表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

4 しまった。

残っていた酒をぐいっと飲み干して、イツキも「タダ酒最高最高。そんじゃ、俺もここいらでおいとまって感じで?」とそそくさ出ていった。出待ちしていたらしい、ネグリジェを着た派手な女と、夜の闇に溶けていく姿だけちらりと見えた。


「私もちょっと、用事があって……」と、ココナまで。

 

 リヒトとヒルデと、三人。沈黙が場を支配する。

 

「じゃ、じゃあ、三人で飲む?」おそれおそれ聞いてみると、ヒルデはきょとんとした顔をしてみせた。人形のように美しい彼女には似合わない、気の抜けた顔だった。


「なわけないでしょ? イノ、あなたと飲むなんて、天地がひっくり返ってもありえないわ」

「あ、そう……? じゃあ、なんで席立たないんだよ……」

「はぁ? 席を立たないのはあなたでしょ? イノ」

「は? お、おれ?」

 

 ヒルデは「だからモテないの。察しが悪い」と小馬鹿にするように鼻で笑って、リヒトに目を向けた。

 

「ねぇ、リヒト。この間の返事、考えてくれた?」 


 ふわりと、ヒルデから甘い蜜のような香りが漂ってくる。

 ……なるほど。流石に察しの悪い俺でも分かるさ。邪魔ってことね。はいはいはい。


「じゃ、俺も用事だから。あとは二人で、楽しんで」

「そう? 悪いわね。さようなら、イノ」

  

 自分の酒代の銅貨6枚を置いて、そそくさと退散する。アルバが奢ってくれたはいいけど、奢られるのは性に合わなかった。過剰分がリヒトの懐に収まるのだとしたら、それは望むところだし。

 酒場を出ると、夜はすっかりと更けていた。

 

 空を見る。浮かぶ星ヶは無機質で、何の感慨もない。

 

 俺達リバイバルは、リヒト一人から始まった。リヒトを除くその五人、その誰もが、はじめは名の通らないくすぶった冒険者だった。

 

 最初にアルバ、それから、イツキ。次にココナが入って、ヒルデ。最後に、俺。

 

 俺が加入する前から、「とんでもないパーティーが現れた」と、それなりに巷では噂になってたっけ。

 

 地道な成長……では、なかったかな。

 覚醒とも言えるような、目覚ましい躍進劇だった。階段ではなく、空を飛んで駆け上がるような、急成長だった。

 

 あの頃は、それなりに仲が良かったと思う。アルバは端から、俺の加入が気に入らない素振りを見せていたが、ここまで酷くもなかったよな。一緒に飲んで、笑って、大騒ぎして、怒られて。楽しかった、あの時は。

 

「……いつから、こんな仲悪くなったかな」 

 

 全部、俺が、弱いせい? 俺の弱さが、パーティーに歪みを作ってたら?


「俺、いないほうが、良かったり?」

「イノ!」

 

 不意に声を背に受けて、ハッとなる。気づけば、リヒトが息を切らしてすぐそこに立っていた。追いかけてきたのか。


「り、リヒト!? なんで、ヒルデは?」

「帰ったよ。だから、イノと二人で、飲み直そうと。……嫌だった?」 

「いや、全然! むしろ、飲み足りない気分っていうか」 


 ぶわぁっと、空っぽだった胸の内が、一気に充足感で満たされる。

 夜の静けさが、それをいっそう際立たせるようだった。

 けれど、その満ち足りた感覚が強いほど、同じくらいの不安が波のように押し寄せる。

 

 ねえ、リヒト……。

 

「この前さ、肉が美味い、いい店を見つけたんだ。イノを連れて行こうと思って」


 ……君は、君はなんで。


「……なんで、こんな俺を、パーティーに残してくれるんだ?」 

「え?」 


 リヒトの呆けた返事で、ふと我に返った。しまった。声に、漏れていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ