第36話 加護縫いの聖女
「間違いないよ。だって僕は、マダム・アビゲイルに頼んでいたからね。真の加護縫いの聖女たりえる可能性のある乙女のそばにいて、刺繍を教えてやって欲しいとね。」
「まさか……。」
マダム・アビゲイルが自分のそばにいて、刺繍を教えてくれたのは、ランディー王子の差し金だったのだろうかとミリアムは思う。
「布を手に取られてみますか、ミリアム嬢。何か反応があるかも知れません。」
マダム・アビゲイルにそう言われて、ミリアムは渡された布を手に取って見つめた。
確かに、そこには下絵すら描かれていない、空白のままのまっさらな布だった。
その瞬間、ミリアムの中で何かが弾けた。突然光りだすヤレフの布。
「こ……これは!?」
「いったい何が……。」
驚いてその光景を見つめている、王妃さまとマダム・アビゲイル。
【あなたが一番描きたいものは、何?】
ヤレフの布にそう問われたような気がした。ミリアムは少し考えて、静かに答えた。
「……家族と、友だちと、これから出会うかもしれない人たちを、守れるような……光の花園、です。」
すると、ヤレフの布から放たれた光が、まるで糸のようにうごめいて、勝手に布に刺繍が始まっていく。ガゼボに、かすかな光の粒子が舞い始めた。
「え?ど、どういうこと!?」
ミリアムがスキルを使おうとしたわけではない。縫製の妖精が手伝っているわけでもない。それなのに勝手に図案が仕上がっていく。ミリアムの心のイメージのままに。
アビゲイルの瞳が輝いた。
「素晴らしい。これが伝説の、加護縫いの聖女の力……!
「それは、加護の糸が共鳴し始めた証です!」
ランディー王子が叫ぶ。
王妃も、ランディー王子も、マダム・アビゲイル、静かに見守る中——光の粒子が糸の先から零れ落ちるように舞い、布の上に小さな花弁の輪郭を浮かび上がらせる。そして加護縫いは歓声した。
「殿下のお言葉を信じて、ここまで来て良かった……。私の人生の目標、願い。真の加護縫いの聖女を見つけるという目的は、今果たされました。ミリアム嬢、あなたは加護縫いの聖女です。」
「加護縫いの聖女は、運命をつむいで生まれてくるとされている。その意味がずっとわからなかったのですが、今日わかったような気がしています。」
ランディー王子がミリアムを見ながら言った。
「私が……聖女?」
ミリアムはキョトンとしていた。アンバスター王国の聖女はアイリーンだが、聖女と呼ばれる人間はその国ごとにいる。
何を聖女たらしめるかは、その国によって異なるのだ。ルーパート王国は加護縫い。アンバスター王国は雨乞いと豊作。
「ですが……もし私が加護縫いの聖女だとして、なぜ私なのでしょうか?私の一族に、ルーパート王国出身の人間は、家系図にもおりませんわ。」
貴族は家系図を大切にしている。それは自分たちの家と、王宮それぞれで保管されており、いつでも確認することの出来るものだ。
ルーパート王国出身の人間はローゼンハイデン公爵家にはいない。マダム・アビゲイルのように、ルーパート王国の血を引いている人間にしか発現しないものの筈なのだ。
「そのヒントは、ミリアム嬢のご母堂のご実家にありました。」
「お母さまの?」
「はい。メイベリン侯爵家の家系図を拝見させていただきました。マダム・アビゲイルのご母堂は、ルーパート王国のキルチャック大公家のご令嬢だったのです。」
「祖母はその昔、駆け落ちをしたのだそうです。私もルーツまでは知らなかったのですが……。聞いて驚きました。」
とマダム・アビゲイルが言う。
「そしてキルチャック大公家からはもう1人。娘がアンバスター王国に嫁いでいる。それがメイベリン侯爵家だったのです。つまりお二人は遠い親戚なのですよ。」
貴族の家系図で、母方の情報として載るのはその両親までだ。
ミリアムの祖父母がアンバスター王国の貴族として登録されていれば、それ以上の情報は、母方の家系図を見なければわからない。
「そしてキルチャック大公家は、ルーパート王国の王弟がおこした家です。つまり、おふた方とも、ルーパート王国の王族の血筋だということですね。」
「そのために、メイベリン侯爵家にいらしていたのですか?」
ミリアムはいぶかしく思って尋ねた。第一王子が直接調べるというのはおかしな話だ。従者をやって確認すれば済むことである。
ランディー王子はにっこりと、なんとも言えない微笑みを浮かべた。
「でも、私はアンバスター王国の人間です。いくら血を引いていると言っても、ルーパート王国の聖女にはなれないのでは?」
「ランディー王子は、あなたが加護縫いの聖女であった場合、婚約したいとおっしゃられているのよ。私もまさか本当に、ミリアム嬢がルーパート王国の聖女だなんて……。」
ミリアムの疑問に、王妃さまが頬に手を当てながら答える。
「婚約!?私とランディー王子がですか!?」
────────────────────
コンテスト参加中です。よろしくお願いします。
X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。




