あの騎士のその後
ぬ?また、建物の裏でいじめ事件発生か?
「すごいな、団長に勝った時は驚いたよ」
「ずいぶん練習して、そろそろ実践に使えそうなんだろう?」
ベテランの騎士たち4人に肩を叩かれながら、光属性のいじめられていた騎士が恥ずかしそうに頭をかいている。
「いえ、まだ魔力量の調整が不十分で、実践となると難しいです。3回がやっとで、剣を振りながらでは魔法を発動することができなくて」
口ひげの優しそうなまなざしの騎士がぽんっと背中をたたいた。
「剣を振りながら発動する必要なんてないだろう、俺たちがいる」
「そうだ。何のための仲間だ。信用してくれ」
「ってことは、連携訓練をした方がいいってことだな」
「魔法発動時の合図だけじゃダメってことだな。発動の準備に入る時の合図がいるか」
「とにかく、新しい技なんだから、身に着くまでは繰り返し練習するしかない。連携パターンだって一つじゃなくいくつも試してみよう!」
うんと、光属性の騎士が表情を引き締めて頷いた。
「えーっと……」
首をかしげる。
何があったんだろう?
私がいじめてたやつらの膝をつかせたことで、彼が騎士団に受け入れられた……なんて話じゃないよね?
会話を思い出す。
団長に勝った……と言ってたよね?
新しい技を身に着けると言ったよね?
なるほど!
「なぞはすべてとけた!」
うんうんと頷く。
剣の練習をしてもっともっと強くなって必殺技とか編み出して、団長に勝ったから一目置かれるようになったって感じ?
なんだ。そっか。
光属性だからって馬鹿にされてたけど、結局は実力社会なんだね。魔法は関係ないんだ。
「ってことは、私があのとき手を出さなくても、彼は認められていじめられなくなるってことだったんだよね……」
余計なことしちゃったかなぁ。
余計なお世話する女……。恥ずかしい。正義感振り回して……。
見つからないように静かに距離を取る。
私が去ったあとに、騎士たちがしていた話が私の耳に届くことはなかった。
「しかし、誰が光魔法は役に立たないなんて言ったんだろうな」
「ああ。今、奥様が空に打ち上げた魔法も練習しているんだろう?」
「高く上げることはできるようになったけれど月光は暗すぎるし日光は魔力の消費が激しいので、奥様のようにはいきません」
「奥様は魔力が大きいって聞いたからなぁ」
「そういやぁ、屋敷が最近どこも明るいって話だぞ。調理場も資料室も倉庫さえ明るいんだと」
「まさか、奥様が屋敷を明るくしているのか?そんなにたくさんの日光はさすがにいくら魔力が大きくても無理だろう?それとも、それが可能なほどの魔力を持っている?」
「そういやぁ、お前にあの魔法……目つぶし……じゃない、閃光弾だっけか?教えてくれた女がいたんだろ?」
「はい。お礼が言いたいのですが、名前も聞いていなくて……」
「お仕着せとは違うけれど、使用人みたいな服装をしていたんだろ?ってことはさ、新しく雇われた子かもしれないぞ?」
「屋敷を明るくしているのもその子なんじゃないか?」
「そうかもしれないなぁ。王都の建物を見たことがあるけどここと違って、大きな窓が付いてるんだ。部屋の中もかなり明るいはずだ」
「じゃあ、屋敷の中の暗さに奥様が慣れないから、新しく人を雇って明るくしてるってことか?」
「分からん。侍女たちは奥様の噂はするが、何処まで本当のことか分からないんだ」
「そう、全然分からない。だいたいマーサ以外誰も世話をしたがらなかったんだろ?」
「そうそう、姿を見ないと言ってたな」
「おいおい、お前ら。侍女と逢引もほどほどにしておけ。訓練に戻るぞ」