静かな朝
昨日のことが嘘のように、空は当たり前に明るくなり朝を告げる。
いつぶりだろう。こんなにも清々しい朝は。
もう覚えていないくらいだ。
お姉さんはどこだろう。
台所から音がする。いい匂いだ。
お姉さんは僕が起きたことに気が付いて手を止めた。
「ゆうくんおはよう。よく寝れた?」
「はい。とてもぐっすり眠れました」
「そう。よかった。もうすぐご飯出来るから待っててね」
「そんな。僕も手伝います!」
「大丈夫。私こう見えて料理得意だから。ゆうくんは座ってて」
「はい。すみません」
「もー謝らなくていいのに」
布団を片付けて端の方に寄せて置く。
なんだか夢のような時間だったな。
冷めてないご飯に温かいお布団。こんなにもお姉さんは良くしてくれた。
これから僕はどうしたらいいんだろう。
神様がいるならどうして僕をお姉さんの子供に産んでくれなかったんだ。
毎日こんなにも温かい気持ちで過ごせたのに。
どうしよう。僕の心が少しずつ現実に晒されていく。
「ゆうくんどうしたの?」
「はっ!すみません!ちょっと考え事してて、、、」
「そっか。でもまずはご飯食べないと頭働かないよ?ほらもう出来たからよかったら一緒に運んで?」
「はい!もちろん!」
考え事しててお姉さんが近くに来ているのに気が付かなかった。
お姉さんの言う通りご飯食べてから考えよう。
台所はとても綺麗でコンロも掃除されている。
ああ、僕の家はカップラーメンの空だけだったな、、いや辞めよう今は思い出す時じゃない。
テーブルには鮭にご飯にお味噌汁それとほんの少しの漬け物が添えられていた。
「むぅ、ゆうくん質素だなーって思ったでしょ」
「え!?全然そんなことないです!ちゃんとしたご飯だなって思ってました!」
「ほんとー?ならよかった!よし食べよ食べよ」
「「いただきます」」
久しぶりにお箸を握ったかもしれない。
若干の緊張を感じながら鮭をほぐし口に運ぶ。
「美味しい!」
「うんうん。よかった」
こんなに美味しいなんて。程よい塩気が鮭の風味を増しお米をかき込めばまた鮭に手が伸びる。お箸が止まらない。
「もう。ゆうくん漬け物とお味噌汁も食べてね?」
「もちろんです!」
お味噌汁を飲み、漬け物を残りのご飯と一緒に食べる。美味しかった。朝からこんな美味しいものが食べられるなんて。
「「ごちそう様でした」」
「なんかゆうくんが初めて年相応の男の子に見えたね」
「う、、、恥ずかしいです、、」
「いいのに。褒め言葉」
恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちとで顔が赤くなるのがわかる。
僕は誤魔化すように片付けをする。
あまり見られないように。
お姉さんと片付けをしたあと。
お姉さんにソファに座るよう言われた。
なんとなくわかっている。僕はこのままここに居るわけにはいかないと。
きっとその話だ
「ゆうくんごめんね。これからの事なんだけど、、」
「はい、、、」
「やっぱり私は警察に電話してちゃんとした施設に入るのが一番いいと思うの」
「い、嫌なんです」
「どうして?」
僕はお姉さんに今まであったことを話した。
かつて近所さんからの通報で施設に行っていたこと。そしてそこでイジメに合いとても耐えられず両親に会いたいと嘘を付き今の家に戻っていたこと。すべて話した。
「そっか。大変だったんだね。ゆうくんとしてはもう施設には行きたくないんだ」
「はい」
「きっと施設は他にもあるから。私がちゃんと今の話を警察とかすれば、」
「嫌です!僕はもうあんな寂しい思いしたくないんです、、、」
「そう、、、」
僕がここでごねたってお姉さんが困るだけだ。
でも、それでも、、僕はお姉さんと居たい
幸せから離れたくない
もう戻りたくない
「僕は!お姉さんとずっと一緒に居たい!た、たとえ、」
そうだ。もう僕はなんでもいい。
お姉さんと一緒なら。
それが犯罪でお姉さんに迷惑かけるなら
僕は奴隷だっていい
「たとえ奴隷でも僕はお姉さんとずっと居たいです!」
「、、、、」
しまった。僕はなんてことを。
落ち着くんだ。お姉さんが困るだけ。
もう、僕はここを出ていくし、、、、
バン!!!!
大きな音と共に僕は床に寝ていた
いや正しくは押し倒されていた
「ゆうくんどういう意味かわかってる?こういうこともしないとかもよ?」
お姉さんは僕の前髪を右手で上げ、大きく見開いた瞳で顔を覗きこんでいる。
お姉さんの垂れた髪が僕の顔を覆う。
怖い。怖い。怖い。
だけど
今頃気が付いた。
お姉さんの手入れされた黒髪
緩やかにカーブを描く目に通った鼻筋
なんて美しいんだろう。
「ぼ、僕はそれでもお姉さんと一緒になれるなら!」
怖い。目を閉じる。
お姉さんが近付いて来るのがわかる。
頑張るんだ
お姉さんと一緒にいるために
次の瞬間僕の頬をお姉さんが舐める。
下から上に触れてるかもわからない程に。
「ゆうくん。目を開けて。ごめんね脅かして。涙出てたから拭いただけだよ」
「え、、、」
気が付いたら涙が出ていた。
どうして幸せなはずなのに。
「ゆうくん?奴隷になるってどういうことかわかってる?」
「はい、、、お姉さんの言うこと全部聞きます」
「ほんとに?約束できる」
「はい。お姉さんとなら」
「じゃあ私の足にキスして。誓ってみせて?」
「はい」
キスなんてするの初めてだ。
だけどお姉さんなら全部捧げていい。
僕の全てを
過去の僕も
未来の僕も
全部お姉さんに捧げる。
お姉さんの足に唇が触れた。
キスなんてわからないけどこれでいいのだろうか。
次の瞬間
お姉さんは僕を温かく包んでくれた。
「今日からゆうくんは私のもの」
―――――あぁ僕はなんて幸せなんだ―――――