第37話 巻き戻りの秘密
「聖女を妻にめとるのは、王族の役目ですので。当然のことです。」
「……ですがそれでは、あなた様の願いは叶わないのでは?」
ランディー王子は、命を狙われてお忍びで逃げてきたと言っていた。それに、王位継承争いに巻き込まれたくないとも。
フィリップがそうであったように、聖女を配偶者に迎えるということは、一番の後ろ盾を得るということだ。すなわち、王位継承戦の最前列に立つということ。
「少し、ミリアム令嬢と話して来てもよろしいでしょうか?」
ランディー王子が言う。
「ええ。もちろんですわ。」
まるでこの場が王妃主催のお見合いであるかのように、王妃さまはにっこり微笑んで、王妃主催のお茶会の最中に席を立つという無作法を許した。
「ミリぽむ、大丈夫だッピか?」
アリアドネがコソコソとミリアムに耳打ちをする。
「王宮の中だし、そこここに兵士がいるもの。何かされたりはしないでしょ。ランディー王子だって、今の私とそう年齢だって変わらないんだし。」
そう言って、ランディー王子の後をついて、ガゼボの段差を降りようとした。
ランディー王子が手を差し出してエスコートしてくれる。
ミリアムはランディー王子に手を引かれ、王宮の庭園を歩いていた。慣れた仕草のエスコートに、ランディー王子が幼児であるということを忘れてしまう。
人目を避けるように、迷路のような生け垣の中に連れてこられた。周囲に誰もいないことを確認するように、ランディー王子があたりを見回すと、ようやくため息をついた。
「──僕の国は、やがて荒れます。王位継承争いによって。」
ランディー王子が静かに言う。
「命を狙われて逃げて来たというのは本当です。ですがそれは、今ということではない。あなたが国を追われてルーパート王国に来た後の話なのです。」
ミリアムは目を見開いた。
「ランディー王子、あなた、もしかして……。知っているのですか?」
ランディー王子がこっくりとうなずく。
「はい。僕は人生を何度もやり直しています。そのたびに殺される。僕が死ぬと世界は巻き戻り、5年前に戻るのです。」
ミリアムは目を見開いた。巻き戻っていたのは、ランディー王子も同じだった。
「僕にはその時の記憶が毎回残っています。あなたもそうなのではありませんか?ミリアム令嬢。」
「はい、私も毎回5年前に巻き戻ります。そして記憶がいつも残っています。」
だが、恐らくは、巻き戻りの中心にいるのはランディー王子だ。
ミリアムの時間が巻き戻るのに、特にきっかけはなかった。いつも突然巻き戻る。
巻き戻った日が同じなだけ。だが、ランディー王子には自身の死というきっかけがある。今回だけはアリアドネが出てきたので違ったが。
「なぜ、今回だけはこの年齢なのでしょうか。ひょっとして、これが最後ということなのでしょうか。何か心当たりは有りますか?ランディー王子。」
ランディー王子が大きくうなずいた。
「はい。最初に僕が死ぬ前に、私の前に女神アテナが現れたのです。私の前に、私を守る聖女が現れると、予言したのです。」
「それが私だと……?」
「あなたの存在も、アテナが教えてくれました。そして、あなたにアテナの力をたくすには、あなた自身が何度も時をつむがなくてはならないと言われました。」
聖女を助けて、加護縫いの力が芽生えるよう、聖女をサポートするようにと、その時に言われたのだとランディー王子は告げた。
「だから1度目に巻き戻った際に、マダム・アビゲイルに頼んだのです。あなたを弟子に取り、刺繍を教えて欲しいと。僕はあなたの暮らす場所に工房を立てて、マダム・アビゲイルにそこに住んでもらいました。」
「マダム・アビゲイルとの出会いは、偶然ではなかったのですね……。」
だから1度目の人生にはいなかったのだ。
本来そこに工房はなかった。マダム・アビゲイルは通常王宮にいる人であり、わざわざミリアムの住む町に来なければ出会えなかったということだ。
「ではなぜ、前回の巻き戻りの前に工房がなかったのですか?私、マダム・アビゲイルを尋ねたのに、工房自体ありませんでした。」
「それは彼女に言われたからです。」
「──彼女?」
「私よ。」
そこに、レモンイエローのクマのぬいぐるみが突然空中に現れた。
「私はパイドラー。アリアドネの姉妹ですノヨ。女神アテナさまの眷族であり、従僕の精霊ヨ。」
「ア……アリアドネの姉妹!?」
「パイドラー!?なんでその子といっしょにいるッピ!?」
アリアドネが驚いている。
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