目覚め
空高い場所、星が輝く場所で、一人の女が助けを求めている。
「誰か、彼を止めて」
女神のような女。
伸ばした手の指先から一滴の光が落ちる。
その光は地上への落ちる。
女はその光が救いの光となり戻ってくることを願い、眠りについた。
その光が落ちた場所の近くに村があった。
そこにはリューイという少年がいた。
俺は村の人間たちが大嫌いだ。
いつも何か悪いことがあると全部俺のせいにする。
畑が荒らされた、誰かが泣かされた、何かが無くなった。
全部俺のせいだとさ。
確かに俺は行儀がいいほうじゃないけど、両親がいないから一人で強く生きる必要がある。
多少強引なこともするさ。けど悪いことはしない。死んじまった母さんと約束だからな。
暑い日差しの中、リューイは土まみれになりながら、手で土を掘り返す。
今何してるかって?
俺はいま畑を掘っているところ。
芋を育てるためにな。
村のやつらに文句を言われないように少し村から離れた場所に畑を作る。
まあ俺の家の近くだし世話のしやすいしな。
そうそう、別に味方がいないわけじゃない。
100人ぐらいの村の中、一人だけ俺のことを嫌わない女の子がいる。
俺と同じ年の10歳のエレナだ。
いつもリューイ、リューイと口うるさいけど、悪い奴じゃない。
まあ良いやつっていうわけでもないけどな。
そんな話をしていると遠くから女の子がやってきた。
その女の子は長い黒い髪を後ろでまとめ、胸元にはネックレスが光っている。
エレナだ。
「リューイ、こんなところに畑作って本当に芋が育つの?」
「どこでやっても一緒だからな。家に近いほうが便利だし。」
「ふーん。あ、今日のこと覚えてるよね?」
「なにが?」
「お祭り!」
「あー」
リューイはだるそうに答える。
「私が踊るんだから、絶対見に来てよね!」
「わかったよ」
「絶対だからね」
エレナはよっぽど来てほしいのか、何度も念押しする。
「畑の準備ができてたらな」
「もうっ!」
こんな感じのやり取りをいつも二人はしている。
ただ今日は年に一度の祭りなので、少し様子が違う。
俺が祭りに行ったところで金もないし、おもしろいことないからなー。
まあエレナの踊りくらいみてやるか。
「失敗して転ぶなよ」
「そんなことしないもん!」
エレナは怒りながら村のほうへ帰っていった。
エレナ、悪い奴じゃないんだけどな。いつもうるさい。
と、リューイが何気なく空を見ると少し天気が悪くなってきた。
こりゃ雨かもな。
そんなことを考えながら畑作業を続けていた。
作業が終盤に差し掛かってきたとき、何か硬いものが出てきた。
「なんだこれ」
リューイはその硬いものを手に取り土を払っていく。
「腕輪?」
それは軽いが頑丈そうな作りの腕輪だった。周りはシンプルな紋様が彫られている。
「ラッキー」
リューイは何気なく腕輪をはめた。
とその時、けたたましい爆発音が村のほうから聞こえてきた。
「な、なんだ?」
リューイは急いで村のほうへ走っていった。
リューイが村に着いた時にはあたり一面は火の海と化していた。
祭りの準備が進んでいたであろう村は見る影もない。
エレナは!?
リューイが村の中を進むと、広場には兵士のような恰好をした男たちがいた。
「お前たち!なにもんだ!!」
リューイが叫ぶ。
「あ?まだ生き残りがいたのか」
一人の兵士がこちらを見ながら言った。
その手には何か光るものがあった。
「そのネックレス!おまえエレナをどこやった!」
リューイは興奮しながら叫ぶ。
「ああ、村の連中ならここだよ」
兵士は笑いながら後ろの黒い山を指さす。
「おとなしくいうこと聞いとけば良かったのにな」
リューイは最初その黒い山が何かわからなかったが、よく見てなにかに気づく。
それは焦げた人の死体の山だった。
エレナが死んだ?嘘だろ、今日踊るって張り切ってたあいつが。
「まぁお前も死んどけ」
兵士は笑いながら、リューイの腹に槍を刺した。
リューイは体が熱くなるのを感じた。
それは刺されたことによるものではなく、先ほどつけた腕輪からなにかが体を巡っているようだった。
「お前らがやったのか、お前らが!」
リューイは腹に刺された槍をつかみ折る。
リューイの体が黒いものに包まれていく。
「お前ら全員殺してやる!!」
黒い獣となったリューイは強かった。
素早い動きで近寄り、驚異的な力で殴りつける。
兵士の攻撃は容易く避け弾き飛ばす。
数十人残っていた兵士を一瞬で倒した。
兵士たちが倒れ静かになった雨降る村で、いまだ興奮している様子の黒い獣。
黒い獣が天を仰ぎ吠える。
遠吠えは天を貫く。
手にはエレナのネックレスが握られており、吠え終えるとそのまま力尽きたように倒れてしまった。
遠吠えは遥か遠くにいる男のもとへも届いたようだった。




