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ゴカイ無双-unlimited "gokai"endless  作者: フラグメント水沢
第2章 支える者 管理栄養士

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第15話 静かな調整

ここはレイアノーティア。

完璧な整合に管理される世界。


完璧であるために——

世界は、うまくいき過ぎた瞬間から“直し始める”。



世界調停機構コンダクターズ・第二観測室


白い光と、音の少ない部屋。

水晶卓の上に、波形が並ぶ。


《G-ARD:バトル・ウォーデン》

安定。


《N-LESS:ネームレス》

周辺の線を僅かに曲げる。


そして、もう一つ。


《KMG:未確定》


ノインは記録を追った。


「——うまくいき過ぎている」


それは報告ではなく、調整余地のある口ぶりであった。

端で端末を抱えるリリカが、恐る恐る口を開く。


「倒れないですね。班の崩れが、思ったより——」


ノインは眉一つ動かさない。


「倒れないのが問題です」


リリカが息を止める。


「……え?」


ノインは淡々と言葉を続けた。


「本来ならこの補給が失敗し、拠点が崩れると帳尻が合うはずなのに」


水晶の波形が静かに揺れる。


「しかし踏みとどまり続けている。いえ踏みとどまってしまう」


リリカの視線が、《KMG》に吸い寄せられる。


「崩れない。正確には、崩れても“戻る”」


ノインの指先が、水晶卓から垂れ下がる糸をなぞった。


「この管理栄養士、対処が的確過ぎます」


「だから危険です」


ノインは即答した。


「本人が自覚しないまま、パワーバランスを崩している」


水晶卓に小さなログが浮かぶ。


――現地メモ

・ネームレスに対する評価の誤解、拡大

・同行者が立つだけで魔物が退く

・補給担当が想定以上の負荷を許容


ノインの指が、机を一度だけ叩く。



リリカが、ふと端末の過去ログを呼び出した。

指が止まる。顔色が変わる。


「……これ」


画面の端に、小さな記録が残っている。


《KMG類似波形:過去案件》

《結果先行/消耗の不自然な回復》

《処置:局所負荷/誤差分散》


リリカの喉が鳴った。


「……前にもありましたよね。似た事例が」


ノインは視線だけで続きを言えと促した。リリカは言葉を探しながら思い返す。


「数年前に管理栄養士が想定より隊の消耗を減らし、パワーバランスが崩れました。同一人物で間違いないです」


声が少しだけ震えた。


「この子、天才なのかもしれませんね」


リリカの指が、端末の縁を強く掴む。


「……料理人上位職の兄だけではこうなりませんでした。管理栄養士の妹が補給を補助することで、爆発的な回復が起きたようです」



調整ログ

・天候と工程のズレで負荷を大幅に引き上げ

・任務失敗


ノインが目を細める。

リリカの目が、《KMG:未確定》に戻る。


ノインは視線を落とした。


「また調整を入れる」


リリカの肩が跳ねる。


「直接干渉は……」


「不要」


即答。

だが、その次が続いた。


「環境だけを“重く”する。

 うまくいき過ぎる前提を、適正値へ戻す」


リリカが言葉を選ぶ。


「……負荷をかける方向ですか」


「そうです」


ノインは迷わない。


「少しだけ消耗を増やす。

 ——倒れない程度に、戻り過ぎない程度に物語を遅らせる。」


リリカが小さく呟く。


「ヴァルミオン領の補給を、失敗させるために?」


ノインは短く肯定した。


「その通りです」


肯定は、危機の合図でもある。



■調整プロトコル(局所)


対象エリア:街道〜中継拠点周辺

目的:前提(補給)の過剰強化抑制/噂拡大の鈍化(間接)

手段:遭遇頻度の微補正/休息回復量の分散/偶然の偏り修正

備考:致命率は上げない。だが“戻り過ぎない”ように削る。




同時刻、街道で、ほんの少しだけ風向きが変わる。匂いが変わり、土が乾き、茂みが擦れる。


誰も気づかない程度の差だった。

だがその差は、“次の一匹”を呼ぶには十分だった。


ガルドが前を見て、呟く。


「……また来ます」


コムギの手が、荷の紐を握り直す。

昨日より少しだけ強く。


トンヌラは腕を組んだまま、喉の渇きを飲み込む。


理由は分からない。だが明らかに雲行きが怪しかった。


(話違くないか)



ここはレイアノーティア。

修正はいつも、派手に始まらない。


風が一度、向きを変える。

それだけで、“うまくいき過ぎた日常”の呼吸が変わる。



第15話 了

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