表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

意地悪ばあさんのレベルがあがりました。5

チエと陣内は、ゴミ袋を手に裏山を下りながら、沈む夕陽を背に家へと向かった。チエの鎌は肩に担がれ、陣内のリュックからは封印石と封印鏡の欠片が入ったビニール袋がチラリと覗く。獣道の雑草を踏みしめる音と、遠くで鳴く鳥の声が、戦いの余韻を静かに包み込んでいた。

チエはさっきまで鎌で大活躍した自分の右手を眺め、それからステータスウィンドウを確認した。


【山沢チエ】

種族:ヒューマン 年齢:65歳

レベル:16 (経験値:1750)

スキル:【嫌味ブースト】

アイテム:【魔獣の牙】(未装備)


「ふん、レベル16か。ネズミ10匹で結構経験値が入ったな。」


チエが手を振ると目の前のステータスが消えた。まだまだステータスの仕組みもよく分からないなと呟く。

隣を見ると陣内もスキルボードを見ながら、自分のスキルを確認しているようだった。

その陣内がぱっと顔を上げ、でチエの方に振り向いた。キラキラした表情で、いいものをみつけた子供のような顔だ。


「山沢さん、俺の新しいスキル、試していいですか? 【魔獣の牙】と鎌を貸して下さい」

「ほう。じんの新しいスキルか。」

「これです。えーと、スキル【アイテム合成】!!」


陣内の手元で【魔獣の牙】と鎌が赤い色の光を放った。【魔獣の牙】が液体となり、鎌に染み込むように合成されていく。


「おぉぉぉ……!」

「自分でやっておいて、驚きすぎだな」

「まさにファンタジーですよ! はい、山沢さん。どうですかね?」


チエは鎌を受け取る。見た目は色が変化して鎌先がやや赤みががったことと、使い古した鎌だったがちょっと綺麗になったくらいか。大きさや重さは変わらない。

ブンブンと振り回すと、手のひらにフィットする感触がした。ふと、ステータスボードを開く。


【山沢チエ】

種族:ヒューマン 年齢:65歳

レベル:16 (経験値:1750)

スキル:【嫌味ブースト】

装備:【魔獣の鎌】攻撃力+18 すばやさ+25


「お、【魔獣の鎌】だと。攻撃力とすばやさが上がっているな」

「やった! 【アイテム合成】成功ですね! また【魔獣の牙】が手に入ったら、合成しましょう」

「そうだな、じんの武器も必要だしね」


喜ぶ陣内の隣で、チエはしばらく鎌を素振りしながら帰路を歩く。陣内は「次は動画で【アイテム合成】撮ってネットにあげようかな」など呟きながらスマホを覗き込む。

スマホに夢中になるあまり、時折草むらに足を取られてよろける陣内に少し笑う。

チエが鎌を軽く振りながら口を開いた。


「なぁ、じん。今回のことで一つわかったぞ。」

「え、なんすか? その鎌の使い心地ですか?」

「いや、【アイテム合成】もそうだが、お前の【弱点分析】も地味に使えるってことだ。尾っぽ狙えなんて、全く思いつかなかった。」


陣内は照れくさそうに頭をかき、スマホを手に取った。


「へへ、そりゃどうも。でも山沢さん、めっちゃ強かったですよ! あの鎌の振り方、ヤバすぎ…。やっぱりレベルアップ効果なんですかね。」

「あー、レベル16ってのは強いんかね」

「まあ少なくとも俺より強いですからね。―――てか、Xにさっきの投稿、めっちゃ反応来てますよ!」


陣内がスマホを見せると、チエは老眼鏡をかけ直し、画面を覗き込んだ。彼の投稿『神社でヤバい石見つけた。封印石の欠片って出たんだけど、誰か知ってる?』には、すでに数十件のリプライがついていた。


「『それ、呪物じゃね? 燃やさず専門家に相談しろ』…『うちの近くの神社でも似た話あった! 動物でかくなった』…ふん、案外こういう話、珍しくねえのかな?」


チエが眉を上げた。


「ですね! なんか、『封印石は異世界の魔術師が作った』とか、書いてる人がいるな。プロフィール見ると、異世界帰りの呪術処理専門家、だって。試しにリプくれたこの@OccultSenninって人にDMしてみます? 」


チエは腕を組み、しばらく考え込んだ。


「異世界とか呪物処理ってかなり胡散臭いな…まぁ、いい。すでにリアルがファンタジーになってるわけだしな。DMしてみな。本当に変な奴だったら即ブロックするだけだ。」

「了解っす! 」


陣内が笑いながらスマホを操作し、DMを送信した。




家に戻ると、チエは玄関の鍵を開け、陣内をリビングに通した。テーブルの上には、さっきの麦茶のピッチャーがまだ置いてあり、チエは新たに煎餅の袋を開けて陣内に放った。


「ほら、腹減っただろ。食いながら次の作戦考えよう。」


陣内は煎餅を齧ろうとして、あまりの固さにびっくりする。どうにかひとかけら齧ってもぐもぐとする。袋には鬼硬煎餅と書いてあった。目の前のチエは普通にパリパリとたべている。

陣内は少し首を傾げてから、ノートに今日の出来事を書きなぐった。


「で、山沢さん。封印石と封印鏡の欠片、ひとまず家で保管っすか? それとも、どっか安全なとこに預けます?」


チエはソファにどっかり座っている。彼女のステータスウィンドウが一瞬光り、【嫌味ブースト】の詳細を確認しているようだった。


「保管ねえ…」


チエはステータスウィンドウを手を振って消し、考え込んだ。


「この家、物置に古い金庫があるんだ。夫の親父さんが昔、農協の金でも隠してたのか知らねえが、頑丈なやつだ。あそこに入れとけば、ネズミも食わねえだろ。」

「それがいいですね! じゃあ、明日、金庫にぶち込みましょう。あと、裏山のゴミ、また増えないように監視カメラとかつけます?」


チエは鼻で笑った。


「監視カメラ? そんな金ないよ! 見回りして、不法投棄のバカどもを追い払うしかないかな」


陣内は笑いながら、ノートに「監視カメラ案」「金庫保管」とメモを追加した。

その時、陣内のスマホがピロンと鳴った。@OccultSenninからのDMだ。


「山沢さん、返信来ました! ちょっと読んでみますね。」


@OccultSenninのDM

「封印石の欠片と封印鏡の話、動物の魔物化に関係しているかもしれない。異世界の封印術の一部で、魔力を閉じ込めるためのアイテムだよ。欠片が散らばると、魔力が漏れて周辺に異常現象が起きる。燃やすのは最悪の選択。魔力が拡散して、もっとでかい魔獣が生まれる可能性がある。欠片は全部集めて、特定の儀式で再封印する必要がある。俺、正体は明かせないけど、その封印石があった異世界から帰ってきたんだ。ちゃんと説明できないから、どう考えても怪しい奴でしかないだろうけど、信じて欲しいとしか言えない。最近起きてる動物の魔物化を止めたいだけなんだ」


陣内がDMを読み上げると、チエは眉をひそめた。


「儀式ねえ…。またオカルト板みたいな話だな。こいつ、信用できんのか?」


陣内はスマホをスクロールし、@OccultSennin

のプロフィールと過去の投稿をチェックした。


「投稿見ると、異世界だとか封印だとかの話ばっかで、一見ヤバイ奴ですけどね。……まぁ、DMだけで話す分にはリスクないっすよね?」


チエは煎餅をバリッと噛み砕き、頷いた。


「なら、話だけ聞いてみるか。異世界だとか胡散臭いけど、実際に目の前にステータスボードだとか魔獣の牙とかあるわけだしなあ。ただのホラ吹きだとしても、その儀式とやらをやらないよりやってみるだけならタダだろ。じん、どんな儀式か、ちゃんと聞き出せ。」


「了解しました! 今、返信します!」


陣内がDMを打ち始める中、チエは「ステータスオープン」と呟き、ステータスウィンドウを開いた。【嫌味ブースト】の効果を試すため、試しに陣内に嫌味を飛ばしてみる。


「おい、じん。煎餅の欠片、床に落とすんじゃねえぞ。婆さんの家、ゴミ屋敷じゃねえんだからな。」


【嫌味ブースト発動! 陣内のスキル効果+10%、3ターン継続】


陣内はクズを拾いながら笑った。有名な鬼硬煎餅なのに、握ったせんべいの欠片は一瞬で粉になり、ごみ箱へさらさら落ちていく。


「うわ、スキル発動した! 山沢さん、これ、戦闘中に使ったらバフめっちゃ強いっすね!」

「くくっ、婆さんの嫌味は武器になるってことか。あはははははは。」

「じゃあ、たくさん嫌味言ってくださいねー!! あー疲れた……このまま寝ていいですか?」

「―――ここに泊まるってことか?」

「もうこれ以上、動けない……から……ふぁ……」


喋りながら目を閉じた陣内は、そのまま寝息をたてていた。

その顔はかつて眺めていた子どもたちと同じ、幼い寝顔であった。なぜだか可愛かった末の娘によく似ていた。チエも知らず知らずのうちに母親の顔になる。


「美咲……っ、他人のそら似、か。いや、よく見ると全く似てないな」


ため息をついたチエは、押し入れから毛布を引っ張り出して陣内に掛けた。


「許可を得る前に寝てんじゃねえか。―――もっと警戒しなさい。心配だよ、おかあさんは。」


【山沢チエ】

種族:ヒューマン 年齢:65歳

レベル:16 (経験値:1750)

スキル:【嫌味ブースト】

装備:【魔獣の鎌】攻撃力+18 すばやさ+25

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ