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悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第6話 加護縫いの力②

 そこに侍女長が入室を求めてきた。

「入りなさい。」

 すると侍女長がスッと包装された小さな包を差し出してきた。


「これは?」

「最近の体調を案じて、お嬢様からの贈り物です。」


 包装をといてみると、美しいハンカチだった。

「これをミリアムが……?」

 とても5歳の子どものやったこととは思えない仕上がりだ。恐らくメイドにでも手伝ってもらったのだろうと思った。


 ローゼンハイデン公爵は、娘を問題児と見なしていた為、とても刺繍が出来るとは思っていなかった。


 だがハンカチを広げてみると、その刺繍の美しさに息を飲んだ。これほどの刺繍が出来るのでれば、貴族のメイドとして働かずに、刺繍を売って生計をたてたほうがよほど儲かると思えるレベルだった。


 公爵として数々の工芸品を見てきたが、これほどのものは珍しい。すっかりハンカチが気に入り、何気なくポケットにしまった。


 変化はすぐに現れた。咳が出そうになった時に取り出して口に当てた瞬間──温かな光が体中に広がった。


 咳が不思議と収まり、胸の痛みがスッと軽くなる。息がとても楽だ。長年苦しめられていた苦しさが、霧が晴れるように消えていく。


「これはいったい……?」

 ジョスランはハンカチをまじまじと見つめた。刺繍からかすかな魔力の残滓を感じる。


「まさか、加護縫い?」

 この国に加護縫いの使い手はいない。加護をたまわれる人間がいないからだ。


 だが、以前加護縫いであれば、この体調不良を改善させられるかも知れないと聞いて、従者に調べさせてはいた。しかし、ルーパート王国は、自国の人間以外に加護縫いを使わせることをよしとしていなかった。


 加護縫いは軍事転用可能な力だ。体調を治す加護も、戦場の兵士に持たせれば回復役いらずとなり、身体強化であればどこよりも強い戦士が出来上がる。


 加護縫いの力で大国となったルーパート王国としては、その力を外部に持ち出されることで、他国に有利に働くことを恐れたのだ。


 だから手に入れることは難しかった。だがこれは、噂に聞く加護縫いなのではないか?ローゼンハイデン公爵はそう思った。


 翌朝、ジョスランは久しぶりに咳き込まずに目が覚めた。体が軽い。朝、いつものように体調を確認しにきた医者にも、今日は体調が良さそうですな、と言われるほどだ。


 執務室に侍女長を呼び出して尋ねた。

「あのハンカチは、本当にミリアムが作ったのか?どこかから購入したのではないのか?購入したとしたなら、いったいどこから?」


「いいえ、公爵様。お嬢様は最近、刺繍に没頭しておられまして、確かにお嬢さまがお一人で作られたものでございます。……体調を心配されて、と。」


 ローゼンハイデンは黙って目線を落とした。うろ覚えの娘の顔を思い浮かべる。生まれた頃は可愛らしい子だったのに、いつからか従者たちに手に負えない子どもと言われ、距離できてしまった。


 食事をともにすることがない為、顔すらうろ覚えなことに気が付いた。

 数日後、ミリアムが庭のガゼボで刺繍をしていると、珍しく父親が現れた。


「お父さま?」

「うむ……。」

 ローゼンハイデン公爵は少し照れくさそうに、ミリアムの前に立った。


「ミリアム……ハンカチをありがとう。体が……とても楽になったよ。」

 ミリアムは驚いた。父親が自分から話しかけてくるなんて、過去を通じて初めてだ。


「父さま……良かったです。咳、どうですか?」

「ああ、もうほとんど出ない。これはお前が作ったのか?素晴らしい刺繍だ。……教会に調べてもらったよ。祝福が込められているようだな。」


 ローゼンハイデン公爵は穏やかな笑みを浮かべた。冷たかった視線が、優しく変わっている。


「祝福、ですか?よくわかりません。私はただ、父さまがいつもハンカチで咳をおさえていると聞いて、ハンカチを作って差し上げたくなったのです。貴族の令嬢が初めてさした刺繍には、力が宿ると聞きましたので……。」


「確かに素晴らしい力が宿っていたよ。教会の祭司たちに言われた。相手を思う力が、加護や祝福を宿らせることがある。それが加護縫いなのだと。」


 ミリアムは不思議そうにじっと父親を見つめていた。

「令嬢が初めてさした刺繍に力が宿るというのは、そこからくるエピソードなのだと。あなたの娘はあなたを愛しているのでしょうと。」


 ローゼンハイデン公爵は涙ぐんでいた。

「……すまなかった。これまで、お前をきちんと見てやらなかったようだ。噂に振り回されて……。」


 ミリアムははからずも胸が熱くなった。涙がこみ上げそうになるのを、ぐっとこらえつつ微笑んだ。

「父さまが元気になってくれて、私も嬉しいです。」


 ローゼンハイデン公爵はミリアムをぎこちなく抱き上げた。

「これからは、もっと話そう。お前は私の大切な娘だ。」


 アリアドネが傍らで喜びのダンスを踊っていた。

「やったッピ!ミリぽむの加護縫い、すごいッピ!家族の絆の回復を、いつ込めたッピ?」


 そんなものは込めてはいないが、この加護のおかげで、将来悪女と呼ばれる可能性を減らせるかも知れない。


 ミリアムは思った。ローゼンハイデン公爵の態度が変われば、屋敷全体が変わる。他の家族たちも、きっと。今度こそ、幸せな人生を築けるかも知れないわ、と。



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