第19話 心を許せる友だち
「父上……それはちょっと……。」
アレクシスが苦笑しながら呟くが、公爵は意に介さない。むしろ嬉しそうにミリアムの頭を撫でる。
アンナソフィアは優しく、しかしはっきりと続けた。
「お母さまもあまり望ましくないとは思っているわ。王宮に勤めているからこそわかることだけれど、第三王子フィリップ殿下の評判は……あまり良くないわね。」
「そうなのか?」
ローゼンハイデン公爵が首をかしげる。
「ミリアムが癇癪持ちだというのは、メイドたちが作った嘘だったけれど、フィリップ殿下は本当に癇癪持ちなのよ。」
「僕も、第一王子殿下の友人として、王宮に上がらせていただいた時にうかがったことがあります。強い後ろ盾がなければ、他国に政略結婚に出されるのではないかと。」
「その為に、ミリアムを狙ってくるでしょうね。側妃さまはフィリップ殿下を国外には出したくないようだから。……正直、あの子の周囲はあまり穏やかではないわ。巻き込まれるのは得策じゃない。」
悪女と呼ばれていた自分が、婚約者になったのは、そんな経緯があったのか、とミリアムは思った。
そうなれば、ミリアムが婚約しなければ。他の後ろ盾になる家が見つからなければ。フィリップはこの国からいなくなるかも知れない。
ミリアムは思わず気色ばみ、だがすぐに、聖女アイリーンという存在を手に入れたことで、何よりも強い後ろ盾を得ることになるから、意味がないということに気がつく。
「ミリアムも嫌がっていることだし、今回は辞退しようかと考えているのだけど……あなた、どう思うかしら?」
「それがいい。そんな男に可愛いミリアムはやれないからな。ミリアムはどうしたい?」
両親が揃って娘の顔を覗き込む。
ミリアムは喜びを隠しきれずにパアッと顔を輝かせた。瞳がキラキラと光り、頰が自然と緩んでしまうのをおさえることが出来ない。
「お願いします……!王宮には行きたくありません!私、ずっと、家族と一緒にいたいです!お父さま、お母さま、アレクシスお兄さま、クリスティアン兄さま、それにアレクサンドラ……。みんなと、ずっと一緒にいたいんです!」
公爵夫妻は目を細め、幸せそうにウンウンと頷き合った。
「よし、決まりだな。今回は遠慮させてもらおう。王宮には私が丁寧に断りの手紙を書いておこう。筆頭公爵家当主直々の拒絶だ。王宮も無視はできまい。」
「ええ、そうしましょう。ミリアムがそう望むなら、それがいいわ。」
これで、将来聖女アイリーンがフィリップと恋仲になっても、自分には一切関わりがないことになる。
家族の温かな空気に包まれながら、ミリアムは心の中で強く誓った。今度こそ……この幸せを、絶対に手放さないわ、と。
一方、湖畔にて、ランディーはクリスティアンに、家族を紹介して欲しいと頼んでいた。
「良かったら……クリスティアンの家族を紹介してくれない?ここでしばらく過ごすんでしょう?また一緒に遊びたいし。だったら家族には挨拶しておかないとね。」
少し照れくさそうに、しかしはっきりと、友だちとして紹介して欲しいと言ってくるランディーに、クリスティアンの目がぱっと輝いた。
ルーパート王国の王子だから仲良くなりたいという打算は、いつの間にかすっかり消えていたが、ここにきて、ふと、クリスティアンの中に欲望が顔をもたげる。
今日初めてできた、気兼ねなく笑い合える友人。それが大国ルーパート王国の王子なのだ。それを、家族に自慢したくなった。
「いいぜ。紹介してやるよ。」
「ありがとう!」
「じゃ、行こうぜ!」
気のおけない友人と一緒に走り出すクリスティアン。2人は笑いながら、別荘へと続く小道を駆けて行く。木々の間を抜けると、別荘の窓が見えてきた。
そこには家族全員が揃い、穏やかな笑い声が響いている。クリスティアンは、少しだけ足を緩めた。急に胸がドキドキする。
クリスティアンがいないのに、気にせず笑い合っている家族。クリスティアンがいないことを、気にも止めていない家族。
「……あいつら、俺のことなんか待ってないかもな。」
ランディーが、隣で肩をすくめる。
「待ってるよ。だって、家族だろ?僕のところみたいに、王位継承戦の為に、命を狙われたりするわけじゃないんだろ?」
ランディーの言葉にギョッとするクリスティアン。王位継承戦がわずらわしくて逃げてきた、という、ランディーの言葉を思い出す。つまり、命を狙われるのに疲れたから、逃げてきたのかも知れない。
クリスティアンはランディーの目をじっと見つめた。自分と変わらない年齢なのに、そんな生活をしながらも、明るく自分を励ましてくれるランディー。
ランディーと違って、自分は努力すれば、家族の輪の中に入れるかも知れないのだ。
クリスティアンは、ふっと息を吐いて、頷いた。
「……そうだな。」
2人は家族の待つ家へ歩いて行った。その影は、2人の絆かのように、ゆっくりと重なっていった。
────────────────────
コンテスト参加中です。よろしくお願いします。
X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。




