第20話 王子妃選定パーティーでの事件
ミリアムは、ぼんやりと、前世の記憶を振り返っていた。あの忌まわしい、第三王子フィリップのお后候補を集めたお茶会の日。
――華やかなドレスに包まれた貴族の娘たちが、親や侍女に付き添われる中で、フィリップの婚約者が決まるはずだった。だが、それはひとつの事件で流れてしまったのだ。
侍女の一人が、自身が不注意を装ってわざと倒したティーテーブルを、ミリアムがわざとやったと騒ぎ立てたのだ。彼女の叫び声が王宮の庭に響く中、ミリアムは一瞬にしてたちの悪い令嬢の烙印を押されてしまった。
ミリアム付きの侍女は、当時エレナだったので、当然かばってもらえなかった。なんならうちのお嬢様が申し訳ありませんと、エレナは人前で頭まで下げてしまった。
ミリアムは違うと訴えたが、複数の人間の証言があっては、当然聞き入れられるはずもない。しかもそのうち2人は大人だ。
小さい子が自分の粗相をごまかそうとしているのだと思われてしまい、たしなめられる始末。ミリアムが違うわ!と大きな声を出すと、怖がった令嬢たちが無き出してしまい、お茶会はお開きになってしまった。
それは聖女アイリーンが現れるまでは、最大のライバルとされてきた、ビーイング侯爵家の令嬢付きの侍女が、侯爵夫人に言われてやったことだったと、後にわかった。
第1王子の婚約者は、既に他国の王女に決まっており、第2王子の婚約者は別の公爵家の令嬢に決まっていた為、残る王子はフィリップだけであった。
だからライバルを早めに潰そうと、お母さまが画策して下さったのよね、と候爵令嬢自ら、学生時代に暴露してきたのだ。前門の聖女アイリーン、後門のビーイング候爵令嬢。
ミリアムはその頃にはもう己の運命を理解していた為、婚約を拒否していたが、ミリアムをうとんでいた家族としては、第三王子に恩が売れて、ついでにミリアムを追い出せるとあって、その婚約を受けてしまった。
お茶会に行ったからといって、必ず婚約が決まるわけではないが、避けられるのであれば避けるにこしたことはない。
「ミリアム、どうしたのです?そんなに難しい顔をして。子どもがそんな顔をするものではありませんよ。」
アンナソフィアの優しい声が、ミリアムの回想を中断させた。
ソファーに座るアンナソフィアが、心配そうに覗き込んでいる。ミリアムは慌てて微笑みを浮かべ、なんでもないと取り繕った。
まだ5歳の身体では、大人の頃の記憶が邪魔になることもある。
「なんでもないわ、お母さま。ただ、たくさん頑張ったから少し疲れただけです。」
「ふふ、クッキーをたくさん作ったものね。眠かったら寝てもいいのよ?」
「だいじょうぶです、せっかくお父さまとお母さまがたくさん時間が取れるのですから、もっといっぱいお話したいです。」
「そう?それなら、いいお話があるのよ。ミリアムも興味があるかもしれないわね。」
「いいお話……ですか?」
「貴族の女性なら誰しも大会で入賞することを夢見る、刺繍大会を知っているかしら?」
「刺繍大会ですか!?はい、知っています、もちろんです!」
貴族の女性しか参加を許されず、どれだけ刺繍の腕があろうとも、他人に評価してもらう機会がない平民として過ごしていた前世のミリアムにとって、その大会は憧れだった。
「ミリアム、あなた、来月王都で開催される刺繍の大会に参加してみる気はない?とても刺繍が上達したでしょう?」
「はい、してみたいです!」
「待て待て、アンナソフィア。ミリアムはまだ子どもだぞ。そんな大会に参加できるのか?年齢制限があるんじゃないのか?」
アンナソフィアはローゼンハイデン公爵の問いに、優雅に紅茶を一口飲み、微笑みながら首を横に振った。
「いいえ、年齢制限はないのよ。無記名で作品を展示して、来場者の投票で順位が決まるものなの。私は忙しくていつも参加したことはないけれど、才能があれば、誰でもチャンスがあるわ。ミリアム、あなたの作品なら、きっと注目されるはずよ」
ミリアムは内心で苦笑した。無記名とは名ばかりだ。
オスマン伯爵夫人の作品はあまりに頭一つ抜きん出ていて、誰もが一目で彼女のものだとわかってしまうのだから。
前世のこの時期の大会で、毎年受賞していたのはオスマン伯爵夫人の作品だと教わったことを思い出す。
また、その刺繍大会での展示最終日に事件があったことをも思い出す。一週間かけて投票が行われ、かつ展示を兼ねていた大会の、最終日にミリアムは足を運んでいた。
貴族の令嬢や夫人であれば、必ず足を運ぶものとされ、ミリアムも義務として連れて行かれたのだ。そこで事件は起きた。
あの大会が、前世での自分の運命をさらに悪くした出来事の一つだった。
オスマン伯爵夫人の見事な刺繍作品が、何者かに燃やされるという事件が起き、その罪をミリアムに被せられたのだ。
緻密な模様、鮮やかな糸の使い方。それが仇となり、刺繍糸部分が燃え広がったのだ。
本来布というのは紙ほどすぐには燃えないのだが、それらの糸が燃えやすい染め粉で染められており、それが火災の原因だった。
オスマン伯爵夫人ばかりが毎年入賞することで、嫉妬した人間が犯人だろうとミリアムは後日思ったが、たまたま直前に刺繍を見ていたミリアムのせいにされた。
だが、今世では違う。ミリアムは前世の知識と今世のスキルを活かし、すべてを変えるつもりだった。
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