第33話 予想外の人物
「ミリアム様……本当に、ありがとうございました。このご恩は……一生忘れません。」
ミリアムは柔らかく微笑んだ。
「いいえ、コリンナ様。あなたの優しい心を信じて結婚を決めたムードン伯爵のおかげですわ。応援したい気持ちになりましたもの。あなたがたが幸せになって下さるのなら、それでじゅうぶんですわ。」
コリンナ令嬢は少し照れくさそうに、しかし真剣に言った。
「あの……妹をご紹介したいのです。ミリアムさまと同い年なのです。一緒の学園に通う可能性がありますわ。もしよろしければ、妹とお友だちになってくださいませんか?」
ミリアムは目を細めて、優しく頷いた。
「もちろん。喜んで。」
ベールガールとして、姉のウエディングドレスのスカートを持ち上げて歩いていた幼い女の子が、おずおずと前に出てくる。
「アメリアです……はじめまして。」
よろよろとバランスを崩しながらもカーテシーをしてみせた。前世では、アメリアはビーイング侯爵令嬢とともに、ミリアムをいじめていた令嬢の一人だった。
冷たい視線、陰口、意地悪な笑み。記憶の中のアメリアはその印象しかなかった。でも今、目の前にいるアメリアは、純粋にミリアムへの感謝と、友情を求めて微笑んでいる。
……未来がまたひとつ変わった。ミリアムは胸の奥で、静かに実感した。ひとつの選択が、こんなにも多くの可能性の糸を、優しく繋ぎ直すことができるのだと。
「ぴう〜!」
「ミリぽむの作ったドレス、とっても綺麗だッピ!」
アリアドネと小さな妖精たちが、コリンナ令嬢のドレスの周囲で楽しそうに踊っていて、それを見たローゼンハイデン公爵家の面々が目を細めている。
あれから、ローゼンハイデン公爵と、ムードン伯爵の間で始まった事業は、国内外から引っ張りだことなっていた。
今や貴族の令嬢の間では、ミリアムの刺繍の入った品を身に付けることがステータスとなっていたが、ローゼンハイデン公爵も、ムードン伯爵も、ビーイング侯爵家にだけは、品物を売らなかった。
今や社交界でミリアムの刺繍を持っていないのは、国内広しといえども、ビーイング侯爵夫人だけとなった。
社交界の噂は早い。ミリアムを貶める為にビーイング侯爵夫人が画策したことも、証拠のないことではあったが、ローゼンハイデン公爵と、ムードン伯爵の態度により、事実として受けとめられている。
今やビーイング侯爵夫人は、なんとか第三王子フィリップの婚約者選定ティーパーティーに呼ばれようと、必死に周囲の貴族たちにとりなしを求める日々だ。
そんな中、ミリアムに一通の招待状が届き、それがローゼンハイデン公爵家を騒がしくしていた。
「王妃さまからの招待状……ですか?」
アンナソフィアから受け取った招待状を手に、ミリアムは困惑した表情を浮かべている。
「王子妃選定のティーパーティーは、うちであればまだお断りが出来るものだけれど、これは王家の強制力が強いものよ。行くしかないわ、ミリアム。」
アンナソフィアがそう言ってくる。
「はあ……なぜ私なのでしょうか?」
「まず毎年優勝していたオスマン伯爵夫人を破って優勝した実力。あなたのお父さまとムードン伯爵の共同事業とされているけれど、明らかにあなたの刺繍が使われている商品、そしてそれが社交界を牛耳っている事実。まあ普通にいつかお呼びがかかるだろうとは思っていたわ。」
そうあっさり告げられる。王妃さまとのお茶会は、フィリップ第3王子の婚約者だった時代にすら、一度も呼ばれたことがないのに、とミリアムはため息をついた。
「わかりました……断れないのであれば了承致します。」
「ごめんなさいね、ミリアム。でも、王妃さまはとても良い方よ。私の友人でもあるのだから。きっと楽しい時間になるわ。」
アンナソフィアがそう言ってニッコリと微笑む。そう、もともとアンナソフィアと現在の王妃さまは、学生時代にアンバスター王国の薔薇と百合と呼ばれ、仲が良かった。
いくら悪女の異名が高かったとはいえ、その親友の娘だというのに、息子の婚約者になったミリアムに、王妃さまは一度も会おうとはしなかったのだ。
会うのが少し怖いわね……とミリアムは思った。そしてお茶会当日。ミリアムは予想もしない相手が、お茶会のテーブルにいることに驚いていた。
「な……どうして、あなたがここに?」
「お久しぶりですね。ご令嬢。」
王妃さまとともに笑顔でミリアムを出迎えたのは、ルーパート王国第一王子、ランディーだった。
「あなたにご紹介したい方がいらしたので、無理を言って王妃さまに同席させていただいたのです。」
「紹介したい方……ですか?」
「わたくしも、ぜひともあなたに会わせたいと思っていたのよ。きっと驚くわ。」
王妃さまがそう言い、ガゼボの柱の影から現れた人物を見てミリアムは目を見開く。
「こちらはルーパート王国の裁縫師、マダム・アビゲイルよ。ルーパート王国の加護縫いの第一人者なの。」
「し……しょう……。」
それは前世でミリアムの刺繍が売り物になるよう、手ほどきをしてくれ、刺繍の師匠になってくれていた、マダム・アビゲイルその人だった。
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