第31話 レベルアップ!縫製の妖精をゲット!
「言いふらしてたのはやっぱりこの女で間違いなかったな!」
クリスティアンが腕組みしながらふんぞり返る。
つまり、刺繍を燃やす為に、メーラン子爵令嬢がアレクシスや警備兵を遠ざけたところに、ケース男爵夫人が来て、刺繍糸をずたずたに切り裂いた。
切り裂かれて糸がほつれて、むき出しになったことで、刺繍が燃やしやすくなった、という合わせ技だったらしい。
本来ならば糸がきっちり刺されている状態では、いくら燃えやすい素材が使われていても、布と同じで燃えるのに時間がかかるもので、火をつけてもすぐには燃えず、その間に人が来ていただろうということだった。
はからずも2人で共謀した状態になっていたのだ。そして火事に乗じてレックス男爵家のマリアンナ令嬢を名乗ったスリが、財布やブローチを盗んでいたわけだ。
ビーイング侯爵夫人は警備兵にとらえられ、アンナソフィアの前に連れてこられて、ふてくされた表情を浮かべていた。
「まさか、フィリップ殿下との婚約を有利にすすめる為に、私の娘をおとしめようとしたの?そんなことをしなくても、うちの娘は婚約を嫌がって、次のお茶会にも参加しない予定だと言うのに。本当に愚かね。」
アンナソフィアが皮肉っぽくフッと笑い、ビーイング侯爵夫人は最後まで、言いがかりはやめてちょうだい!と言っていた。
そして、取り調べの結果、メーラン子爵令嬢に頼んだ証拠が見つからなかった為、ビーイング侯爵夫人は無罪放免となった。
前世で嫌がらせをされてきたビーイング侯爵夫人を、この機会に追い詰められなかったのは残念だったが、ミリアムはなんとスキルがレベルアップした。
「ぴう〜!」
「な、なに?この子たち」
ミリアムの前に、帽子を被った、どんぐりに手足がついたような小さな可愛らしい生き物たちが、はしゃぎまわっている。
「この子たちは縫製の妖精だッピ!ミリアムの刺繍を手伝ってくれるッピよ!この子たちがいれば、加護縫いも、普通の刺繍も一瞬で出来るッピ!」
「へえ〜!すごい!これからよろしくね!」
「ぴう〜!」
「ぴうぴう〜!」
小人たちは嬉しそうにはしゃいでいた。
後日。刺繍大会の最終審査が終わり、ミリアムたちローゼンハイデン公爵家一家は、改めて会場へと向かった。火事が起きたとは思えないくらい、美しく整えられている。
会場に緊張した空気が満ちた。司会者の声が響く。
「本年度の刺繍大会大賞は……なんと若干5歳の、ローゼンハイデン公爵家、ミリアム・フォン・ローゼンハイデン嬢の作品、『建国神話』に決定いたしました!」
会場がどよめき、拍手が沸き起こった。ミリアムは胸に手を当て、ゆっくりと息を吐いた。前世ではここで疑いの目で見られ、悪女と呼ばれる道をすすんでいた。
でも今は違う。自分の刺繍が評価を変えるように輝いている。5歳だって?本当かな?という声も聞こえたが、大半はにこやかにミリアムに向けて拍手をしてくれていた。
「おめでとう、ミリアム!」
「やるじゃねえか!さすが俺の妹!」
アレクシスが抱きつき、クリスティアンが頭の後ろで腕を組んでにやりと笑う。
「まあ、当然の結果でしたわね。」
アンナソフィアが優雅に微笑み、ローゼンハイデン公爵は誇らしげにそれに頷いた。
表彰式の後、自宅に戻ると、あらかじめ先触れをよこしていたムードン伯爵が、メーラン子爵令嬢を連れてやってきた。
なぜかローゼンハイデン公爵の指示で、ミリアムも同席している。ムードン伯爵は深々と頭を下げた。
「ミリアム嬢、そしてローゼンハイデン公爵閣下。本日はお時間をいただき、ありがとうございます。このたびはコリンナが申し訳ありませんでした。改めて、お詫び申し上げます。」
メーラン子爵令嬢――コリンナは、ムードン伯爵とともに頭を下げた後で、顔を上げた歳、少し顔を赤らめて俯いていた。
先日の事件で、彼女の名前が騒がれたことは、まだ尾を引いているようだった。
だからてっきり婚約は破棄されるものかと思っていたが、むしろ結婚を早めることにしたのだと、ムードン伯爵は静かに、しかしはっきりと告げた。
「実は……私とコリンナは、結婚を決意いたしました。ビーイング侯爵家との縁を切る覚悟も、すでにできております。」
ローゼンハイデン公爵が眉を上げた。
「それは……大胆な決断だな。ムードン伯爵領は綿花の産地として知られているが、ビーイング侯爵家を通さず貴族に売るとなると、販路が大幅に狭まる。平民相手では値が付きにくく、海外への出荷ルートも……。」
「承知しております。ビーイング侯爵家を通さずに貴族に売ることは難しく、海外への輸出ルートも持ち合わせていないわが領は、今後収入が大幅に下がることでしょう。」
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