意地悪ばあさんのレベルがあがりました。10
ダンジョンの奥まで進むと、さらに色の違う石のアーチが現れた。やはりアーチの内側には揺らめく光の膜がうねって見えた。
「今度は黄色のアーチか、入るぞ」
「行きましょう」
チエと陣内はアーチをくぐると、そこは再び霧の中であった。さわさわと音を立てて霧が渦を巻くと、目の前に新たな魔獣と美咲の幻が再び現れる。
巨大なネズミの魔獣と、蛇の魔獣の2体。
どちらも異様に膨れ上がり、赤く輝く目と鋭い牙や鱗が不気味に光る。美咲の幻は再びチエの前に立ち、冷たく囁く。
「母さん……私の死を忘れたの……? 生き返らせてくれないの……?」
「美咲、黙れ! もう、死んだものは……生き返らないんだよ……。私たち家を守るため、こいつらぶっ潰す!」
チエは幻を無視して、鎌を振り上げる。ネズミの耳を掠るが、HPは削れない。
陣内が【解析強化】をする。スキル効果があがって、一瞬で魔獣を【鑑定】【弱点解析】する。
【魔獣:ダークラット(Lv.23)】
HP:380/380
攻撃力:85
防御力:55
特技:疫病かみつき(毒+継続ダメージ)
備考:異世界の魔力でネズミが魔物化。異常な速度と群れ行動が特徴。
弱点解析:尻尾
【魔獣:ヴェノムサーペント(Lv.25)】
HP:450/450
攻撃力:90
防御力:60
特技:毒霧(範囲内の対象を毒状態)
備考:異世界の魔力で蛇が魔物化。毒と拘束攻撃が得意。
弱点:眉間
「山沢さん!ネズミは尻尾、蛇は眉間が弱点です!」
「助かる、じん! よし【威圧オーラ】」
チエは【威圧オーラ】を放ち、ダークラットとヴェノムサーペントの攻撃力を下げる。レベルが上がった効果か、素早くダークラットの群れに突っ込み、鎌を振り回す。
【連撃ヒット! ダークラットに200ダメージ! HP:180/380】
ダークラットが【疫病かみつき】で反撃。チエの腕に牙が食い込むが、レベルアップの際に異常状態耐性が上がっていたため、ダメージはずいぶん軽減されている。
【チエ:毒ダメージ軽減! HP:140/200】
陣内はすかさずリュックから粗塩を取り出して、チエに向けて撒く。チエのステータスから毒の色がきえる。
さらに陣内はヴェノムサーペントの眉間を狙い、【封印網】で捕獲を試みる。網に頭を突っ込ませることにせいこするが、ヴェノムサーペントが【毒霧】を吐吐いた。
「ああっ……!毒状態に……!」
「くそっ、じん、粗塩かけろ! 毒消せ!」
チエが叫びながら、ダークラットを鎌で払う。
陣内は粗塩を自分に振りかけて、毒を解除。ステータスボードの色が正常に変わる。
そうこうしているうちに、【封印網】から抜け出したヴェノムサーペントが陣内に襲いかかる。
「くっ! うらぁ……っ」
陣内は【緊急回避】のスキルを発動し、サーペントの尾攻撃をかわした。そのまま続けて虫取り網で牽制。
チエはまだ纏わりついてくる美咲の幻を無視し、ダークラットの尻尾を狙う。攻撃を受けていない猛一匹がチエの反対側から飛びかかり、動きを封じようとする。チエは素早く2回鎌を振り、ダークラットの尻尾を連続で切り裂く。
【連撃ヒット! ダークラット撃破! 経験値+400】
陣内から逃れたヴェノムサーペントがチエに毒霧を浴びせるが、異常状態耐性の高いチエには全く効果がなかった。毒霧を受けながらもチエは鎌を振り上げ、サーペントの頭を切り裂く。
【クリティカルヒット! ヴェノムサーペントに250ダメージ! HP:200/450】
「じん、今だ! 眉間狙うぞ!」
陣内が【封印網】でサーペントの動きを止め、チエが眉間に鎌を叩き込む。
【弱点にヒット! ダークラット撃破! 経験値+300】
魔獣は黒い霧となり消えていく。
霧が晴れるとそこは湿ったジャングルのような空間で、封印石が地面に埋まり、魔力を放っている。無数のネズミや蛇が魔物化し、蠢いている。
チエは鎌を握り直し、息を整えた。
陣内も封印網を片手に、汗を拭きながら蠢く魔獣をみていた。
「あれは封印石か……欠片ではなく、全て揃った石ですよね。」
「完全体か……なんとなくだが、強い魔力を放っている気がする。」
「たしか、センニンは封印石が魔獣を生んでると言っていましたよね。」
「ふむ。つまり、アレをぶっ壊せば、魔獣は止まるんじゃねえかな」
「とりあえず、封印石を【鑑定】してみます」
陣内が目の前に埋まっている封印石を【鑑定】【弱点解析】する。
「山沢さん、全部で封印石は5つ、この魔獣の源になってるのは間違いないようです! 壊せば魔獣の湧きが弱まります!」
「叩き割ればいいってことだな」
「【弱点解析】では弱点らしきものは出てこなかったですが、石なので力ずくでやっちゃいましょう」
「いくぞ!」
その時、周りを漂っていた霧が渦巻き、消えていたはずの美咲の幻が再び現れた。幻はチエの耳元で囁く。
「母さん、家を守るより、私を蘇らせて…扉をあけて……あんな田舎、壊れてもいいじゃない……」
「黙れ、偽物! 魔素は溢れさせない!私の娘は自分だけ生きればいいなんて子じゃなかった!自分より周りが傷つくことに心を痛める、優しい娘だった!」
「近所の人たちなんて……、どうでもいいじゃない……。母さんだって嫌な思いしたじゃない……死んだら清々するよ……?」
「それでも、あんたは、周りを大切に思う子だった!だから、人じゃなくて、自分を………っ」
幻を振り切り走り出したチエは、鎌を振りダークラットの尻尾を切り落とす。ダークラットが黒い霧を出して消えたあとから、また新たな魔獣が立ちはだかる。
陣内は【鑑定】と【弱点解析】の結果を叫んで伝える。
襲いかかってきたのは【ポイズンラット(Lv.24)】と【アイアンスネーク(Lv.26)】。チエはラットを蹴散らし、陣内は【封印網】でスネークの動きを封じる。
チエは封印石の1つに鎌を振り下ろし、粉砕。魔獣の動きがわずかに鈍る。
【封印石破壊:1/5】
鈍くなったラットとスネークは、チエの鎌に簡単に弱点を曝け出す。サクッと倒して、次の封印石をさがす。
「じん、残り4つだ! 急ぐぞ!」
「俺、レベルあがりました!解析の範囲が広がったので、ほかの封印石の場所がわかるかもです!」
陣内が地面に向けて【弱点解析】を発動。ダンジョンの地に隠された魔力の流れを感知し、封印石を示す光が浮かび上がった。
「ここです!山沢さん……っ!」
光に向かって走り出すチエ。レベルの上昇で老人とは思えない―――いや、人とは思えない速さで、襲いかかる魔獣の隙間を走り抜ける。ジャングルの木々を猿のように飛び移りながら移動し、そして力いっぱい、鎌を振るう。
「――てゃ! ――たぁ! ――うらぁっ!」
【封印石破壊:4/5】
連続で鎌を振り、あと一つまで石を粉砕する。
チエと陣内は、湿ったジャングルのようなダンジョン内で息を整え、最後の封印石の光を目指した。残りの魔獣たちは、封印石の魔力が弱まったことで動きが鈍り、蠢いていた魔獣たちも、チエの鎌の餌食となっていく。
だが、最後の封印石の周囲には、ひときわ強力な魔力が渦巻いていた。地面から放たれる光が、まるで脈動するように明滅し、封印石を守るように新たな魔獣が姿を現した。
【魔獣:シャドウラットキング(Lv.28)】
HP:600/600
攻撃力:110
防御力:80
特技:暗黒かみつき(毒+暗闇状態)、群れ召喚
備考:ダークラットの王。異常な巨体と知能を持ち、群れを統率する。
弱点解析:心臓部(胸の赤い結晶)
【魔獣:ヴェノムバイパー(Lv.30)】
HP:700/700
攻撃力:120
防御力:90
特技:致死毒尾(即死効果の可能性)、毒霧ブレス
備考:ヴェノムサーペントの進化系。素早さと致命的な毒が特徴。
弱点解析:目
チエは鎌を握り直す。
「じんの【弱点解析】のおかげで、狙うところが分かりやすくてたすかるな!ラットの心臓、蛇の目は私が潰す! お前は封印石を網で狙え!」
「了解です、山沢さん! 」
チエが鎌をシャドウラットキングに向けると、【群れ召喚】のスキルが発動した。数十匹のダークラットが一斉に襲いかかってきた。
チエは【威圧オーラ】を最大出力で放ち、周囲のダークラットを怯ませる。
「小物はまとめて片付ける!」
鎌を振り回し、竜チエは竜巻のような連撃でダークラットの群れを一掃する。
【連撃ヒット! ダークラット×10撃破! 経験値+1000】。
その隙に、ヴェノムバイパーがチエに【致死毒尾】を繰り出す。鋭い尾が空を切り、チエの肩をかすめるが、彼女の異常状態耐性が即死効果を弾く。
「効かねえよ!」
チエは跳躍し、鎌をバイパーの目に叩き込む。
【クリティカルヒット! ヴェノムバイパーに300ダメージ! HP:400/700】。
「陣内、今だ!」
チエが叫ぶ。陣内は【緊急回避】でラットキングの【暗黒かみつき】をかわし、封印網を手に封印石へと突進する。だが、ラットキングが咆哮を上げ、地面から黒い霧が湧き上がり、陣内の視界を奪う。【暗闇状態】に陥った陣内がよろめく。
「じん、塩だ!」
チエが叫び、陣内はリュックから粗塩を掴み、自分に振りかける。暗闇状態が解除されて、クリアな視界に封印石が映る。
虫取り網の柄を振り上げ、陣内は封印石【封印網】を被せた。網が封印石を覆い、魔力の流れを一時的に封じる。陣内はチエに叫んだ。
「山沢さん、封印石の魔力が弱まってます! 今です!」
チエはラットキングの心臓部を狙い、全力で鎌を振り下ろす。赤い結晶が砕け、黒い霧が飛び散る。魔獣から魔素が抜けていくかのようだった。
弱体化したかと思われたが、ラットキングが怒り狂いチエに突進してくる。
「怒ると、行動が分かりやすくて、ありがたいね」
ひらり、と軽やかにジャンプし、突進してきたラットギングを飛び乗る。敵を見失ったラットギングはスピードを落とし、キョロキョロと辺りを見回す。
チエはラットギングの上で冷静に鎌を振り上げ、心臓部を一撃させる。
【急所ヒット! シャドウラットキング撃破! 経験値+800】
同時に、ヴェノムバイパーが【毒霧ブレス】を吐き、チエを毒状態にしようとする。黒い霧とともに消えるラットキングの上から飛び降り【毒霧ブレス】を避けようとするが、身体の半分がブレスを浴びてしまう。
「たが、無駄だね!」
チエの異常状態耐性が再び効果を発揮する。ステータスボードは一瞬だけ毒の色がつくが、直ぐに消え去る。
チエはバイパーのもう片方の目を鎌で突き刺した。傷口から黒い霧が噴き出し、ヴェノムバイパーは断末魔のような声を上げる。
陣内がすかさず【封印網】で暴れるバイパーの動きを封じ、チエが最後の止めを刺す。
【クリティカルヒット! ヴェノムバイパー撃破! 経験値+900】
魔獣が黒い霧となって消滅する中、チエは封印石に飛びかかり、鎌を振り下ろす。
「これで終わりだ!」
一撃で封印石が粉々に砕け、ダンジョン全体が揺れる。
【封印石破壊:5/5】
魔力の脈動が止まり、蠢いていた魔獣たちが次々と霧となって消えていく。
霧が晴れると、美咲の幻も静かに消滅した。
チエは鎌を地面に突き立て、息を吐く。
「美咲はそんなこと言わない、とてもいい子だったんだ……。本当は周りに攻撃するくらい、意地悪な、嫌な子だったら、あんなことにならなかったのかもな……」
陣内が駆け寄り、笑顔で言う。
「山沢さん、かっこよかったです! 全部の封印石の破壊を確認しました。これで魔獣の湧きは止まりますよね!」
「そうだな。あとは、扉を開けさせないため、センニンをぶっ飛ばすだけだ。」
チエは鎌を肩に担ぎ、ジャングルの奥に現れた新たなアーチを見つめる。今度は緑色だ。
「行くぞ。」
二人は新たな光の膜へと踏み出した。
適当に用意した粗塩が、こんなに大活躍するなんて……