第41話 消された記憶
「でも、あんな言い方したら、あの子はあなたを誤解したままヨ?」
「いいんだ。とりあえず、フィリップ王子との婚約を防げれば。」
ランディー王子は手のひらを伸ばして、その指先をじっと見つめる。まるで何かその先にあるものを掴もうとするかのように。
「……ミリアムは、ずっとフィリップ王子の婚約者だった。更に今は加護縫いの聖女になってしまった。他国の貴族は、その国の王族に婚姻を申し込む優先権があるからね。」
「あなたの国と縁続きになるメリットをぶらさげないト、普通ならますます婚約させられちゃうでしょうネ。あなたの兄弟たちモ、みんな欲しがるでしょうからネ。」
「前世では学生時代まで、婚約は実行されなかったけど、今の彼女なら、このままだと6歳の時に行われたっていう、婚約者探しのお茶会で、確実に婚約者になるだろう。」
「それはよくないとは、私も思うワ。……あなたの命の為にも、聖女には近くにいてもらわないといけナイ。それには婚約が一番ヨ。それはそうなんだケド……。」
「彼女を守るためには、フィリップ王子と結婚させるわけにはいかない。」
ランディー王子は、伸ばしていた手のひらを、ギュッと空中で掴んだ。
「婚約させたら、確実に前世と同じことがまた繰り返される。婚約さえしなければ、恐らくミリアムは狙われない筈だ。」
「フィリップ王子のワガママを、国王は許さなかったものネ。だからあんな強硬なマネをしたんでしょうケド……。」
「……本当に、よくもあんなおぞましいマネが出来たものだよ、フィリップ王子は。──あんな女のどこに、ミリアムをあんな目に合わせる価値がある。」
「それは人の価値観だカラ、私にはなんとも言えないワ。」
パイドラーはふるふると首を振る。
「だけど自分の対面を保つ為に、婚約破棄の理由を作って、すべてをあの子にかぶせたのワ、アテナさまの祝福を受けられなくなったのモ、納得だとは思ったワ。」
それデモ……とパイドラーは目線を落とした。
「まだ僕がミリアムを聖女に選んだことが、納得いかないの?僕は彼女じゃなきゃ駄目だって、あれほど言ったじゃないか。」
「──あなたが愛した人間しか、聖女にすることは出来ナイ。それは女神アテナ様が決めたことヨ。だからあの子が聖女になるのは別に構わないケド。あなたに感謝のひとつもないことが、悔しいのヨ。」
「……君のその気持ちには感謝してるよ。だけど、彼女の記憶を改ざんすることは、僕自身が望んだことだ。彼女がそのことを覚えていなかったとしたって、それは彼女の責任じゃない。」
「それでも、愛していたなら、覚えている筈だワ。私はそうオモウ。薄情よ、あの子ハ。どうしてあなた1人が、苦しまないといけないノ。あの子に恨まれてマデ。」
「恨まれてるかな?」
「あなたが幸せな記憶を植え付けて、それを突然奪ったんですモノ。それはそうなんじゃナイ?事実そう言ってたじゃナイ。」
「でも、半分は本当なんだけどな。」
ランディー王子が苦笑する。
「あの子の人生に、あなたがいないっていうところ以外はネ。」
「覚えていたって苦しむだけの記憶を消す為には、僕がいたら都合が悪かったんだよ。整合性を取る為には、仕方がなかったんだ。」
「でもきっと、彼女はあなたの我がままに付きあわされただけだと思っているワヨ。あなたに巻き込まれテ、あなたの為に強引に聖女にされテ、幸せだった時間を巻き戻されたんダ、ってネ。」
「巻き込んだ……か。確かにそうだね。だけど、僕の聖女にして、アテナ様の加護を与える以外で、僕に彼女を取り戻すすべはなかった。僕は彼女を巻き込んだことを、後悔はしていないよ。」
「あなた自身の為に、聖女が必要だったおかげデ、あの子にも加護が与えられタ。それで救われた命だって言うノニ……。」
「それは今の彼女が知らない事実だ。」
「もっとあなたに恩を感じるべきだワ。だってあの子の本当の死因は毒──。」
「──パイドラー。」
鋭い声で、ランディーがパイドラーの発言に声をかぶせて静止する。
「……隠してもいいケド、あの子の能力のひとつは、『嘘のほころびを見抜く力』ヨ?」
「わかってるさ……。もしも見抜かれてしまったら、彼女を苦しめることになる。だから気付かれるわけにはいかない。」
「アナタ、もしもこのママ、あの子に愛されなかったとしテモ、それでいいノ?」
パイドラーが心配そうにたずねる。
「もしそうだとしても構わない。とにかく婚約をすすめて、彼女を守れる立場を作ることが最優先だ。気持ちはその後でいい。」
ランディー王子は苦笑したような笑みを浮かべた。
「……もしもそれで愛されなかったとしても、それでいい。」
「今からでも他の人を好きになれないノ?あなたをちゃんと愛している人ヨ。そうすれば、他の人に力を移すことが出来るワ。」
「……無理かな。他の人を巻き込む気はしない。巻き込んででも一緒にいたいと思えない。恨まれてでも、生きていて欲しいのも、ミリアムただ1人だけだ。」
それに、とランディー王子は続ける。
「彼女をあんな目にあわせた人間を、僕は許しはしない。アテナさまが、たくさん時間を戻してくれたんだ。彼女の名誉も、命も、僕はすべて取り戻す。……絶対にね。」
ランディー王子は馬車のシートに寝そべると、天井を見つめながら、今度こそ必ず犯人を見つけ出す、そう呟いた。
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