意地悪ばあさんのレベルがあがりました。6
朝日がチエの家の古ぼけて薄くなったカーテンを透過し、リビングに柔らかい光を投げかけた。リビングで陣内が目を覚ますとテーブルに焼いたシャケと白いご飯が湯気を立てていた。
チエはキッチンで朝メシの味噌汁を温め、「目が覚めたか? 簡単なものしかないが食べるか?」と声を掛ける。
「ありがとうございます。いただきます。」
目をこすりながら、陣内は手を合わせる。その時に、陣内のスマホが電子音を鳴らす。
「あ、山沢さん、@OccultSenninからまたDM来てます。儀式の詳細、送ってくれましたよ。」
チエは味噌汁の鍋を火から下ろし、陣内の隣に座った。
「ほう、どんな儀式だね? まさか、婆さんが裸で踊るとかじゃねえよな?」
陣内は吹き出しそうになりながら、スマホを読み上げた。
@OccultSenninのDM
「信じてくれてありがとう。頑張って、魔獣が増えるのを止めよう。自分も周りの怪しいところを探して見つけ次第儀式をするようにしているんだ。
封印の儀式はシンプルだけど、準備が大事。
必要なもの: 封印石と封印鏡の欠片(全部集めること! 1個でも欠けたら失敗する)。
純粋な水(湧き水がベスト。ペットボトルはNG)。
白い布(新品で、汚れなし)。
塩(天然の粗塩)。
手順: 祠の中心に白い布を敷き、封印石と封印鏡の欠片を円形に配置。
塩で円を描いて、欠片を囲む。
湧き水を欠片にかけて、特定の呪文を唱える(呪文は後で教える。DMだと長すぎる)。
最後に、欠片を布で包んで、祠の地下に埋める。
注意:儀式中は絶対に円を崩さないこと。魔力が暴走すると、魔獣が再出現するリスクあり。儀式は夜、月が出てる時間にやるのがベスト。次の満月は5月23日だから、それまでに準備して。質問あったら、いつでもどうぞ!」
チエは腕を組み、味噌汁をズズッとすすった。
「湧き水に粗塩ねえ。まるで料理のレシピだな。裏山に湧き水……あったような気がするが……」
陣内はノートをめくり、昨日メモした地図を確認した。
「祠の近くに小さい沢あったっす。たぶん、湧き水っぽい流れでした。塩と白い布はスーパーで買えますね。問題は、欠片が全部揃ってるかどうか…。昨日、黒いビニール袋、3つしか回収してないっすよね?」
チエは眉をひそめ、昨日拾ったゴミ袋を金庫から引っ張り出した。袋を開けると、封印石の欠片が5つ、封印鏡の欠片が3つ出てきた。
「これで全部か? なんか、もっとありそうな気がするんだよな…。」
チエがゴミ袋をひっくり返して確認したが、他には何も出てこなかった。
「【鑑定】したとき、何か書いてあったか?」
「あー、どうだったかな……。今やってみます。」
陣内は【鑑定】を試し、欠片の詳細を再確認した。
【封印石の欠片】
説明:全10片で1セット。1片でも欠けると封印が不完全になる。
【封印鏡の欠片】
説明:全5片で1セット。封印石と組み合わせて使用。
「うわ、マジかあ…。封印石10片で1セットだって、あと5つ足りない! 封印鏡も2つ足りないっす!」
チエは舌打ちし、鎌を手に取った。
「ったく、面倒くせえな。じん、今日もう一回裏山行くぞ。ゴミのバカどもがまた捨ててるかもしれねえ。見つけたら、欠片全部回収だ。」
陣内はリュックに水筒とノートを詰め、ニヤリと笑った。
「了解っす! てか、山沢さん、今回の冒険、なんかRPGのクエストみたいっすね。『封印の欠片を集めろ!』みたいな。」
チエはアシックスのシューズを履き、ジャージの袖をまくった。
「くくく……。確かにクエストみたいだねえ。私がパーティーリーダーなら、じん、お前はアイテム係だな。ほら、さっさと準備しろ!」
二人は再び裏山の獣道を登った。今日はチエが鎌に加えて、園芸用のシャベルも持参。陣内は100均で買った虫取り網を手に、ゴミを探す気満々だ。
「じん、昨日見逃したゴミ、絶対あるはずだ。目を皿にしろよ。」
「はいっす! てか、山沢さん、シャベルって…まさか、祠掘る気っすか?」
チエはニヤリと笑い、シャベルを地面に突き刺した。
「封印石が地下に埋まってる可能性もあるだろ。祠の周り、ちょっと掘ってみるぜ。じん、お前はゴミ袋チェックな。」
陣内は虫取り網で草むらを掻き分け、黒いビニール袋を探した。10分ほど探すと、祠の裏の茂みに新たなゴミ袋を発見。
「山沢さん、あった! また黒いビニール袋!」
チエが駆け寄り、鎌で袋を慎重に開けた。中には、封印石の欠片2つと、封印鏡の欠片1つが入っていた。
「よし、だいぶ揃ってきたな。……だが、まだ足りねえな。」
陣内は【鑑定】で確認し、ノートに記録した。
「封印石、あと3つ。封印鏡、あと1つっす。てか、このゴミ、誰が捨ててんすかね? 毎回同じ袋ですよね。」
チエはゴミ袋を手に、じいっと観察した。
「……確かに、全部同じメーカーの袋だな。じん、いいところに気がついたな。コンビニのロゴも同じ。近くのコンビニで聞き込みでもしてみるか。捨ててる奴の顔、覚えてるかもしれねえ。」
陣内は目を輝かせ、スマホで最寄りのコンビニを検索した。
「山沢さん! そのロゴのコンビニ、車で10分くらいのとこにありますよ。帰りに寄ってみます?」
「もう少し周辺を探して、ゴミ袋がないようならコンビニに行ってみるか。」
結局ゴミ袋を見つけられず、昼を回った頃にチエと陣内は軽トラで近くのコンビニへ向かった。田舎のコンビニの平日、店内は閑散としていてレジには若いアルバイトの男がスマホをいじっていた。
チエはゴミ袋を手に、レジにドンと置いた。
「おい、兄ちゃん。この袋、最近ここで売った覚えあるか? うちの裏山に捨てられてて、ムカつくんだよ。」
アルバイトはビクッとして、袋を手に取った。
「え、っと……これ、うちの袋っすね。PB商品のゴミ袋。……でも、捨てられてるって……俺、関係ないっすよ!」
「誰もお前を疑ってねえよ。誰か、最近この袋を大量に買ってった奴、覚えてねえか? 裏山がゴミだらけで、結構頭にきてんだ。」
チエは老眼鏡をかけ、ジロリとアルバイトを睨んだ。
チエの勢いにビビった表情を浮かべたアルバイトは、少し考え込む。
「大量に……あ、ちょっと待ってください。2週間くらい前、変な客がいました。夜中にゴミ袋10パックくらい買ってったおっさん。なんか、でかい黒いバンに乗ってて、めっちゃ急いでる感じだった。……防犯カメラ、残ってるかも。店長に聞いてみます?」
チエと陣内は顔を見合わせた。
「黒いバンねえ……。じん、メモっとけ。」
陣内はノートに「黒いバン」「ゴミ袋10パック」「怪しいおっさん」と書き込んだ。
「店長、呼んでくれ。カメラ見せてもらいてえ。」
チエが言うと、アルバイトはバックヤードに走った。
店長が出てきてちょっとした押し問答はあったが、最終的に防犯カメラの映像をPCで再生してくれた。(店長が折れてくれたとも言う)
映像には、確かに黒いバンに乗った中年男が映っていた。男は帽子を深くかぶり、ゴミ袋をカゴに放り込むようにして買い物し、急いで店を出ていく。ナンバープレートは映っていなかったが、バンの後部に「解体業」と書かれたステッカーが貼ってあった。
「解体業か……。じん、この近くに解体業の会社がねえか調べてくれ」
「スマホで検索します……あ、ありました!」
「お、どこだ?」
「このコンビニから15キロくらいのとこに、『山田解体』って会社。…なんか、怪しくないっすか? 解体業なら、変なゴミとか出そうですよね。」
「いいね、じん。次のクエスト、決まりだな。『山田解体』を調査だ。封印石の欠片、アイツらが捨ててる可能性、大だろ。」
にやりと笑うチエに対し、陣内は拳を握りワクワクした顔で頷いた。
「やべえ、めっちゃ冒険っぽくなってきた! 山沢さん、早速、会社突撃っすか?」
「突撃はまだ早え。まずは下調べだ。じん、ネットで山田解体の噂、洗いざらい調べろ。婆さんは…近所のジジイどもに聞き込みしてやる。解体業なら、誰か知ってる奴がいるはずだ。」
帰宅したチエの家で、陣内はノートとスマホを広げ、山田解体の情報をまとめていた。ネットの検索では、会社の評判は微妙だった。「ゴミの不法投棄を見た」「夜中に変なトラックが走ってる」といった投稿がちらほら。公式サイトは古臭く、事業内容も曖昧だ。
チエは数少ない近所の知り合いに話を聞いていた。
「山田解体、10年くらい前にでかくなったらしい。社長が元ヤンで、怪しい仕事も引き受けてるって噂だ。噂が本当なら裏山のゴミも、アイツらが絡んでる可能性があるかもな。」
陣内はメモを読み、目を輝かせた。
「マジっすか……。これ、封印石の欠片、意図的に捨てられてるんじゃ? 誰かが魔獣作ろうとしてるとか……。」
チエは煎餅をバリッと噛み、ステータスウィンドウを開いた。
「魔獣ねえ。ならこの鎌で、そいつらまとめてぶった斬ってやるよ。じん、早速山田解体の現場、偵察だ。軽トラで行くぞ。」
陣内はリュックにノートや虫取り網を詰め、ニヤリと笑った。
「了解っす! てか、山沢さん、今回のクエスト、なんかラスボス出てきそうっすね!」
「ラスボスか。なら、婆さんがトドメ刺す役だ。じ
ん、お前はアイテム係、しっかりサポートしろよ。」
二人は笑い合い、次の目標を山田解体に定めた。