第9話 知らない余罪
「こ……これは……!!」
中身を見て厨房の下働き人が驚愕の声を上げる。それを聞いてクリスティアンも木箱の中身を覗き込んだ。
「な、なんだよこれ!石がビッシリ詰まってるじゃねえか!どういうことだ!?おいお前!なんでこんなもんが詰められてるって気付かずに受け取ってんだよ!」
クリスティアンが厨房の下働き人を詰める。
「ヒッ!お、俺は何も……!中身の確認は料理長のガストンさんが行っていて、俺はただ受け取りを任されただけで……!」
「──ガストン?」
クリスティアンがピクッと反応する。クリスティアンが厨房を振り返るのにつられて、ミリアムも厨房を振り返った。
すると御者のものとは比べ物にならないほどの虹色の光が厨房から漏れ出し、そこから糸がはみ出ているではないか。
「クリスティアン兄さま、行きましょう!」
「お?おう。」
ミリアムの勢いにおされて、厨房に走るクリスティアン。
厨房にたどり着くも、そこには料理人たちがせわしなく動き回っているだけで、虹色の光を放つ人間はいなかった。
だが強く光る糸は、ゆらゆらと空中を漂いながら、先へと続いている。
「……クリスティアン兄さま、この先には何があるのですか?」
ミリアムが指を指す方向を見るクリスティアン。
「……この先?たぶん、倉庫だな。食料なんかを保管してるんだ。」
「そこです!急ぎましょう!」
「あっ、おい待てって!」
倉庫に近づくにつれ、虹色の光が強くなる。
その頃倉庫の中では、ガストン料理長が在庫の検品を行っていた。
高価な調味料や食材が、在庫簿には「仕入れ済み」とあるのに、倉庫の棚には存在しない。
だがガストン料理長は、使用にチェックを入れて、検品を進めていく。
「クリスティアンお兄さま。」
「シッ。」
それを外から覗くミリアムが、クリスティアンに声をかけると、クリスティアンが声をひそめるよう、人差し指を唇に立てた。
その時倉庫の扉が開き、料理長のガストンが、汗だくで大きな木箱を台車に乗せて運び出すところだった。
箱には丁寧に「コショウ、納品日◯/◯」と書かれたラベルが貼られている。
「ふう……やれやれ、まさか箱を確認されるとはな。今なら他に誰も気づいていない。早くこれをなんとかしないと……。」
ガストンは独り言を呟きながら、木箱を台車に乗せる作業を繰り返している。使用人たちは他の作業に集中しており、1人倉庫で働く彼の動きにあまり注意を払っていない。
クリスティアンが、ちょっと待ってろ、と言ってどこかに走っていった。
ガストンが台車を運ぼうと押した瞬間、ミリアムが腕組みしながら立ちふさがった。
「どこに行くつもりなの?」
「ミ、ミリアムお嬢さま……これを厨房に運ぶところです。なにゆえこのようなところに?遊ぶなら危ないですからもっと別のところで……。」
「厨房ですって?方向が逆みたいだけど?」
「そ……それは……。」
「それ、ずいぶんと重たそうね。中身を確認させてくれない?」
「いえいえ、それはわたくしめの仕事ですので。」
「確認させなさいって言ってるのよ。私の言うことが聞けないの?それとも見られたら困るものが入っているから?たとえば……コショウの代わりに、石、とか?」
「くっ……!どうして気づきやがった!こうなったらお前を人質にして逃げおおせてやる!」
ガストンがミリアムに掴みかかり、腕を掴んでグイッと持ち上げた。
糸を掴んで自白させようとしたミリアムは、痛さに思わず悲鳴を上げる。
「く……この……!」
反対側の手で糸を掴もうとするも、その手ももう片方の手で掴まれてしまった。
「おい、何やってんだ!ミリアムをはなせ!」
そこにクリスティアンが、私設騎士団を連れて戻ってくる。
私設騎士団により、ミリアムが奪い返され、クリスティアンはミリアムを後ろにかばった。
「ガストン!その箱妙に重そうな箱を自分の手であけろ!」
ガストンは慌てて箱を抱え上げようとするが、重すぎてよろける。
「ち、違う!これは特別な重たい瓶に入っているので……!」
その慌てふためく様子が、決定的だった。
ガストンが往生際悪く必死に阻止しようとする。
「ダメです坊ちゃま!中身が傷んでしまいます!わたくしが明日ちゃんと確認を……!」
「誰かそれを開けさせろ!」
剣と槍を突きつけられ、動きを封じられたガストンが、切先を向けられたままそれで少し突かれると、ヒッと悲鳴を上げて、恐る恐る木箱の釘を抜いて蓋を外した。
「……やっぱりその中も石か。今までずっとこうやって、食費を着服してやがったんだな。このままですむと思うなよ?」
クリスティアンにそう宣言され、ガストンは膝をつき、震える声で弁解を始めた。
「お、お願いです……家族が……子どもが病気で……!」
「お前は独身だろう、ガストン。」
私設騎士団の兵士の1人が、呆れたようにそう言った。
「は、母が……!病気の母が……!」
クリスティアンは勝ち誇ったように腕組みしながら胸を張った。
「やっぱり!俺の勘が大当たりだったぜ!ミルクやパンなんて盗まなきゃ、俺に気付かれることもなかったのにな。」
「ミルクとパンですって?それは私じゃありません。私は高級品にしか手をつけていませんので。」
「話は取調室で聞く。おい、立て!」
騎士団に引きずられて、ガストンが立ち去る中、ミリアムはガストンの最後の言葉が気になっていた。
昼食の時間、クリスティアンは鼻高々にガストン捕縛の経緯を語ってみせた。
「調味料ごときで、あれほど馬車が沈むはずがないだろ!馬車の車輪が泥にめり込んでたの、俺見たんだよ!」
「それは凄いね、クリスティアン。」
淡々とそう言うアレクシス。
「お前がそんなに聡明だとは知らなかったな、クリスティアン。」
珍しくローゼンハイデン公爵に褒められ、クリスティアンは嬉しそうにへへっと笑った。
別に自分の手柄にしたかったわけではないが、もともと見つけたのはミリアムだったので、クリスティアンお兄さま、調子に乗ってるわね、とミリアムは思っていた。
「けどよ、ガストンの奴がおかしなことを言っていたんだ。俺があいつの犯罪に気付いたのは、厨房からミルクやパンが盗まれたってことだったのに、ガストンがそれだけは知らないって言ったんだよ。」
「少しでも余罪を減らそうってことなんじゃないの。犯罪者の言うことなんて、聞く必要はないよ。」
ミリアムは、そう言ったアレクシスの周囲に虹色の光がまとい、1本の糸が揺れているのを見つけて目を見開いた。
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