第21話 アリアドネがみんなにも見えるように
「じゃあ、さっそくエントリーしておくわね、ミリアムの作品が楽しみだわ。」
アンナソフィアが幸せそうに笑った。ローゼンハイデン公爵も満足げに頷き、家族の会話は穏やかに続いた。
そこに次男のクリスティアンが、ただいまと入って来た。彼は興奮した様子で、背後に黒髪に赤い目の少年を連れていた。
「母さま、父さま!俺、友だちが出来たんだ。ランディーって言うんだ。」
それを見たミリアムは、ボソリと呟いた。
「──王太子?」
「ミリぽむ、あの子を知ってるッピ?」
アリアドネが、空中を漂いながら、不思議そうにミリアムに尋ねる。
「ええ……前世で……。」
それを聞いたランディーが、一瞬軽く目を見開いて微笑んだ。
「ランディー・ルガル・フォスターと申します。ルーパート王国第一王子ですが、残念ながらまだ王太子ではないですね。」
「あ……えっと、ごめんなさい、なんだかすごく立派な方だなと思って……。」
ミリアムは思わずごまかすように言った。
「メイベリン侯爵家で今はお世話になっております。メイベリン侯爵家の親戚である、友人のクリスティアンのご家族、ローゼンハイデン公爵家の皆さまがこちらにいらしていると伺い、ご挨拶に参りました。」
丁寧な言葉でそう告げる。
「……聞いていたか?」
「いいえ……。お兄さまに先触れは送ったけれど、そんなことはひと言も……。」
アンナソフィアと、ローゼンハイデン公爵が、互いに顔を見合わせてヒソヒソと話す。
大国、ルーパート王国の王子を預かっているなどという大事な話を、なぜか先触れを出したにも関わらず、アンナソフィアの兄、メイベリン侯爵が教えていなかったようだ。
何かわけありのようだと察したローゼンハイデン公爵と、アンナソフィアが、互いにコクッとうなずきあった。
「ようこそお越しくださいました。従者の方はどちらに?」
「お忍びなものですから、従者はおりません。庭で遊んでおりましたところ、御子息と遭遇しまして。親しくしていただきました。」
「そうでしたか……ではこちらの従者をメイベリン侯爵家におくって、王子をお預かりしている旨をお知らせいたしましょう。」
「それはご遠慮いただきたい。」
突然大人びた口調で言うランディー。
「こっそりと抜けて来たのです、知られるのはまずいので。……僕はあの家に閉じ込められてしまうでしょう。」
「しかし、そういうわけにも……。」
ローゼンハイデン公爵が困惑したように言う。王子を預かって何かあれば、ローゼンハイデン公爵家の責任だ。
平民がちょっと近所の子を預かるのとはわけが違う。ましていや今は別荘におり、本邸とは兵士の数も比べ物にならない。
何やらワケアリの王子さまの安全を保証するには、非常に心許なさ過ぎるのだ。
「どうしたの?アリアドネ。」
ミリアムは、突然サッと自分の後ろに隠れて、背中越しにランディーを見ているアリアドネを振り返って尋ねた。
「なんかさっきから、あいつと目があってる気がするッピ!僕のこと、見えてるんだッピか!?」
「え?まさか、そんなこと……。」
「──ところろで、ご令嬢は、女神のしもべたる精霊を連れているのですね。いるとは教わっていましたが、実際目の当たりにするのは初めてのことです。」
「!?」
にこにこと笑顔でそう言うランディーに、ミリアムは目を丸くした。
「精霊……?いったいなんのお話でしょう?」
ローゼンハイデン公爵が困惑しながら尋ねる。
「おや、ご令嬢は、ご両親にお話されていないのですね。まあ、普通は見えないのですから、下手に話しておかしく思われてもことですし、無理もない話です。」
「いったいなんの……。」
アンナソフィアも困惑している。ミリアムは汗をダラダラ流していた。
「皆さまに見えるようにして差し上げましょう。アテナの加護を持つものと、その加護を持つものに加護や祝福を与えられた人間であれば、その姿が見える筈です。」
「ランディー?」
クリスティアンが不思議そうに振り返った。
「アテナよ。我らを守護する神よ。我はあなたの忠実なるしもべ。その力、祝福でつながれし定めを可視化したもう。精霊を我が前に映し出し、その恩恵を眼前に示し給え。」
ランディーがそう唱えると、水をすくうように差し出した手のひらに虹色の光が集まる。そしてその光を空中に高々と上げたかと思うと、光がパーッと分散した。
一瞬まぶしくなり目を閉じる。そして再び目を開いた瞬間……。
「な、なんだ!?この生き物は!?」
「ぬいぐるみが浮いてる!?」
「いったいどういうことなの?」
家族たちが一斉に、アリアドネが見えるようになっていた。
「それは女神アテナの眷族である精霊です。女神より加護を授けられた人間をサポートする為に、周囲に漂うと言われています。」
「せ、精霊だって……?」
ローゼンハイデン公爵が目をしばたかせる。
「女神の加護を受けた人間か、加護を受けた人間から祝福や加護をたまわると、見られるようになると言われていますね。」
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