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1 【最下位地雷】

 不釣り合いな名声だった。

 俺たち五人のその誰も、決して特別ではなく、まさしく水槽で飼われた金魚に等しかった。飼育され、良い環境で泳がされていることに、誰も疑いを持っていなかった。

 

 ――弱いとは、罪悪だ。

 

 彼が口にしたように、

 それがこの世の道理なら、あの日までの俺たちは五人とも大罪人だった。

 

「まあ、気づけただけ、良かったんだけどさ」

「……どうしたの、イノ?」

「いや、なんでもないよ」

 

 困り顔で笑みを返して、ゆっくりと立ち上がる。

 たった一つの墓石が立つ、果のない草原の真ん中で、星々がガラクタのようにばらまかれた作り物の空を見上げた。


「ったく……。行くぞ、イノ」

「ああ」

 

 今宵、俺たちは思い知るだろう。

 君の残していったものの、尊さを、残された俺たちのちっぽけさを。 


 それでもいいと、受け入れたから。だから俺たちは、前へ進める。


「行こうか、みんな」

 

【最果ての迷宮】深層・91層。

 大罪を犯した俺たちの、最後の旅が、始まる。

 

 

 ◇

 


『学年順位:122位

 コルタノット・イノセント』

 

 学園の広間に張り出された試験順位を見ながら、俺は深い溜め息をついた。寝癖をくしゃくしゃと掻きむしって、「まじかぁ」とがくり肩を落とす。


「6連続学年最下位……」

「つまり入学以来、全試験最下位ってこと? イノ……。君って、ある意味凄いね……」

「いやぁ、なんていうか、俺もね? 頑張ったんだけどさ……。クエルはどうなの?」

 

 問うと、隣に立つ赤髪のエルフは勝ち誇ったようにブイの字をこちらに向けた。


「ノー勉で6位」

「うげぇ。俺の周りって……なんでこんな天才が多いんだ……」

「俺の周り……? 冗談はよしてよ、イノ。君は、ボク以外友達がいないじゃないか」

 

 首を傾げて目を細めるクエルを傍らに、物思いに耽る。

  

 ここ、迷宮都市ファンリッタが誇る世界最高峰の魔法使い・騎士養成学校、アガリアには、各国からあらゆる才能ある原石が集うという。

 現在一線で活躍している冒険者や騎士、さらには政界の用人を少し調べてみれば、実はアガリア卒だった、なんてことはざらにある。 

 

 その分入学できるのは、各分野の権威ある実力者に才能を認められた原石のみ。

 故にアガリアとは、学園という箱庭の中で、まるで蠱毒のように天才と天才を競わせることで、その才能をさらに研ぎ澄まさせる天才たちの楽園なのだ!

 とは、俺が入学前に聞いていたアガリアの噂話……。

 

『悪いおっさん。俺、騎士になる。……アガリアの試験、受かってた』

『……そうか。行って来い。お前を拾ったあの日から、んとなくこうなる気がしてたんだ』

 戦争孤児だった俺を拾い、男手一人で俺を育ててくれたおっさんのあばら家を飛び出して、15の俺は夢と希望を剣一つに託してファンリッタまでやってきた。

 アガリアの試験に合格した。ただそれだけで、己の非凡な素養を信じて疑わなかった。あまつさえ俺という阿呆は、アガリアを首席で卒業し、いずれはトップの冒険者になるのだと、バカみたいに夢想に耽っていた。

 

 村を旅立ち、馬車に揺られ3日ほど。

 入学式にて行われたクラス分けの試験で、俺、コルタノット・イノセントは思い知ることになる。


『――対人試験0勝、学園評価(スコア)0、コルタノット・イノセントは、Eクラスへ』


「はぁああ……」

 思い出すだけでため息が漏れた。 

 込み上げる諦念と、手から滑り落ちていく剣の重さを今も鮮明に思い出せる。


 入学から早1年、全試験最下位。学園創設以来の連続最下位記録を打ち出した、学園に生ける伝説の最弱。パーティー型の試験で味方になれば、必ずチームを最下位に導く疫病神。ゆえに定着したあだ名が――【最下位地雷(ブービートラップ)】。

 

 ……グループワーク、俺だけ毎回一人あまんのどうにかしてくんないかね、ほんと。

 

 つか俺、なんでアガリアに合格できたわけ?

 先生は、俺のどんな才能を評価して入学を認めたわけ?

 

 天才たちの楽園に、たった一人紛れ込んでしまったただの凡人……。それが俺。

 重い腰を上げて立ち上がる。ため息ばかりついてもいられない。


 掲示板の前に集まっていた生徒数人が、突然「うぉ、凄え!」と声を張り上げる。


「【リバイバル】の奴ら、ミノタウロスぶっ倒してAランク昇格の切符を得る……だってよ!」

「あいつらこの間Bランクなったばっかだろ!?」

「【餓狼の騎士】アルバに【最果ての魔女】ヒルデ、【陽炎カゲロウ】イツキに【治癒天使】ココナ……そんな化け物を束ねるカリスマリーダー【付与術師】リヒト! 本当、揃ってる(・・・・)って感じだよな!」


「揃ってる……か」

「どうしたのさ、イノ。浮かない顔して」

「や、なんでもないよ」


 ため息混じりに答えて、俺はおもむろに空を見上げた。

 ほのかに赤く染まりだした暮れなずむ空で、ゆうゆうと鳥たちが雲間を縫って飛んでいる。

 

 誰が信じるだろうか。誰が認めるだろうか。

 アガリアに生ける伝説の最弱、1年E組7番、コルタノット・イノセント。俺が、今をときめく新進気鋭の最強パーティー……【リバイバル】のメンバーの幻のもう一人だ、と。

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