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悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第23話 何かを知っている王子

 ミリアムとクリスティアンが、森の小道を並んで歩き、別荘へと向かっていた。


 クリスティアンはまだ少し頰を赤らめ、受け取ったハンカチをポケットに押し込み、ミリアムから視線をそらしながらも、ポケットの中でハンカチの存在を確かめながら、やたらとそれを触りつつ歩いていた。


 ミリアムはそんなクリスティアンの様子をちらりと見て、ハンカチに触れていることに気づき、顎に拳を当ててくすりと微笑んだ。


「クリスティアンお兄さま、お顔が赤いですけれど、体調が悪いのですか?」

「う、うるせえ!日差しが強いだけだ!」


 クリスティアンが慌てて言い返すと、アリアドネが空中でぴょんぴょん跳ねながら、

「素直じゃないッピね〜!ミリぽむのこと、ほんとは大好きなんだッピ?」

 と、クリスティアンの顔を覗き込む。


「なっ……!」

「まあ、では早く家に戻って日陰に入りませんと。アリアドネ、あんまり人をからかうもんじゃないわよ。」

「お、おう……そうだな……。」


 少し大人びたミリアムに驚きつつも、これ以上いじられると爆発しそうだったクリスティアンは、黙ってミリアムと並んで歩いた。


 別荘に戻ると、玄関の前で心配そうな家族と、ランディーが穏やかな表情で待っていた。

 アンナソフィアは二人の様子を一目見て、何かを察したのか優しく目を細めた。


「まあ……仲直りできたのね。よかったわ、ミリアム、クリスティアン。」

「はい、お母さま。」


 ローゼンハイデン公爵も満足げに頷き、「ふむ。兄弟喧嘩は早めに解決するのが一番だ。これからは互いに支え合うのだ。」

 と穏やかに言った。


 アレクシスは腕を組んで、

「へえ、意外と素直に謝ったんだね、クリスティアン。」

 と軽くからかうが、顔は微笑んでいる。


 クリスティアンは「うるせえよ!」と返すのがやっとだった。

 ランディーは静かにその光景を見守っていたが、ミリアムが家族とともに室内に戻り、席に戻ると、ふと視線を合わせて柔らかく微笑んだ。


「ご令嬢、おめでとうございます。家族の絆が、また一つ強くなったようですね。僕の余計なひと言のせいで、友人を惑わしてしまったかと心配しておりました。」


「ありがとうございます、ランディー第一王子殿下。はい、以前より仲良くなるきっかけをいただけて感謝しております。」


 ミリアムが少し緊張しながら頭を下げると、ランディーは軽く首を振った。


「ここではただのランディーで結構です。それより……ご令嬢の刺繍、とても素晴らしいものだと聞きました。ぜひ拝見させていただけませんでしょうか?」


「俺が見せてやるよ!さっきもらったんだぜ、ほら!」

 そう言って自慢げにハンカチをランディーに手渡すクリスティアン。


「ほう……これはとても素晴らしいですね。まるで何十年間もの間、腕を磨き続けてきたような、そんな確かな技術を感じます。」


「あ……ありがとうございます。」

 ミリアムは少しギクリとしながら、そうお礼を言った。


「この、角に大きくひとつ、反対側に小さくひとつ、意匠を施すデザインは、最近ルーパート王国ではやりだしたのですよ。」


「そうなのですか?確かにこの国では見かけたことのないデザインですわね。」

 とアンナソフィアが言う。


「ご令嬢はルーパート王国のはやりをご存知だったのでしょうか?……それとも、この手慣れた感じは、まるで過去にお店を出したことがおありかのようだ。いや素晴らしい。」


 じっとミリアムの目を覗き込んでくるランディー。ミリアムは一瞬、息を呑んだ。


 ランディーの言葉は、ただの褒め言葉ではなかった。まるで、前世の刺繍店で何年もコツコツと刺繍をさしてきた日々を知っているかのような、微かな含みがあった。


 ミリアムは、確かに前世でランディーを見かけたことがあった。その時のランディーはルーパート王国の王太子だった。


 だがミリアムの店に来た記憶もなければ、どこかですれ違った記憶もない。


「……どうして、そんなことを?」

 ミリアムの問いに、ランディーは穏やかに目を細め、慌てて手を振った。


「いえ、深い意味はありません。ただ、ご令嬢の作品には、普通の子どもには出せない、経験のようなものが宿っているように感じたのです。きっと、刺繍の大会にでも出せば、誰もが目を奪われると思いますよ。」


「まあ、加護縫いとともに刺繍大国である、ルーパート王国の王子さまにそのように言っていただけるなんて。実は来月、ミリアムの作品を刺繍大会に出す予定なのですわ。」


「おお、それは素晴らしい。出来栄えが楽しみですね。」

 そう言ってランディーは柔らかな笑みを浮かべた。ミリアムは胸の鼓動を抑えながら、そっと目線を落として紅茶を飲んだ。


 ランディーは前世という言葉こそ口にしなかったが、その瞳の奥に宿る確信めいた光は、ミリアムを怯えさせた。


 ……ランディーは何かを知っている。少なくとも、ミリアムの過去に関する何かを。

 そう思わせるには、違和感じゅうぶんな雰囲気と様子だった。


「ありがとうございます、ランディー王子。わたくしも精一杯サポートいたしますわ。──あなたの作品ならきっと素晴らしいものが出来るわ。楽しみね。」


 アンナソフィアは笑って、ミリアムの頭を撫でた。ローゼンハイデン公爵も満足げに頷き、家族の会話はランディーを中心に、再び穏やかに流れ始めた。


「──またすぐに会おうな!ランディー。父さまが、僕らが遊ぶ許可を取ってくれるってさ!」

「もちろんだよ、クリスティアン。」


 ランディーをメイベリン侯爵家に送っていくことになり、ランディーとクリスティアンが、楽しげにそう会話している。


 玄関前で見送るミリアムに、ローゼンハイデン公爵が用意した馬車の前で、後ろ手をくんでこちらをじっと見るランディー。


 ランディーがミリアムに近付いてくる。

「な……なにか?」

 ランディーはミリアムに顔を近付け、耳元で囁いた。


「あなたはいつも、最初に蝶の刺繍をした小物を店に売られるのに、今回は蝶のモチーフを使わなかったのですね。」

「!?」


 ランディーはサッとミリアムから離れると、

「また、お会いしましょう、ご令嬢。その時は、ぜひミリアムと呼ばせて下さい。」

「え、ええ……。」


 謎めいた言葉を残し、ランディーはメイベリン侯爵家へと去って行ったのだった。





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