捕権を私人に認めるわけだから、誰でもなれるわけではない。戦闘能力や犯罪歴の有無、素行の調査等、治安機構が定める厳しい試験をクリアした者だけに認可証ライセンスが与えられる。しかし、厳しいと言っても騎士団の登用試験よりは合格率が高かったことから、そこからの脱落者も毎年一定数流れてきている。


 ハンターギルドの設立は別の思惑もあった。今まで各地の傭兵団の実力者が有していた古代兵器を連盟の管轄下に収めるためだ。傭兵の中には権力に属することを嫌う一匹狼も多く、懸賞金という餌を与えることで彼らを間接的にコントロールしたかったのである。


 懸賞金の額が数倍から十数倍に跳ね上がったことで、特に金で動くことで有名な傭兵たちはこの新たな職業に飛びついた。そして、ハンターギルド設立から十年も経たぬ間に「傭兵」という職業は消滅したのである。


 懸賞金が懸けられるということは世界中に指名手配されることであり、賞金首は国外逃亡してもその罪が消えることはなくなった。


 一部の賞金稼ぎが没落して野盗に身をやつすという弊害も稀にあったが、おおむね制度は順調に浸透し、犯罪者の検挙率も大幅に上がった。加えて騎士団の負担が軽減され、大型の害獣駆除も進んだことから、世界の治安は大きく改善した。


 ハンターギルド設立から百年も経った頃になると、賞金首自体が減ったこともあり、治安機構だけでなく、民間人でも賞金を懸けて依頼が出せるようになった。道中の護衛から害獣駆除、行方不明人の捜索など様々な荒事が絡む依頼がハンターギルドに寄せられるようになった。


 「賞金首」を専門に狩っているのはトップクラスの凄腕ハンターに限られており、主に民間からの懸賞金で生計を立てている賞金稼ぎのほうが多い。しかしながら、自分の実力次第で大金を得られることもあり、騎士団と並んでやんちゃ盛りの子供たちの憧れの職業でもある。


 現在では、世界中の主要都市にはハンターギルドの施設が必ずあり、多くの場合、大世界連盟の支部を兼ねている。



「――そして、俺はジェオブ・サンドリヨン。こう見えてこの支部の出世頭だぜ」


「ハンターギルド支部の窓口係が出世頭な訳ないだろ」


 奥の部屋から出てきたロベルトの突っ込みが話を締めた。


「遅いわよ!」


 話の半分くらいから居眠りをしていたレイの頭に手を乗せてウィニーが立ち上がる。


「言った通りきっちり十分だっただろ。まあ、待たせたのは済まなかったな。懐も温まったところだし、久しぶりにまともな料理でも食いに行くか」


「今度はホントにまともな店なんでしょうね。私もこの街は何度も来てるけど、酒場は詳しくないわよ」


 詰め寄るウィニーにロベルトはしばし考え込む。そういやこいつ伯爵家のお嬢様だったなと、何を食わせれば文句を言われないのかと。そこへジェオブが助け舟を出す。


「あー、これから飯ですか。なら、ここから北に二区画いった四つ角にある『銀の弾丸』って所がおすすめですぜ。串焼きと魚料理が絶品ってご婦人方にも評判で――」


「おお、魚料理なんてフレンネルで干物食べて以来口にしてないなー」


「何言ってんの、レイ。干物は魚料理って言わないわよ。この街はロードシェルから生の魚が毎日届くの。――とにかく今日の夕食はそこに決まりね! 先に行くわよ!」


 口早に言って、レイの首根っこを掴んで引きずるようにして、出口へと駆け出すウィニー。


「あと、宿の手配はお済みで? 何なら紹介しますぜ」


 それを横目にジェオブがロベルトに問う。


「いや、宿はもう『道行き着く果て』に決めてある」


 しばしの沈黙の後、ジェオブがあきれ顔で口を開く。


「……『ついの宿』って、正気ですかい。アレまだ公宿として機能してたんで??」


「お前、それ宿主ヴィヴィの目の前で言うなよ…。静かに過ごすにはもってこいの場所だ」


「確かにあんなおっかねえ所、誰も行きたかねえですぜ……支部長ギルドマスターの宿とは言え」


 ご馳走に向けて元気よく出ていく二人に気の毒そうな視線を向けて、聞こえないように呟くジェオブであった。


【用語解説】


太陽を囲む竜胆ゲンティアナ・ソラーレ

竜胆陽りんどうようとも呼ばれる、十二輪の竜胆の花が太陽の炎環を成すハンターギルドの紋章。意味は「あまねく照らす正義」

竜胆の数は大世界連盟の十二の加盟国を表す。ハンター許可証ライセンスにも刻印されている。


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