できあがりー!
「よかった。あ、あのね、これはここにない料理だから、作り方を教えていただけで、もう覚えたわよね?じゃあ、あとは任せるわ」
マーサがそうでしたかと納得した顔をする。
よっしゃ!誤魔化せた。慌てて手を洗ってから、私も試食する。
うん、上手にあがっているぞ表面カリっと。中はふわふわ。
ハーブがいい味付けになってはいるけど、やっぱり、ケチャップとかマスタードが欲しくなる味だ。バーベキューソースがあれば最高なのに!
「あ、皆も味見してね」
私が食べるのをじっと見ていた料理長に声をかける。
「はい、いただきます。……こ、これは……本当に胸肉ですか……ぱさぱさもしていなければ、歯に引っかかる感じもない」
「うまっ、いえ、美味しいです。食べたことがない触感。肉でありながら、肉の重さがなく、食事以外にも食べやすそうです」
「いくらでも食べられそうです。カトラリーを使わずとも食べられるところも魅力ですね」
私はフォークを使って食べたけどね。公爵夫人だからというより、マーサに怒られそうだから。でもこれ、手で食べるの普通なんだよなぁ。
「で、これはいったいなんという名前の料理なのですか?」
「うん、チキンナゲットっていうの。作り方はいろいろな種類があるんだけどね」
18世紀か19世紀になって発明されたという説のある、細かくした鶏肉を固めて揚げる料理を指すらしい。
卵白を入れるとふわふわっとした食感になる。だからできたら鶏肉は小さく切ったものよりミンチでしっかり細かくしたものの方がなじみがよいのだ。
「チキン……ナゲット……」
料理長がしげしげとチキンナゲットを見ている。
「あ、ほら、焦げちゃうわ!」
フライパンの中のチキンナゲットを引き上げる。
「あ、も、も、申し訳ありませんっ!リリアリス様の手を煩わせるなど!」
やっちまった。
口だけでいえばいいのに、うっかり手がでちゃった。
「ほ、ほほ。サンドイッチは今日はマヨネーズのものだけでいいわ。代わりにチキンナゲットを持って行くことにするから。そうね、1人分5つで30人分お願いできるかしら?」
にこりと笑ってお願いすると、料理長が首を横に振った。
「それは駄目です」
え?何が、なんで?どうして?
「1人5個なんて少なすぎるでしょう。最低でも10」
「いや、料理長、15はいるんじゃないですか?」
「おいらは30は食べられるっ!」
えっと。……
「か、数はお任せするわ」
料理長たちが白熱して議論を酌み交わしている。
数が多くなれば作るのが大変になるのに。間に合えばいいか。分業作業だと案外大量に作るのはそう手間じゃないのかな?
子供たちは例によって、食べられなかったものは持ち帰ってもらえばいいから、多くても大丈夫かな。
「あ、あんまりたくさん持って行くと公爵家の食費……大丈夫かしら?」
そこが心配になりこそっとマーサに尋ねる。
「大丈夫ですよ。卵も鶏肉であれば売るほど屋敷にありますから。使っているハーブも料理長が自ら栽培しているものですし。あとは塩だけですかね。買っているものといえば。小麦粉と油も領地で賄えていますので」
そうだった。卵と鶏肉はたくさんあるんだったっけ。
っていうか、ハーブは料理長が栽培してるの?それを乾燥させ粉末にしてオリジナルブレンドで作ってるんだよね?マジックな塩とかあるよね。
……あれ?売れるんじゃない?
オリジナルブレンドのハーブ。乾燥して粉にして混ぜたものであれば「レシピ」は分からないし、軽量だよね。運搬もできる。
でも、ハーブの種類を少し変えても似たようなものが作れるだろうし、黄金の舌みたいなのを持っている人がいたらレシピもばれるよね。
遠くから運送費が上乗せされてるものより、近くで作られた安い物が売れるか。
んー、だめだなぁ。なかなか領地活性化はしない。