意地悪ばあさんのレベルがあがりました。4
チエと陣内は、祠の奥から響くガサガサという不気味な音に身構えた。暗闇の中で光る赤い目は、まるで小さなランタンのように揺れている。チエは鎌を握り直し、口の端を吊り上げた。
「じん、【鑑定】だ!! ビビってねえで敵の数とレベル、確認しろ!」
陣内は慌てて【鑑定】と声を上げると、目の前に青い半透明のウィンドウが浮かんだ。
【魔獣:巨大ネズミ(Lv.5)】
HP:50/50
攻撃力:15
防御力:10
特技:群れの連携(複数で攻撃時、ダメージ+20%)
説明:封印石の魔力により異常進化したネズミ。鋭い牙と素早い動きで獲物を追い詰める。
「封印石の魔力により異常進化したネズミ!! うわ、5匹います! レベル5で、HP50! 特技がやっかいそう…群れで来たらダメージ上がるって!」
陣内が声を震わせながら報告すると、チエは鼻を鳴らした。
「封印石の魔力ね……たかがネズミだろ。レベル5なら、レベル15の私の方が強いはずだ。じん、お前は後ろで援護しろ。【鑑定】以外に何かスキルあんのか?」
「えっと、【弱点分析】なら!【鑑定】の派生スキルで、 敵の弱点見つけられるはずです! ちょっと時間かかるけど……」
「なら、さっさと使え! 私が時間稼ぐ!」
チエが叫ぶと同時に、巨大ネズミの一匹が飛びかかってきた。体長は50センチを超え、牙はナイフのように鋭い。チエは鎌を振り上げ、ネズミの腹を切り裂いた。
【クリティカルヒット! 巨大ネズミに70ダメージ!】
ウィンドウがポップアップし、ネズミは一撃で地面に倒れた。黒い霧のようなものが立ち昇り、ネズミは消えた。チエのステータスウィンドウがチラリと光り、経験値が2増えた。
「思ったより身体が動く……。これがレベルアップ効果ってやつかな。悪くないね!」
チエが笑うが、残りの4匹が一斉に動き出した。群れの連携を発動させ、牙をむき出しで襲いかかる。チエは鎌を振り回し、2匹を弾き飛ばしたが、1匹が足元に潜り込み、ジャージの裾を噛んだ。
「ちっ、こいつ!」
チエが鎌で振り払おうとした瞬間、陣内が叫んだ。
「【弱点分析】完了! こいつら、尾っぽが弱点です! 尾を狙えばダメージ2倍!」
「ナイス、じん!」
チエは身を翻し、鎌を低く構えた。ネズミが再び飛びかかると、素早く尾を狙い、鎌の刃を振り下ろす。
【弱点攻撃! 巨大ネズミに100ダメージ!】
2匹目が断末魔の叫びを上げて倒れる。残りの2匹は怯んだように後退したが、祠の奥からさらにガサガサと音が聞こえた。陣内がスマホのライトを向けると、そこにはさらに大きなネズミが姿を現した。
【魔獣:ネズミの王(Lv.10)】
HP:200/200
攻撃力:30
防御力:20
特技:咆哮(味方の攻撃力+30%、1ターン継続)
説明:封印石の魔力を大量に吸収したリーダー格。知能が高く、群れを統率する。
「やべえ、ボスきた! 封印石の魔力を大量に吸収したリーダー格だって!! 山沢さん、こいつHP200! 咆哮で他のネズミ強化されます!」
陣内が青ざめる中、ネズミの王が口を開き、耳をつんざく咆哮を上げた。残りの2匹の目がさらに赤く輝き、動きが素早くなった。
「くそっ、面倒くせえ! じん、援護しろ! 何か投げろ!」
チエが叫ぶと、陣内はガサゴソとリュックから水筒を取り出し、ネズミの王めがけて投げつけた。水筒は命中したが、ダメージはわずか5。ネズミの王は怒り狂い、陣内に向かって突進してきた。
「うわああ! 山沢さん、助けて!」
「ったく、情けねないね!」
チエが飛び出し、鎌でネズミの王の尾を狙ったが、ボスは素早く回避し、逆にチエの腕をかすめた。
【チエに20ダメージ! HP:80/100】
「ちっ、こいつ、動きが違う! じん、その封印石ってやつをどうにかしろ! こいつのパワー、たぶんあの石から来てる!」
陣内は地面に散らばる黒いビニール袋に目をやり、急いで中を確認した。黒ずんだ石とガラス片がいくつか転がっている。陣内はガラス片を手に取り、【鑑定】を発動する。
【封印鏡の欠片】
効果:封印石の魔力を吸収する。
「山沢さん、これ! 封印鏡の欠片で封印石の魔力減らせるかも!」
「なら、さっさとやれ! 私がこいつら引きつけるから!」
チエは鎌を振り回し、ネズミの王と残りの2匹を牽制。陣内は地面に這うようにして封印石の欠片と封印鏡の欠片を集め、重ね合わせる。
【封印鏡が封印石の魔力を吸収! 魔力放出が抑制されます!】
ウィンドウが光ると同時に、ネズミの王が苦しげに吠えた。赤い目が一瞬薄れ、動きが鈍くなる。チエはすかさず尾を狙い、渾身の力で鎌を叩き込んだ。
【弱点クリティカル! ネズミの王に150ダメージ!】
ネズミの王は大きくよろめき、残りの2匹も混乱したように逃げ惑う。陣内がさらに散らばっていた封印鏡の欠片を集めて、まとめた封印石と合わせると、辺りは白い光に包まれた。
【魔獣の魔力が弱体化!】
ネズミの王のHPが一気に50まで低下。チエは息を整え、鎌を構えた。
「じん、ナイスだ! 後は私が片付ける!」
チエは一気に飛び込み、ネズミの王の尾に鎌を振り下ろした。
【弱点攻撃! ネズミの王に80ダメージ! ネズミの王を討伐!】
ボスが倒れると、残りの2匹は悲鳴を上げて茂みに逃げ込んだ。チエと陣内は肩で息をしながら、互いに顔を見合わせた。
「…ふう、なんとかやったな。じん、よくやった。」
「はは、山沢さんがバッチリ決めてくれましたよ! てか、これ、経験値めっちゃ入りますね!」
チエのステータスウィンドウが光り、レベルが1上がった。
【チエ:レベルアップ! Lv.15 → Lv.16】
新しいスキル:【嫌味ブースト】(味方のスキル効果+10%、3ターン継続)
陣内もウィンドウを確認し、ニヤリと笑った。
「俺もレベル上がった! Lv.6! スキルに【アイテム合成】追加! これ、なんか使えそう!」
チエは鎌を地面に突き立て、祠を見上げた。
「ったく、こんなオカルトじみたこと、婆さんになってからやるとは思わなかったぜ。…で、じん、このゴミ、どうすんだ? また燃やすか?」
陣内は首を振って、スマホを取り出した。
「いや、燃やすとまたヤバいことになるかも。Xで詳しい人探して、封印石のことちゃんと調べましょう。てか、山沢さん、たぶんこの祠、ちゃんと管理しないとまたゴミ捨てられますよ。」
チエは鼻で笑い、老眼鏡を外した。
「管理ねえ。たしかにこの裏山、我が家の敷地内だからな。次、ゴミ捨てる奴がいたら、この鎌で追い払ってやるよ。」
二人は祠の周りのゴミを片付けながら、夕暮れの裏山を下り始めた。魔力がなくなった封印石と魔力を吸収した封印鏡のほとんどは粉々になってしまったが、残りの封印石と封印鏡の欠片もビニール袋に入れて口をギュッと絞った。
チエのジャージの裾は少し破れていたが、新しいアシックスのシューズはまだピカピカだった。
「なぁ、じん。パーティー結成、悪くねえな。」
「へへ、ですよね! 次はどんな冒険っすかね、山沢さん!」
二人の笑い声が、薄暗い獣道に響いた。
【山沢チエ】
種族:ヒューマン 年齢:65歳
レベル:15 (経験値:1525)
スキル【嫌味ブースト】(味方のスキル効果+10%、3ターン継続)