ごぶごぶ
さてと。
訓練所の建物の裏から移動。訓練所の横に生えてる大木の裏に身をひそめる。
また「奥様!」とかいって整列されても恥ずかしいし、訓練を止めてしまっても申し訳ない。
木の葉で顔が隠れる場所から、そっと訓練を覗き見する。
「うっほー!筋肉祭り!」
騎士団長様もなかなかの筋肉の持ち主。
偉そうに腕を組んで立ってるのは、騎士団長よりも下っ端だけどそれなりに立場のある人間だろうか。いかにも脳みそには筋肉が詰まってますっていうデカい筋肉の男だ。奥の方ではこの間いじめてた男たちが腕立て伏せをしている。罰?それとも単に鍛え方が足りないから鍛えてるだけ?
訓練中の騎士は50名ほどだろうか。騎士団は100名ほどだと聞いたことがある。その下の組織に兵団があり、兵団には常時兵と臨時兵がいるそうだ。専業兵と副業兵ってことだね。魔物討伐が必要な時に召集されるらしい。ちなみに、訓練が月に2回あるそうな。元騎士だとか元常時兵だとか元冒険者だとか基礎ができている者と、剣が扱えなくても攻撃魔法が得意な者だそう。
……それから、月2回の訓練には、臨時兵以外の一般市民も参加できるらしい。それを聞いた時は将来兵や騎士になりたい子にも指導してあげてるのかなんて思ったけど。
ギルドの倉庫の樽に刺さっていた剣を見て、そうじゃないと気が付いた。
いざという時に少しでも戦えるようにだ。
消火器の使い方やAEDの使い方を習う様な物に近いのかもしれない。もしかしたら、魔物が街に出たらどうするのかって、ここに住む人は日本人が「地震の時は机の下に」と同じくらい普通に当たり前に皆が知っていてるのかも。
私も……訓練に参加したほうがいいのかな。
いざという時に剣を……いやいや。私にできることはそっちじゃない。
避難した人達の対処とかそっちじゃないかな。
街に魔物が出た時はどうしているんだろう。家にこもって戸締りをしてやり過ごす?
それともどこかへ逃げてそこで皆が身を寄せ合ってやり過ごす?
ギルドの地下は近所の人が逃げ込む場所なんだよね?他にも避難所みたいな場所があるのかな?少なくとも領主館であるここも避難所の一つだろう。
……うーん、知らないことだらけだ。勉強しなくちゃなぁ……。いざという時、私だけ逃げ遅れちゃうとかないわ、ないない。
っていうか、まあ、街に行くときはカイもいるし。逃げ遅れるなんてことはないか。
「団長!ゴブリンの巣が見つかりました!」
ゴブリン?
私が知ってる小説の中のゴブリンといえば……。初級モンスターだ。二本足歩行の緑色の魔物。人よりも小さいけれど、素手で戦えば普通の人……レベルの低い初心者は叶わない。剣などの武器を持てば、なんとか倒せるとか、そんな位置づけだよね。
鍛えた騎士団なら問題なく倒せるっていう、言うなれば雑魚のはず。
「規模は」
「それが……発見が遅かったためかなりの数ではないかとの報告です」
あ。そうそう。巣をつくって群れで生活する。あまり強くない魔物だけど、数が増えると厄介って物語のゴブリンもそんな感じだったな。
「わかった。訓練は終了だ。ゴブリン退治に向かう。各自5分で準備を整え城門前に整列するように」
騎士団長の言葉に、騎士たちはビシっと敬礼し、すぐに行動を開始する。
「お前は他の地区の討伐に当たっている者たちにも応援が必要になるかもしれないと伝令を。それからお前はギルドへ行け。ギルド長に指示を仰げ。冒険者から何か情報があれば共有のためすぐに知らせてくれ。それからお前は……」
と、騎士団長は次々と指示を飛ばしていく。
その間に、部下が持ってきた鎧を身に着けている。
うわー、かっこいい!筋肉が見えなくなっちゃう鎧は私にとっては敵だけど。
でも、鎧姿は鎧姿で騎士って感じがしてかっこいいよねぇ。しかも、ビシビシ指示を飛ばすのも素敵。
……って、また私は!そうじゃない。
ぎゅっとスカートを握りしめる。