意地悪ばあさんのレベルがあがりました。8
満月の夜、裏山の祠
23日の満月が空に浮かぶ夜、チエと陣内は裏山の祠に立っていた。祠は古びた神社で、苔むした鳥居の奥にひっそりと佇んでいる。月光が祠の周りを青白く照らし、どこか不気味な静寂が漂っていた。
チエは白い布を広げ、その上に封印石10個と封印鏡5個を丁寧に並べた。粗塩を円形に撒き、湧き水を入れたボトルを中央に置く。陣内は@OccultSenninから送られてきたPDFの呪文をスマホで開き、チエに渡した。
「山沢さん、呪文の読み上げ、準備OKっすか?」
「ったく、こんなオカルトっぽいこと、ババアがやるなんてな……。じん、録画はするなよ。万一バズっても恥ずかしいだけだ。」
チエは毒づきながらも、スマホを手に呪文を読み始めた。声は低く、たしかにラップのようにリズミカルだ。陣内はチエのラップ発言を思い出し、少し頬をゆるめた。だが、チエ本人は至って真面目に呪文をとなえているため、慌てて表情を引き締める。
「―――《月光よ、封印を解け。石と鏡、力を束ね、門を開け!》」
祠の周囲に風が巻き起こり、封印石と鏡の欠片が光を放ち始めた。陣内は虫取り網を握り、緊張した面持ちで周囲を見回す。
「えぇぇ……。山沢さん、なんか…ヤバい気配じゃないですか……?」
光が強くなり、祠の中央に黒い亀裂が現れた。まるで空間が裂けたような異様な光景だ。チエは息を呑み、鎌を手に構えた。
「じん、準備しろ! 何か出てきても、すぐに叩くぞ!」
だが、亀裂から現れたのは魔獣ではなく、巨大な石のアーチだった。青い色のアーチの内側は揺らめく光の膜で覆われ、まるで別の世界へ通じる門のようだ。
「これは……? あいつ、こんな話してなかったぞ!」
陣内が叫んだ。
チエは眉をひそめ、タブレットを手に@OccultSennin
にDMを送ろうとしたが、後ろから不気味な笑い声が響いた。
「ククク…よくやった。封印を解いてくれて感謝しますよ、おふたりさん。」
「誰だ!?」
ふたりが振り向くと、浅黒い肌の男が立っていた。黒いジャケットにカーゴパンツで、どこにでもいる若者に見えた。男は片手に持っていたスマホを振りながら、ふたりに話しかける。ネットの書き込みの親しさとは全く違う口調だ。
「俺は、今まであなたたちとネットでやりとりしていたものだよ。そちらは"いじわるばばあ"と"じん"だね。」
「ほお、おまえが"異世界の呪術処理専門家"とやらか……。なぜここにいる?!この位置は教えていなかったはずだ」
「"いじわるばばあ"のほうは全くどこの誰かわからなかったが、"じん"の方は過去の書き込みで特定できたからな。位置情報の残った画像もあったぞ。くくく…、現代社会じゃ、もっと気をつけないと、な」
「……じん」
「そ、そんな……」
「後をつけるのも簡単だったな。まだふたりとも低レベルで助かったよ。魔素がまだ少なくて、この世界だと【ステルス】の効果が薄くてね」
男がスキル【ステルス】を使うと、一瞬姿が見えなくなる。ふたりがその姿を探し辺りを見回すと、目の前の巨大な石のアーチの前に姿を現した。
「自己紹介がまだだったね。私は異世界の魔導師、センニン。この世界と私の世界をつなぐことが私の目的だ。そうするとこの世界も魔素で溢れて、とても生きやすくなるんだ。魔素がないと魔法も使えないからね」
センニンは役者のように大袈裟に両手を広げた。月明かりに照らされた男の顔は、嬉しそうに笑っている。
陣内がスマホを握りつぶさんばかりに叫んだ。
「異世界だと?ふざけんな! ゴミ捨ての山田もお前の仲間なのか!?」
「山田? ああ、あの愚かな男はただの下請けだね。封印石と封印鏡の欠片をばらまくお仕事をしてもらっていただけだよ。あいつはなんでこの"お仕事"をさせられてるか、全く知らないんだよ」
チエは鎌を握り直し、センニンを睨みつける。
「―――封印石と封印鏡……あれはなんなんだ?」
「あれは異世界のものさ。魔素がたっぷり含まれててね。魔素の反応があるところで魔獣が作られるんだよ。そこに異世界と繋がることが出来る【ダンジョン】の根っこが埋まってるんだ。魔獣が大きくなった辺り―――魔素の量が一定以上になったときに封印を解けば、このようにダンジョンに成長するんだよ」
「……異世界と繋がる、ダンジョン、だと?」
「この世界に、異世界と繋がりそうなところはそう多くなくてね……。あちらこちらにばら撒いたんだけど、この国だと数カ所だったね。ネットで魔獣の情報をあつめたら、君たちに出会うことが出来たってわけ。」
センニンは青い石のアーチをそっとなでる。
ニヤニヤと喋るセンニンの気障言い方は、チエの忌諱に触れる。
「てめえ…騙したな」
「悪いね。自分でやっても良かったんだけど、他にもダンジョンの根っこらしき場所があったからね。まあ、そっちは空振りだったんだけど、こちらは大正解。助かったよ」
「ふざけるなぁー!」
チエが鎌を振り上げるのを、陣内がとめる。
「山沢さん、ちょっと待って! レベル差ヤバいかも…【鑑定】でLv.35って……!」
チエは舌打ちし、スキル【威圧オーラ】を発動。センニンの攻撃力を下げようと試みるが、センニンには効果がないようで嘲笑っている。
「無駄だよ、"いじわるばばあ"さん。―――さて、ダンジョンの奥にある扉を開きに行かないとね。そうしないと繋がらないから。」
「目的をわざわざ教えるとは、レベル差があるからって舐めすぎだろう……!」
「止めてもいいよ?止められるなら、ね。―――じゃ。」
センニンがジャケットを翻してダンジョンのアーチに飛び込むと、それと入れ違いになるように巨大な狼のような魔獣が飛び出してきた。牙は鋼のように鋭く、目は赤く輝いている。
【魔獣:ヘルウルフ(Lv.20)】
HP:300/300
攻撃力:80
防御力:50
特技:咆哮(敵の行動を1ターン遅延)
「じん、いくぞ! バフかけて、私が叩く!―――年甲斐もなくダンジョンとか、冒険とか、ずいぶん若作りばばあだな」
自分への嫌味はただの自虐だしブーストかかるか?と脳裏をよぎるが、無事にスキルは発動した。
【嫌味ブースト発動! チエのスキル効果+10%、3ターン継続】
チエは鎌を振り上げ、ヘルウルフに突進。【威圧オーラ】の効果でヘルウルフの攻撃力が下がり、チエの鎌がその首を狙った。
【クリティカルヒット! ヘルウルフに150ダメージ! HP:150/300】
ヘルウルフが咆哮を上げ、【咆哮】を発動。チエと陣内の行動が一瞬遅れる。陣内は虫取り網を振り、【弱点解析】のスキルを発動する。
「山沢さん、こいつの弱点は右足です! 右足を狙えば動きが鈍ります!」
「ナイス、じん!」
チエは身を翻し、鎌でヘルウルフの右足を切りつけた。
【クリティカルヒット! ヘルウルフに100ダメージ! 動きが鈍化! HP:50/300】
ヘルウルフがよろめく。チエはすかさず鎌を振り下ろし、トドメを刺した。
【ヘルウルフ撃破! 経験値+200!】
【チエ:レベルアップ! Lv.17 → Lv.18】
【新しいスキル:連撃(2回連続攻撃、1ターンに1回使用可)】
【陣内:レベルアップ! Lv.6 → Lv.8】
【新しいスキル:援護射撃(遠距離から低ダメージ攻撃、敵の注意を引く)】
「よし!まずは一匹……異世界と繋がると魔素で溢れるとか言っていたな」
「魔素でネズミもウサギも変化しましたもんね……。つまり異世界と繋がると、こんな魔獣がどんどん出てきちゃうってこと……?」
「はあ……こんなんでてきたら、まずは我が家がぶち壊されるな……。―――いくぞ!あいつを止めないと!!」
ふたりは石のアーチにをくぐり、ダンジョンへと足を踏み入れる。
月光の下、祠は静かに彼らの背を見送った。
【山沢チエ】
種族:ヒューマン 年齢:65歳
レベル:18 (経験値:1950)
スキル:【嫌味ブースト】【威圧オーラ】
装備:【魔獣の鎌】攻撃力+18 すばやさ+25
【異世界の魔導師:センニン(Lv.35)】
HP:1000/1000
攻撃力:150
防御力:100




