★ギルド長視点
しっかり食べて休む。疲れていては力が出せない。がむしゃらに突き進むだけじゃダメだと、いくら訓練を続けたって休む時間を取らなければ身に付かないと。疲れた頭ではよい考えが浮かばない、犠牲者を減らすためにも休むことは大事だと。
「もっと大事ってなんだ?まさか、酒だとかボケたこと言わないよな」
冒険者の中には酒が癒してくれるんだ、これをやめたら生きていく意味がないと言う者もいる。
「違う、孫だ!俺に孫を見せることだ!休むよりもずっと大事なことだぞ!」
「は?」
孫の顔を見せるって……、それはつまり、アリスと……。
「ばっ、馬鹿なことを言うなっ!」
休むといえば、ベッドに入って寝ることだ。それよりもベッドで優先する……ことを、想像して顔がほてる。
「俺は、子供を作るつもりはないと言った」
「まぁ、子供はアリスが欲しいといえば作ればいいとは思うが、だがな、あんなできた嫁は逃す手はない。なんとしてもつなぎとめた方がいいぞ。本人がここに居たいと思うように、誠心誠意尽くせ」
ガルダが俺に肩を回して逃がすなと繰り返す。
ここに居たいと思うように……。
「いや、無理だ」
流刑地だ。アリスが素晴らしければ素晴らしいほど、しばりつけちゃ駄目だ。
「なんだ?お前が自信がないなら、俺が子供を作ってもいいんだぞ?まだまだ俺もギルド長は退いたが、男としては現役……ぶほっ」
思い切りガルダの腹にこぶしを入れる。
「がはっ、ったく、素直じゃない子を持つのも大変だ。ずいぶんギルドでは口説いてる癖に、手放すっておかしいだろ」
うっ。
「あ、あれは、く、口説いてるんじゃなくて……その……」
つい、話しかけたくなるし、いろいろな顔が見たくなってからかいたくなるし。
もしかしたら好きになってくれるかもと……。何度もはっきりと断られているのに。
いや、もし好きになってもらったとしても……。
馬鹿だな。アリスは3年たったら領地を出ていく。でも、ずっといて欲しい。その思いも本当で。断られることが分かっていても、口にしてしまう。
違う。断られたいのだ。そうすれば、諦められる。諦めたいのだ。
そ、それに……。
「けん制してるんだ。冒険者がアリスを襲ったらどっちもやばいだろう!アリスはあれでも貴族だぞ!」
「ああ、まぁ、公爵夫人がギルドをうろうろしてるなんて思わねぇわな。庶民が貴族に手を出したらただでは済まないからなぁ……」
ガルダが小さいため息をつき、俺を見た。
「っていうか、お前がタダで済まさないだろう」
なんだ?最後が聞こえなかったが。公爵がギルド長やってる方がよっぽどおかしいとでも言ったのか?
それを言っちゃぁ、公爵にギルド長の座を譲ったガルダだってほっぽどだと思うがな。
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次から主人公視点に戻ります。