第42話 アレクシスのお仕置き
その頃、フィリップ王子は従者に抱えられたまま、まるで獲物を運ぶ猫に捕まった子ネズミのように王宮の廊下を運ばれていった。
そして自室に連れ戻されるや、すぐに王族専用通路を使って抜け出して、第一王子ユリウスの私室へと向かった。
扉が開いた瞬間、そこで紅茶を飲みつつチェスをしていたのは、兄である第一王子ユリウスと、氷の彫像のような無表情のアレクシス・フォン・ローゼンハイデンだった。
テーブルの上には、当然のようにミリアムが赤ん坊の際に描かれた、小さな肖像画を乗せていた。ユリウス王子も慣れたもので、特に気にした様子はなかった。
「アレクシス!お前に用事がある!」
「僕に……ですか?なんでしょうか、フィリップ王子殿下。」
「お前の妹をよこせ!俺がもらってやる!」
そう指をさされて、ピクリと無表情に反応するアレクシス。
「フィリップ殿下。妹をよこせとおっしゃいましたか……?」
アレクシスの声は氷点下以下。紅茶のカップを持つ手さえ凍りつきそうな冷たさだ。
「そうだ!お前の妹を今すぐよこせ!俺が貰ってやるって言ってんだから、ありがたく思えよ!ブスだけどな!ブスだけど!」
アレクシスは一瞬だけ、眉をピクッと動かした。それはまるで『今、地上で一番聞きたくない単語を2回連続で言われた』とでも言いたげな顔だった。
「……ブス、ですか。ブス……ねえ。」
「そうだよ!でも顔は我慢してやるって意味だ!俺はあいつを気に入ったからな!」
腕組みしながら宣言するフィリップ王子。
部屋の温度が一気に急降下した。ユリウス第一王子はソファに優雅に座ったまま、紅茶を一口啜ってから、にこやかに言った。
「アレクシス。好きにしていいぞ。……むしろ、やってくれ。あれはちょっと、甘やかされ過ぎている。一度きちんとわからせてやらないとな。」
「ありがとうございます、殿下。」
アレクシスは無表情のまま、懐からハンカチを取り出した。それに魔法を唱えだす。
するとハンカチは氷をまとった縄となり、フィリップ王子へと向かって行った。
「な、なんだ!?何する気だ?やめろって!離せ!うわあああああ!!」
次の瞬間、フィリップの身体の周囲を、氷の縄がトルネード状態で回転していく。魔法をまとったハンカチの縄は、グルグルとフィリップ王子を拘束していく。
「たっ!助けてくれ!ユリウス兄さま!」
「……あとで反省文を書くときに便利なように、手先だけは出してあります。」
「そいつはいいな。」
アレクシスは淡々と説明しながら窓辺へ。そして、グルグル巻きにしたフィリップの体から伸びた縄をハズレないよう窓枠に固定し――するりと外側へ放り出した。
「うわああああああああああああ!!!」
フィリップは王宮の窓から吊るされた。足をジタバタしながら、涙と鼻水が飛び散る。
「落ちるぅぅ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅ!お母さま!ユリウス兄さま!誰か助けてくれぇぇぇ!!」
ユリウスは窓から身を乗り出して下を覗き、ため息をついた。
「……アレクシス。さすがにやりすぎじゃないか?仮にも王族だ。安全ってものがだな……。」
「わかってますよ、殿下。ちゃんと下にガードを張ってあります。」
アレクシスが指をパチンと鳴らすと、フィリップ王子の体の下に、透明な氷の足場が何層にも重なって出現した。
陽光に反射してキラキラ光って見えるが、遠目にはほぼ見えない。万が一落ちても、せいぜい「ぺたん」と尻餅をつく程度だ。お尻は冷たいかも知れないが。
「フィリップ殿下は焦っているので、気付かないようですがね。」
ユリウスはくすくす笑いながら頷いた。
「確かに。フィリップは痛い目を見ないとわからない子だ。こんなことをこいつにするのは、僕かアレクシスくらいのものだと言うのに、本当に学習しないな。」
窓の外では、フィリップが絶叫を続けている。
「うわぁぁん!怖いよぉ!もう嫌だぁ!ブスって言ってごめんなさいぃぃ!」
「紅茶のお代わりを貰えるか?アレクシス。」
「かしこまりました。ユリウス殿下。」
アレクシスは冷ややかに呟きながら、紅茶のお代わりを淹れ始めた。
「あと5分吊るしておきますか?それとも10分にしましょうか?」
「そうだな……もう少しで静かになるだろうから、それまで吊るしておこうか。」
「了解しました。では、15分コースで。」
二人は優雅に紅茶を啜りながら、窓の外でぶら下がって号泣する第三王子を眺めた。フィリップの泣き声が王宮内に響いていたが、誰もユリウス第1王子に口出ししてまで、フィリップを助けようとは思わないのだった。
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