第22話 クリスティアンとの仲直り
「あれが見えるということは、私たちは神の祝福があるということなのでしょうか?」
アンナソフィアがランディーにたずねる。
「おそらくそれはご令嬢の祝福でしょうね。ただ、そこまで長い時間触れてこなかったことで、見られるほどにはならなかったのでしょう。ルーパート王国の王族は、生まれた時から女神アテナの祝福がありますから、精霊の存在が見られるのですよ。」
「ミリアムの刺繍がお父さまの病気を治せたというのは、女神様の加護によるものだということですか?ランディー王子。」
「そういうことになりますね。」
アレクシスの質問に、笑顔で答えるランディー。そこへ。
「みんな……なに言ってんだよ、精霊とか、祝福とか……。何言ってんだ?そこになにがいるってんだよ……?」
クリスティアンが恐れおののいたような、歪んだ笑顔を浮かべながら、皆が見ている空中を指さしていた。
「クリスティアン、ひょっとして君だけ、ご令嬢の祝福を受け取っていないの……?」
ランディーの言葉が決定だだった。
「くっ……!」
クリスティアンは踵を返すと、そのまま外に走り出て行った。
「待ってください、クリスティアンお兄さま!」
「ミリぽむ待つッピ!」
ミリアムとアリアドネは、慌ててクリスティアンを追いかけたが、7歳の男の子の足には追いつかなかった。
「アリアドネ、クリスティアンお兄さまを探してちょうだい!」
「任せるッピ!」
空中を飛んで追いかけていくアリアドネ。ミリアムは息を整えながら、迷子にならないよう、周囲の木々に傷をつけながら、アリアドネの後を追いかけた。
「──ここにいたんですね、クリスティアンお兄さま。」
膝を抱えて体育座りのようにしゃがみこんでいたクリスティアンは、後ろから声をかけられて振り返った。
「何しに来たんだよ。俺にだけ、祝福を与えなかったって、さっき聞いたぞ。お前、俺のことが嫌いなんだろう。」
「違いますよ、アレクシスお兄さまにも、何も差し上げてはいませんもの。むしろ私がいだたいたくらいですわ。」
「じゃあどうして……どうして俺にだけ、精霊とやらが見えないんだよ!?」
「クリスティアンお兄さまと、みんなとで明確な違いがひとつだけありますわ。」
「……なんだよ?」
「クリスティアンお兄さま自身が、私を家族として拒絶しているということですわ。」
「俺のせいだってのか?」
「女神の加護を得た私を家族として愛しているからこそ、アレクシスお兄さまには精霊が見えるのだとは思いませんか?絆がどうとか、ランディー王子がおっしゃっていましたよね?」
「だってお前が、俺のこと嫌いだろう。ずっと無視したし、いじめてもきたし。」
「まあ、面白くはなかったですね。でも、私はずっとクリスティアンお兄さまが好きでしたから、嫌われて悲しかったです。」
「嘘つけ。」
「嘘じゃありません。」
これは本当だった。なぜみんなが自分の言葉でなく、周囲の言葉ばかりを信じるのか。
どうして自分は家族から嫌われてしまうのか。ずっと悩んでいたことだった。家族に愛されたいと、ずっと思っていたのだ。
「犬を逃がしたことも、侍女に嫌がらせをしていたことも、侍女が言い張っていた嘘だとわかったじゃないですか。どうしてクリスティアンお兄さまは、私に冷たいままなんだろうなって、ずっと思っていました。」
ミリアムは、スッとポケットからハンカチを取り出した。剣とローゼンハイデン公爵家の紋章をデザインした、男の子向けのハンカチだ。
「私、ずっとクリスティアンお兄さまには、剣の才能があると思っていました。いつも私設騎士団にまじって稽古されていますよね?それを見ていたんです。」
「い……いつ見てたんだよ!内緒にしてたのに……!」
「どうにかして仲良くなれないかなって思って見ていました。クリスティアンお兄さまは私を観察していたつもりかも知れませんけど、私もクリスティアンお兄さまを観察していたのですよ?」
今世でこそしたことはないが、ミリアムは前世の幼少期、ずっと家族に話しかける機会を伺っていた。
話さえすれば、自分に対する誤解がとけるのではないかと思って。すべては無駄に終わってしまったが。
「これは、剣の腕の上達と、体を丈夫にする願いをこめてさした刺繍です。受け取って下さい、クリスティアンお兄さま。そして仲直りしましょう、私たち。」
「……ま、まあ、そこまで言うなら、もらってやるよ。」
そう言ってクリスティアンが照れくさそうにそっぽを向きながらハンカチを受け取ると。
「やったッピね!これで家族全員仲良しだッピ!」
「うわああああ!なんだこのピンクの変なクマは!!」
空中に浮かんで嬉しそうに飛び回るアリアドネを見て、腰を抜かしたような体勢のまま、指をさしているクリスティアン。
「ヘンじゃないッピ!アリアドネは女神アテナさまのしもべたる精霊だッピ!」
変だと言われてプリプリしているアリアドネ。
「ようやく受け入れて下さいましたね、クリスティアンお兄さま。私……嬉しいです。」
ミリアムは思わず涙を流したのだった。
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