なかなか特産品は難しい
「ねぇ、料理長、このハーブって、特別なものとか使ってる?」
料理長が私に近づいていて声を潜める。
お、もしかして企業秘密とかだった?他の料理人に聞かれたら困る話?それは失礼なことをしてしまった。
「今からでは増やすことができないんです、申し訳ありません」
と、思ったら頭を下げられた。
「あの、頭を上げてください。たくさん用意してという話ではないのよ?」
料理長が頭を上げてほっとした顔を見せる。
「そうでしたか。実は、雪の下からのぞく芽を使っております。雪が積もって春になりかけた短い時期にしか取れないもので……。もし、たくさん必要というのであれば、来年はもっと作ります」
う、うお?
そういえば、ユキワリソウだとかユキノシタだとか、雪が名前に付いている植物が世の中にはあった。雪深く植物が育ちにくいと言っても、逆に雪国だからこそっていいのもあるわけだ。それを特産品にすれば……!
いや待て待て、ハーブってそもそも庶民は使うの?
侯爵家で虐げられていたときには味気ない物しか食べさせてもらえなかった。調理場の手伝いをしていた時も、使用人の料理には香辛料やハーブや砂糖などほとんど使われてなかった気がする。いや、侯爵家……両親はケチだから使用人に高い物なんか食べさせなくていい!ってだけかもしれないけど。
カイに買ってきてもらった肉串も、塩だけのシンプルな味付けじゃなかったっけ?
うん。売れないな……売れても領地が潤うほどの量は売れないだろうし、胡椒が金と同じ価値があるというくらい価値が出るとも思えない。美味しいけどね。ハーブの組み合わせを工夫すれば似たような味なら再現できちゃうわけだし。
味よりもまずはお腹いっぱい食べられるもの。少し贅沢しようかなって金額のものが一番売りやすい。果物とかがそうだろう。
しかしなぁ。近隣の栄えている街、領都までも馬車で2日はかかるんだよね。王都までだともっと。それも魔物がいつ出てくるか分からないような危険な道を進まないとだめだし、道はでこぼこで馬車は揺れるし。果物痛むよね。いっそクルミやココナッツみたいな固い殻に覆われたものがあればいいのに。って、ないもんはない。
うーん。大量にあるのは雪なんだろう。氷も張るのかな?スケート場でも作るか?イルミネーション輝く氷の張った湖の上で恋人同士が手をつないでアイススケートを……。
無理だわ!いろいろ無理がある!交通の便が!雪と魔物でダブルで無理だって!飛行による移動手段があればワンチャンスだけど。
本当、飛行竜とかで移動できないのかな。この世界ないよねー。いや、前世でもないよねー。あったのは飛行機にヘリコプター。最近はドローンに、空飛ぶ車も開発が進んでるとかなんとか……。
「あ!」
飛行船……!水素やヘリウムつめた風船みたいなやつ……!いや、どうやってヘリウム集めるのか!水素は爆弾にもなるから怖いから無し!
ハンググライダーとかもあったな。いや、風船みたいなといえば、熱気球。
火魔法使いがいれば、バーナーみたいなものもいらないし、薪や炭を積む必要もないのでは?
火魔法使いが熱気球を大空に浮かび上がらせ、風魔法使いが風の力で進む方向をコントロールする。
人件費だけで、燃料費とかいらないし、空飛ぶ魔物にさえ警戒すればいいし、がたごと揺れることもないし、山だろうが谷だろうが川だろうが迂回しなくていいし……。
あれ?行けちゃいます?
あとは、火属性魔法使いと風属性魔法使いの能力次第で実用化が見えてくる?いや、火魔法は炭など何か燃やせばいいし、推進力としてスクリュー?尾翼?とかなんか……。あれ、まって、確か熱気球って上下しかできないんだよね?なんで?火が危ないから?飛行船はヘリウムとか詰めたやつだから安全?
ん?んん?




