第11話 アレクシスの謝罪
「悲しませてすまない、ミリアム。だがお父さまは、猫が駄目なのだよ。本当はお父さまも猫が好きだよ。」
「そうだったのですか?」
「ああ。だが近づくとくしゃみが出てね。子どもの頃に寝込んでしまったのだ。その時医者に言われたよ。猫にアレルギーがあるのだとね。お父さまのお父さまから、公爵家の嫡男たるもの、犬を飼うべきだとその時言われたのだ。」
「……そうだったのですか?」
驚愕したように目を見開くアレクシス。なんだか様子がおかしい。
「アレクシス兄さま、どうしたんだ?」
クリスティアンも不思議そうにたずねる。
「……なんでもないよ。」
「なんでもないって顔じゃないだろ、それ。」
「今だッピ!糸を引き抜くッピ!」
アリアドネにそう言われて、ミリアムはほころびの糸を引き抜いた。
ビクッと反応するアレクシス。そして急にポロポロと無き出した。
「ごめんなさい、お父さま。僕、こっそり猫を飼っていたんだ。」
「え?」
「猫を飼っていた……?まさか、私の体調が悪かったのは、お前についた猫の毛のせいで……?」
アレルギーは酷くなると、咳が出たり、ショック死することもある。
前世で近所に住んでいた、冬でもないのにやたらとクシャミをしていた人が、段々と咳をするようになって、最後には突然死んでしまったことがあった。
その時に、どうやら死因は猫アレルギーだったらしいよ、と噂されていたのを聞いたことを思い出した。
そういえばその人の咳の仕方は、お父さまに似ていたかも知れないわ……。とミリアムは思った。
接触の頻度が高いほどそれが起きるとのことだった。お父さまの死因は、まさかの猫アレルギーだったのね……とミリアムは思った。
であれば、猫アレルギーに特化した加護縫いをすれば、その問題は解決する。
アレルギーの原因は毛だけでなく、猫から出るフケなども相当するらしい。部屋でこっそり飼っていれば、その成分が空中にたくさん漂っていることだろう。
兄弟たちの中で、後継者教育を受けているアレクシスと、一番接触する機会が多いローゼンハイデン公爵が、おそらくアレクシスの部屋にいた猫の成分にやられてしまったのだろう。
「知らなかったんだ。犬がいなくなれば、猫を飼ってもらえると思って、エレナに頼んで逃がしたんだ。」
「それでミリアムのせいにしたのかよ……サイテーじゃねえか。」
「ごめん……。」
呆れたようにそう言うクリスティアンに、涙を拭いつつそう言うアレクシス。
「ミリアムのせいにして、ごめんなさい。お父さまが犬がいなくなってなお、犬以外飼ってはいけないとおっしゃったから、こっそり飼っていることも、飼いたいってことも言い出せなくて……。」
「お父さま、でももう、だいじょうぶになったのではないですか?私がハンカチを差し上げてから、咳も出ないのですよね?猫を飼ってもだいじょうぶではないですか?」
「う、うむ……だがしかし……。」
「もしそれでも体調が悪くなるようであれば、もっとたくさん、お父さまが健康になるよう、願いを込めて刺繍を縫いますわ。それでアレクシスお兄さまが猫を飼うことを許して下さいませんか?」
「ミリアムのハンカチがあれば、だいじょうぶ……か?だが、もしそれでも駄目だった場合は、猫はよそにやることになるぞ。それでも構わないなら、試しに飼ってみることを許そう。」
「本当ですか!?」
アレクシスが初めて、子どもらしい笑顔を浮かべた。
「アレクシスお兄さま、猫ちゃんの名前はなんと言うんですの?」
「アレクサンドラだよ。女の子なんだ。」
アレクシスが嬉しそうに言う。
「ひょっとして、厨房からミルクやパンを盗んでいたのも、アレクシス兄さまだったのか?ガストンがそれだけは頑なに認めなかったから、不思議に思ってたんだ。」
「……うん、そうだよ。僕が猫にやるためにコッソリ持ち出したんだ。」
アレクシスが恥ずかしそうに言う。
「それがなかったら、俺も厨房を調べようなんて思わなかったし、おかげでガストンの犯罪が露見したわけだしな。案外そいつ、幸運の猫なんじゃねえか?──そう思いませんか?父さま。」
「うむ。確かにそうかも知れん。ガストンは少なくとも5年は前から厨房で盗みを働いていたらしい。信用していたせいで、すべてを任せすぎたのが良くなかった。」
クリスティアンの問いかけに、ローゼンハイデン公爵がうなずく。
「二重に確認しようなどとは思わなかったのだ。今後は複数での確認を義務とするつもりだ。これはその猫のおかげと言えなくもないな。」
クリスティアンが話の方向性を変えてくれたことで、強く責められなかったことに、アレクシスはホッとした表情を浮かべた。
後日、アレクシスは正式に部屋でこっそり飼っていた猫を飼うことを許された。廊下でアレクシスとすれ違う際、ミリアムはアレクシスに呼び止められる。
「なんでしょうか?アレクシスお兄さま。」
「……やるよ。手を出せよ。」
そっぽを向いたまま、アレクシスが何かを握った拳を突き出してくる。
両方の手のひらを広げて差し出すと、手のひらの上に、可愛くラッピングされた小袋を差し出された。アレクシスが立ち去った後で中身を確認すると、それは綺麗な飴だった。
中に一緒に、小さなメモに「ごめん」の文字と、可愛らしいハンカチも一緒に入っていた。それを見たミリアムがクスリと微笑む。
小袋の中身を覗き込んだ後で、空中でアリアドネが、嬉しそうにくるくる回る。
「やったッピ!これで家族みんな、もっともっと幸せになるッピよ〜!ミリぽむの加護は、みんなを幸せにするッピ!」
ローゼンハイデン公爵家で、ミリアムの悪女の烙印は、少しずつ、確実に、家族の温もりで溶け始めていた。
────────────────────
コンテスト参加中です。よろしくお願いします。
X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。




