意地悪ばあさんのレベルがあがりました。12
チエと陣内がダンジョンから飛び出たとき、ダンジョンのあった裏山の祠は大爆発を起こした、らしい。
と、言うのも、爆発に巻き込まれたふたりにはその時の記憶がないからだ。
近隣の住民により、警察と救急に連絡がいったためふたりは直ぐに救助された。
警察に不法投棄の相談をしていた件もあり、不法投棄のゴミが爆発物であったという結論となったそうだ。山田解体業者は余罪を追及され、そして、被害者のふたりは仲良く病院のお世話になる羽目となったのだ。
目を覚ましたとき、チエはリアルに「知らない天井だ」と呟いていた。昔のアニメみたいなセリフにちょっと笑ったが、その途端に痛みが走る。爆発の影響でチエはそれなりの重症患者だった。病院嫌いの偏屈ばばあではあったが、あまりの身体中の痛みに大人しく入院生活を過ごしている。まあ、入院してみれば、世話をされる生活も悪くはない。医者も看護師もNPCだと思えばいいだけだ。
「ねえ、山沢さん……」
「なんだい、じん」
「なんで息子さん達に、俺のこと友だちだなんて言ったんですか?!」
「そりゃあ……、さすがにパーティーメンバーだなんて言えねぇだろ」
病院の中庭には自主的にリハビリの散歩をしている患者や見舞いの人などがおり、それなりに賑わっている。休日の午後、入院患者のチエと陣内は、のんびりベンチに腰を掛けてくつろいでいた。
五月晴れの青空の下、爽やかな風がふたりの髪の毛を揺らす。暑くもなく、寒くもなくちょうどいい気候だ。
チエは腕の骨折のため三角巾で腕を吊り、陣内は足の骨折のため松葉杖をついていた。
あのダンジョン冒険の日から、すでに1週間が経っていた。
「30歳以上年下の男の友だちなんて、おもいっきり怪しいじゃないですかっ!オレオレ詐欺とかロマンス詐欺の人だと思われたのか、息子さん達にめちゃくちゃ色々聞かれたんですからね。息子さん達昔やってたスポーツって柔道ですよね?あんなにガタイがよくて、強そうな人たちに責められたら、俺なんてひとたまりもないですよ!」
「すまないね……あまり連絡をとってない子たちだから、あんな剣幕で来るとは思わなくてな」
ポリポリとチエは頬をかく。
「ネットで仲良くなったなんて言ったら、そりゃあ心配しますって……。俺も親がそんな人と友だちなんて言ったら不審に思いますもん……。仲良くしてる自分が言うのは変ですけど。言いようですよ?例えば―――たまたまそこに居合わせた人でいいじゃないですか」
「だって、じんは見知らぬ誰かじゃなくて……、消息を心配するくらいには、友だちだから、な」
「まあ、看護師さんにも言われましたけど。山沢さんが心配してましたよって。意識を取り戻して直ぐに気にかけてくれたって」
チエは陣内の足を見る。陣内はギプスと包帯でぐるぐる巻かれた左足の指先を、ぴょこぴょこ動かして元気をアピールする。
「私よりも重症だからな。足が折れるのは不便だろ」
「若いから大丈夫です。すぐに治りますから。それに松葉杖の使い方もバッチリマスターしましたから」
「じんの家族にも巻き込んで済まなかったと謝りたい気持ちはあるんだが……」
「言ったでしょ、両親とも海外で暮らしてて一人暮しだって。結婚した姉がまあ、いろいろ世話はしてくれますし。姉も俺のXのアカウント見てたみたいで、不法投棄事件に自分から首を突っ込んだって思ってますよ」
「家族に垢バレとか、じんのネットテラシーが心配だよ……」
「だから、俺の心配は、大丈夫。山沢さんも、退院後にしばらく家族が同居するって聞いたから、心配してませんよ」
「次男一家がな……。一月は泊まって世話をすると言ってる。―――だが、アレクサが電気つけるしカーテン開けるし、掃除はルンバがするし、利き手じゃないからごはんも片手で出来るし、世話なんかいらないんだがなあ。買い物だってアマゾンもネットスーパーもあるんだし」
「あんな古い家なのに結構なスマート家電なの、山沢さんらしいですね……。まあ、今まで疎遠にしていた分、なんじゃないですかね。心配させちゃったんですから、しっかり甘えたほうが息子さん達の気持ち的にいいんじゃないてますか?」
まあとか、うむとか言いながら、顎を撫で回した後、チエは陣内の方をみる。
「だが、新しいダンジョンが出来るかもしれないだろ?」
「……山沢さん!」
「うちの裏山の祠は"外れ"だから捨てる、他に国内に何箇所かダンジョンの根っこがあるからと、センニンが言っていたじゃないか」
「ですけど、こんな目にあってもまだダンジョンに潜るんですか……?」
「たぶん、だが……。センニンが扉を開けずにダンジョンの奥に居たのは理由があると思うんだ。私にあの幻を見せたのも、怒らせてセンニンを追いかけようと思わせたんじゃないかって」
「センニン自身で、扉を開けられない理由があるってことですか?」
「異世界人には開けられず、こちらの世界の人しか扉を開けられないなにかがあるとか。もしそうなら―――次は他の誰かが犠牲になるかもしれないじゃないか」
さわさわと中庭の草木が揺れる。少し風が強くなってきたのか、チエは顔にかかるじゃまな前髪を耳にかけた。
陣内は自分の親と変わらない歳の人が、あまりにも強い顔をしたのでしばらくその横顔をみていた。
「やっぱり、山沢さんは"いじわるばばあ"じゃなくて、"優しいお母さん"ですよね……。」
強く吹いた風の音で、陣内の呟きはかき消される。
「―――えっ?なんて言った?」
「なんでもないです。とりあえず、怪我を治してからにしましょうね。」
「そうも言ってられないだろう。じん、お前の家の近くでウサギが巨大化しているんだから」
「―――あ!!」
「退院したら、まずはウサギの多いところを探してダンジョンの根っこがどの辺りにあるか、不審なゴミが捨てられてないかだけでも調べておこう」
「……ですね。」
「あとはネットでおかしな動物の情報を調べて―――」
「結構、やることいっぱいじゃないですかあ……」
「@OccultSenninの別垢も探したほうがいいだろうな―――」
顎を撫でながら思案する年上のパーティーメンバーは、やっぱりとても頼もしく見える。
「山沢さん、これからも、パーティーメンバーとしてよろしくお願いします」
「応。休んでる暇、ないからな?」
【山沢チエ】
種族:ヒューマン 年齢:65歳
レベル:32 (経験値:7950)
スキル:【嫌味ブースト】【異常状態耐性】
装備:【魔獣の鎌】攻撃力+18 すばやさ+25
【陣内誠】
種族:ヒューマン 男 年齢:28歳
レベル:21(経験値:5589)
スキル:【鑑定】 【弱点分析】 【アイテム合成】【緊急回避】
装備:【封印網】虫取り網 攻撃力+5 魔獣を捕獲時、50%の確率で魔力を吸収し弱体化。
読んでくれてありがとうございます。
また老人主人公でした。私カッコいいおばあちゃんがだいすきなんで……
あーでも、もう戦闘シーン下手すぎて、もういうの書かないと思うー泣