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ロザ・ファモリナ救国記  作者: 榎並 稜生
Chapter:1 ロザ・ファモリナ
1/3

Prologue 最後の日

初投稿です。

至らないところも多々あるかと思いますがよろしくお願いします。

 大雨の中、俺は走っていた。

 なにに追われているわけでもない。

 ただ、服がずぶ濡れになるのが嫌だっただけだ。


「はぁ……一日、晴れだったはずなのにな」


 独りごちながら、土砂降りの道を駆ける。

 俺の手に傘は握られていない。

『今日は爽やかな陽気となるでしょう』という天気予報士の言葉を鵜呑みにしてしまったため、学校に傘を持ってきていなかったのだ。

 置き傘も一昨日の雨の日に使い、友達は皆帰ってしまっている。

 どうしようもなく昇降口から水の地獄へと身を投じ、必死に走るしかなかった。

 走って帰ってすぐに干せば明日の朝には乾くだろうという予想は改めなければならないが、ここから学校に戻るのと家まで走り続けるの二択を迫られれば後者を選ぶ。

 こんな横殴りの雨では傘もあまり役に立たないだろうし、距離的にも家のほうが余程近い。


「っと、ショートカット」


 俺は歩道から外れ、小さな児童公園へと駆け込む。

 ここをまっすぐ抜ければ約一分の短縮になる。

 いつもは子供だらけでとても通りたいとは思う場所ではないが、この天気で遊んでいる馬鹿な子供はそうそういない。

 泥がびちゃびちゃと跳ね上がり、中学の黒い制服を汚していく。

 ……泥のことまでは考えていなかった。

 これではクリーニングに出す必要が出てくるかもしれない。

 後悔に襲われながらも最早どうしようもないと公園を駆け抜ける――はずだった。


「いっ……!」


 強烈な頭痛に襲われ、俺は鞄を握ったままの右手と手ぶらの左手を頭に押しつける。

 ひどい目眩で前後不覚になりながら俺は泥の地面に叩きつけられた。



 一体なにが起こったのか、それすらも理解出来ないまま俺の意識は……覚醒した。


「……え?」


 飛び出したのは呆けたような疑問符だった。

 確かに倒れ込んだはずなのに立っているとはどういうことか、何故雨が止んでいるのか、そして――この荒野は何なのか。

 地平線の彼方まで続く広大な荒れ野は絶対に日本に存在する景色ではなかったし、全世界を探し回っても見つけられやしないだろう。

 現在の状況は俺を思考の渦に巻き込んで精神を崩壊させようとしているとしか思えない。

 遙か天空に突き抜ける構造物に、地球の衛星たる月と比較して十数倍はあろう巨大な『月』。

 こんなものが地球上に存在するはずがない。

 現在キリバス・クリスマス島に建造中の軌道エレベーターだって、これほど太くはない。

 『月』の軌道を乱してこんなに近くまで移動させる計画なんて聞いた事もないし、表面のクレーターが描く模様だって違う。

 自分に、そして世界に何が起こったんだ?

 次から次へと湧出する疑問を押し殺しながら俺は座り込んだ。


「にしても、暑い……」


 確実に四十度は超えているだろう。

 乾燥しているにしてもその日射しは強く、むき出しになった俺の表皮をちりちりと焼いていく。

「あれ?」

 今日もう何度目になるかも分からない疑問。

 これまで長袖の黒い詰襟だったはずなのに、どうしていつの間にか白の半袖Tシャツにジーンズなんて姿になっているのだ?

 しかも、さっきから妙に背中が重いと思って後ろを見てみれば登山用のリュックサックを背負わされていた。


「無茶苦茶だ……」


 だが、ここまで無茶苦茶にも関わらず俺はこれを夢だとは感じていなかった。

 夢にしては感覚がリアルすぎるのだ。

 滲む汗と肌に吸着した服の感触、硬く乾いた地面の感覚、吹き抜ける風……ほとんどの夢にありがちな『曖昧さ』というものが皆無なのだ。


 明晰夢というものを見たことはないが、それでも所詮夢、これほど現実感のある風景を、感覚を生み出す事は困難だろう。

 出来れば夢であって欲しいという願いと、夢ではなく現実だという予測がぶつかりあっていた。

 だが、きっとこれは現実だ。

 ここが別の惑星なのか別次元の異世界なのか、そこまでは分からないが、これを夢だと断じることは到底できなかった。

 俺は、もう現実だと考えてしまったから。

 だから――

 もう、戻れはしない。



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