4 しまった。
残っていた酒をぐいっと飲み干して、イツキも「タダ酒最高最高。そんじゃ、俺もここいらでおいとまって感じで?」とそそくさ出ていった。出待ちしていたらしい、ネグリジェを着た派手な女と、夜の闇に溶けていく姿だけちらりと見えた。
「私もちょっと、用事があって……」と、ココナまで。
リヒトとヒルデと、三人。沈黙が場を支配する。
「じゃ、じゃあ、三人で飲む?」おそれおそれ聞いてみると、ヒルデはきょとんとした顔をしてみせた。人形のように美しい彼女には似合わない、気の抜けた顔だった。
「なわけないでしょ? イノ、あなたと飲むなんて、天地がひっくり返ってもありえないわ」
「あ、そう……? じゃあ、なんで席立たないんだよ……」
「はぁ? 席を立たないのはあなたでしょ? イノ」
「は? お、おれ?」
ヒルデは「だからモテないの。察しが悪い」と小馬鹿にするように鼻で笑って、リヒトに目を向けた。
「ねぇ、リヒト。この間の返事、考えてくれた?」
ふわりと、ヒルデから甘い蜜のような香りが漂ってくる。
……なるほど。流石に察しの悪い俺でも分かるさ。邪魔ってことね。はいはいはい。
「じゃ、俺も用事だから。あとは二人で、楽しんで」
「そう? 悪いわね。さようなら、イノ」
自分の酒代の銅貨6枚を置いて、そそくさと退散する。アルバが奢ってくれたはいいけど、奢られるのは性に合わなかった。過剰分がリヒトの懐に収まるのだとしたら、それは望むところだし。
酒場を出ると、夜はすっかりと更けていた。
空を見る。浮かぶ星ヶは無機質で、何の感慨もない。
俺達リバイバルは、リヒト一人から始まった。リヒトを除くその五人、その誰もが、はじめは名の通らないくすぶった冒険者だった。
最初にアルバ、それから、イツキ。次にココナが入って、ヒルデ。最後に、俺。
俺が加入する前から、「とんでもないパーティーが現れた」と、それなりに巷では噂になってたっけ。
地道な成長……では、なかったかな。
覚醒とも言えるような、目覚ましい躍進劇だった。階段ではなく、空を飛んで駆け上がるような、急成長だった。
あの頃は、それなりに仲が良かったと思う。アルバは端から、俺の加入が気に入らない素振りを見せていたが、ここまで酷くもなかったよな。一緒に飲んで、笑って、大騒ぎして、怒られて。楽しかった、あの時は。
「……いつから、こんな仲悪くなったかな」
全部、俺が、弱いせい? 俺の弱さが、パーティーに歪みを作ってたら?
「俺、いないほうが、良かったり?」
「イノ!」
不意に声を背に受けて、ハッとなる。気づけば、リヒトが息を切らしてすぐそこに立っていた。追いかけてきたのか。
「り、リヒト!? なんで、ヒルデは?」
「帰ったよ。だから、イノと二人で、飲み直そうと。……嫌だった?」
「いや、全然! むしろ、飲み足りない気分っていうか」
ぶわぁっと、空っぽだった胸の内が、一気に充足感で満たされる。
夜の静けさが、それをいっそう際立たせるようだった。
けれど、その満ち足りた感覚が強いほど、同じくらいの不安が波のように押し寄せる。
ねえ、リヒト……。
「この前さ、肉が美味い、いい店を見つけたんだ。イノを連れて行こうと思って」
……君は、君はなんで。
「……なんで、こんな俺を、パーティーに残してくれるんだ?」
「え?」
リヒトの呆けた返事で、ふと我に返った。しまった。声に、漏れていた。