偽救世主の守護者
私はなんて事をしてしまった。愚かにも前世の知識、思想でこの世界を滅ぼすのだから……
せめて後世に自らの過ちを残そうとこの手記をつづる。この手記を読む者にも分かるように努力して可能な限り詳細に順をおって説明しよう。
私、ビーン・エンダイムには前世の記憶がある。
気狂いの狂言と思うだろうか? それは過ちだ。かつての私と同じ過ちだ。
愚かな知識と思想に溢れた前世の話は残念ながら意味はないので割愛する。ページを読み進める忍耐のある者だけが続けるといい。
後世どう語られているているかは定かではないがエンダイム家は枢機卿を輩出できる家柄の貴族であった。少なくとも私が5歳の頃、前世の自己を認識した頃は……。
前世を認識したその日、その瞬間は忘れもしないーーー
「ぎゃあああッーーアアアアアァァ!!!!」
「死ねバケモノッ!」
ーーー悍ましくも愛した弟ソーン。ソニー・エンダイムへ焼ける火箸を突き立てて居たのだから!
私は自らがしている事が理解できなかった。否、ある一面においては正確に理解でき、別の一面においては無知な五歳児にすら劣っていた。
前世相応の大学を出て地位を得て老年まで生きてきた私の判断が、5歳の私ビーン・エンダイムに劣ったのだ。ははは嗤いたまえ。
失礼した。少し筆が乗ったが私は正気だ。私はあわてて頭が判断できる限りに速やかに火箸を棄てて虐待していたソレに近づく。
ビーンの記憶が私にも思い出せた。コレは弟のソニーで邪悪でバケモノで……バカバカしい。哀れな幼児だ生来の障害と兄弟からの虐待の被害者だ。
ああ、愚かにも私は肌が病的に白く、ブヨブヨと太った愚鈍な餓鬼を守るべき存在だと定義してしまったのです。
私は誤った良心に従い人を呼び。自らの罪を懺悔し、メイドや執事にソーンの手当てをしてもらいました。
封建的な風土がそうなのか幸い私の、記憶を取り戻す前の私の過ちは大事にならず。エンダイム家の子息としての生活が続きます。
ヨーロッパ近中世のそれに近い様式の生活……この世界人間には分からないだろうが私の知識にある様式と近いエンダイム家の生活にも半年経つ頃には慣れてきた。
そこで第一の悲劇が起こる。父が訪ねてきた伝道者に煽られてソーンを殺そうとした挙句。事故で死んでしまった。
私はその伝道者を告発し、彼は火炙りの邢に処される。今思えば彼は正しかったが彼にも問題はあったのだ。
宗教的な情熱を先行させず理知的な説得を行なってさえしてくれれば結果は違っていたのかもしれない。
私がソーンよりも1年早く神学校へ入学して学生生活を送っている間に母も死んでしまった。
彼女は脅威に気付き断片的にソーンの危険性を手紙で私に訴えていたが支離滅裂でおおよそ常識的に肯定できる内容ではなかった。
こうして私は孤児になってしまった弟を守り愛そうと決心した事を善良な人々は決して責められないであろう。
ソーンは8つになり神学校へと入学する。奇異な見た目や愚鈍な言動で距離を置かれたりイジメ紛いの事をされるが私は可能な限り助けた。
ソーンには聡いところがあり、授業の質問には普段とは違い答えを知っているかのように澱みなく答える。
そうソーンには聡いところがあった。どの分野でも言えることだが「上には上が……」こちら流に言うならば「階段には先がある」
彼は巧妙に私を隠れ蓑にしながら邪魔者を消していった。教師一人、視察官を含む部外者3人、生徒3人。彼が神学校にいる間に起きた不審死や行方不明である。
時は過ぎ、私は晴れて神学校を卒業して高位神官になり、一年遅れてソーンも高位神官の席につく。
弟と離れての一年は新鮮なものであり、特に純朴な地方での司祭や民政は心地よさを感じるほどであった。
神学校を卒業したソーンは私の元に配属された。その年から三年間、奇跡的な豊作が続き、また私自身も七郡十五開拓村で起きた20日の奇跡に立ち会う事になり我ら兄弟は出世の階段を登り始める。
人生は努力と少しの才覚だと私は信じている。少なくともその二つの要素を否定できる方は物をあまり知らないか、余程強固な信念をお持ちなのだろう。
しかし、それだけだと断言できるほど私は畢竟でもないちょっとしたタイミングや中世故の非合理もまた存在するのだろう。
共に司教であった私とソーン。彼の方が先に枢機卿の席に付きそうだ。兄として祝福する。
……とかつて私はそう思っていた。コインの表側から裏の紋様が見えないように時に庇護下で、時に兄弟や同じ神官として肩を並べて見た弟と一枢機卿として下から見上げた枢機議長であるソニー・エンダイムは違う。アレは化け物だ。
非科学的な理で12の屍を積み上り詰めた。真っ白い肌、醜く太り、邪悪な容貌をした化け物である。
アレが枢機議長に就任した際、私は全ての職務、親族友人を投げ出して教都から逃げ出した。そして片田舎の誰も知らない。敬虔な信徒が私に送ってくれた古城。
秘密の別荘にしている城の塔でこの手記を記述している。先程から木の扉を叩く音がずっと外から聞こえてくる。ああ、神よ。お助けを……うゔぁあああああ!! アーアアァァ!!!
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史実によれば、エンダイム1世は教皇急死後、臨時教皇として即位。周辺諸国を併呑し神聖帝国を築くが、彼の死後神聖帝国は瓦解。神聖帝国の影響下にあった大陸全土は6世紀もの長い暗黒時代が訪れる。
エンダイム1世の兄、及びその手記については存在した事すら歴史に残されていない。
fin.




