どこまでも寒く
いつから感覚がなくなったのだろうか。
手足は震え、冷めきった僕の体を少しでも暖めようとしてくれるが無慈悲な雨が体温を奪っていく。
だけどこの雨が無かったらきっと僕は泣いてただろう。流れているであろう涙も全部雨と一緒に流れていく。だから泣いていないのだ。きっと。
朝起きたら両親はいなかった。蒸発した。
信じたく無かった。なのに現実は容赦なかった。
家賃を滞納しており、住む場所もなくなった。
大家が警察に電話するも着の身着のまま逃げてきた。またあの場所に戻るのは嫌だ。
もう僕の居場所は何処にもないかもしれない。
いや、なかったんだ。
今日が雨で良かった。全部君のせいにできるから。
「ぼーや?こんな時間に何してるの?」
「!?」
女性の声だ。まずい見つかったか。
だけど僕のことを認識してないみたいだから警察ではないはず。
「ちょっと傘忘れただけです。止んだら帰ります」
女性は不思議そうに僕を見て、スマホを取り出す。通報されるか。いつでも逃げれるように体勢を整えるが、
「今日はずっと雨みたいよ?お姉さんの傘使う?」
どうやら天気予報を見てただけだった。
少し落ち着きこれ以上話さないように嘘を付く。
「大丈夫。お母さん呼んだから」
ああ、なんでもういない人の名前使うんだろう。
「ほんと?でもさ君酷い顔してるよ?あ、悪口とかじゃなくてね!」
「どういうことですか?」
「うーんなんか雨の中道端に体育座りしててまるで奴隷みたい」
「奴隷?」
「あっ!ごめんね。ただあまりにも悲しい顔をしていたから」
たしかに。まるで奴隷か。
今の僕はそれ以下だ。縛られることなく海に放り出された。
「ほんとに大丈夫ですから」
「うーん一応お母さん来るまで待っておこうかな?ほら心配だし」
お姉さんは僕の横に座り、傘を少し分けてくれる。
駄目だ。そんなことされたら。
「君さ。やっぱ泣いてるじゃん。お母さん来るの?」
「泣いてないし、お母さんも来る」
「うそ、、だよね?普通こんなに雨降ってたらお母さん飛んで迎えにくるよ?」
お姉さんの言葉に僕の心はこれ以上持たなかった。
「そうだよ!お母さんはいないし、お父さんもいない!」
「そっか、、」
「仕方ないんです。だからこれ以上は構わない方がお姉さんの為ですよ」
「そういうわけにはいかないからさ。今晩だけでも家においで?」
「いかない」
そうだ。いかないんだ。僕は一人でいいから。
このままだとお姉さんにも迷惑掛けてしまう。
そっと僕の肩にお姉さんの手が回る。
次の瞬間僕は温かく包まれた。
「いいから。来なさい」
「ぼ、僕は行けない!お姉さんに迷惑掛かるから」
「心配しないで。それより美味しいご飯お姉さんがいっぱい作ってあげるから!」
「う、、、」
お姉さんの温もりが僕の心を侵食していく。
冷めきって感覚もなくなったと思っていたのに。
温かくほんのり甘く包まれていく。
「お姉さん、、、」
「いいのよ」
ああ。泣いてる。僕は泣き虫だ。
だけど何故だろう。頬を伝うものはほんのり温かかった。