ひき肉にしてやる!
「えーっと、肉をみじん切りにして細かくしたものをひき肉と言うのだけど……肉を小さなたくさんの穴が開いた物に押し付けて細かくする機械……はないわよね?包丁でミンチ、ひき肉にするのは……大変かな?」
ふんっと、重たそうな普通の包丁の3倍くらい大きさのありそうな包丁を一人の料理人が持ち上げた。
あれ、重さで切る系の包丁だ。
料理人はそれは立派な筋肉をしている。……ただし、包丁をいつも振っているであろう右腕だけが。くっ、惜しい逸材だ。
「任せてください。すぐにひき肉を用意します!」
胸肉をどんっと丸太を10センチほどに切っただけのまな板の上に乗せると、ダダダダダンッと重たい包丁を素早い動きで振り下ろして鶏の胸肉をミンチにしていく。
「ありがとう。それから、料理長、昨日チキンを焼いた時のハーブを貰える?」
味付けはそれでよい。
「あと、少し小麦粉を。あとは油をフライパンに2センチくらい入れて熱してもらえる?」
はい。作ります。筋肉料理といえば、良質なたんぱく質!
鶏の胸肉と卵白!なんて素敵な組み合わせ!まぁ、あれよ。油とか使っちゃって脂肪も接種しちゃうのは、体を動かすために必要だからあまり体脂肪ばかりは気にしない。これ、大事。私が好きなのはあくまでも実用的な筋肉!
「この、ちょっぴり固まりかけた卵白と、胸肉のミンチとをよく混ぜて!それから小麦粉とハーブも入れてよく混ぜて!」
だいたいの分量をボールに入れる。あとで居れるための小麦粉とハーブも小皿に目分量で準備する。
「はい!任せてください!」
現在料理人1は、マヨネーズを。料理人2はひき肉作りをしている。料理人3がボールで種を混ぜ混ぜ係になった。
「うん、混ざったわね?そうしたら、手でがっしり握り取って、握りつぶすようにして力を入れると、親指と人差し指の間からむにゅっと出てくるでしょ?それを小麦粉の上に載せて少し平たくしてフライパンへ!
料理人3に私が言ったことが上手く伝わらない。
ああ、使用人には使用人の領分があるんだから、私が料理を直接するわけには……。むずむず。
「こうするのよ!」
油の温度もどんどん上がっちゃうし、なかなか料理人3は要領を掴めないし、私も美味く説明できないし、やって見せたほうがどう考えたって早いんだもの!仕方がない。こ、これは仕事を取るわけじゃなくて、そう、えーっと、指導よ。使用人の指導は公爵夫人の仕事、間違ってない。大丈夫。
混ぜた鶏肉の種をつかみ取り、ぎゅっと握って親指と人差し指の間から団子を絞り出す。肉団子ならこのまま丸い方がいいけど、今日作っているのは肉団子ではないのでちょっと手でつぶして平らにしてから小麦粉をまぶす。
油に投入、すかさずどんどん投入。
2センチほどの油でも十分揚がる。途中で裏返してもらうのは料理人4に任せる。
両面こんがり出来上がり!まずは味見してから、いいようなら追加でどんどん作っていくし、味が薄ければハーブを足さないと。
「ああああ!何を、何をなさっているのですか!リリアリス様!」
ギクッ。
料理をしているのをマーサに見つかった!
また、泣かれる!
「あ、あの、その、えっと、ほ、ほら、これ、今できたところ。味見をお願いしてもいい?マーサ、お願い!」
私の手は鶏肉の種でべちゃべちゃだ。料理なんてしてないですよなんて誤魔化すことも出来ず、話を逸らすことにした。
「揚げたてで熱いから、気を付けてね!」
料理人たちが手を止めてマーサが食べるのに注目している。
サクッと外側がいい感じに上がっている音が聞こえた。
マーサが驚いた顔をする。
「これ、鶏肉……ですか?とても柔らかくて、柔らかいけれど脂っこくなく……ふわっとしていて食べやすいです。とても……美味しい」
マーサが絶賛するのを聞いて、ほっとする。