3 【リヒトのお友達】
お、っと……?
きゅっ、と心臓が縮まる。……いきなり、俺の話かよ。
「こいつがもし他に変われば、俺達は全員もっとやりやすくなる。いないだけでも、ちょっとはマシになるだろう。……それでもこいつをパーティーに残すのは、一体どういう了見でだ? ……はぐらかさず、今教えろ、リヒト」
ふとした瞬間に、バラバラだったパーティーのみんなが一斉にリヒトに視線を集めた。
みんな思うところはあったらしい。
「イノには悪いけど、俺も全く同意見って感じ? ぶっちゃけ、ココナちゃんもヒルデも思ってるっしょ」と、イツキ。
「……えっとね。わたしは、イノのことはね、好きだよ? でも……ちょっと、報酬を等分配っていうのは、納得行ってない、かも……」と、バツが悪そうにココナ。
「でも、いなくなったら、誰が私の美容品を運ぶわけ?」と、なんか一人だけ方向性が違うヒルデ。
「んなもん、ちょっとは我慢しろよ……」呆れたように肩を竦めるアルバは、ため息をついてリヒトに向き直る。「んで、答えろよ、リヒト」
正直、居心地は最悪だ。ただ、俺も気になるっていうか……。
ぶっちゃけ、俺は雑魚だと思う。アルバの言うことはよもや自明で、反論のしようもない。
「イノは……」リヒトはちらりと俺を見て、「あー」と困り笑みで頬をかいた。「えっと……」
そして、訪れる静寂。パーティー内の時が止まって、なんとも言えない気まずさが立ち込める。
「ん……?」と思わず声が漏れた。
「もしかしてだけど」と、首を横に振りながらうなだれるイツキ。
「ねぇんだな、答え」なんて、アルバもズケズケと言わないでおくれよ。
「ま、ないでしょうね」ヒルデのトドメの一撃に「ぐはぁっ」と机に突っ伏した俺を見て、あわててココナが「わわわわ!」と寄り添ってくる。
「だ、大丈夫だよイノ! ほ、ほら、イノは優しいし、料理上手いし? 良いとこいっぱいあるよ! だから、ね? そんな落ち込まないでよー!」
「んで、コイツの冒険者としての良いとこはどこだよ」
「……」
「それで黙り込んじゃうの、ココナちゃんが一番ひでーじゃん?」
分かってる、分かってたよ。アガリアのトップオブ底辺、逆首席、ブービートラップとまで呼ばれるクソ雑魚落第生。そんな俺が、才能あふれるリバイバルのみんなと釣り合うはずもないって、最初から、気づいてた。
たださ。ずっと、もしかしたらって、思ってたんだ。
「――コルタノット・イノセント。……僕のパーティーに、君の力が欲しい」
あの日、あの雪の夜、君に誘われたあの時、俺にも何か、特別な何かがあるんじゃないかって。期待していた俺が、阿呆だったのだろうけど……。
「ははっ」リヒトは突然吹きこぼれるように笑うと、「うん、ココナの言うとおりだね」と俺を見やった。「イノは、良いやつだ」
一瞬、呆気にとられて、気づけば俺もつられて笑っていた。
「なんだそれ」
なんでだろう。はぐらかされたって、分からないほど俺も馬鹿じゃない。なのに、なぜこんなにも元気が湧いて、やってやろうって気持ちになるんだろう。 ……本当、リヒトは、凄い。
「結局、お友達採用っつーことだな」付き合ってらんねぇよと、アルバはそそくさ荷を抱える。「ただな」背を向けたまま、アルバは苛立ちも呆れの色も含めず、淡々と事実のみを告げた。「今より上を望むなら、そいつは確実に足枷になる。……これは忠告だぜ、リヒト。じゃーな」
小包みを投げて寄越して、アルバは酒場から立ち去っていく。
投げられた包みには、六人分の酒代に相当する大銅貨四枚が入っていた。