お地蔵様
夫のアルフレッド様は戦闘に立ち魔物と戦い領民を守っているというのに。立派な旦那様なのに。
そりゃ、使用人たちががっかりするよね……。
「はぁー」
バンバンバンバンと、太ももを強めに5回たたく。
嫌な考えが頭をもたげたら脳を麻痺させる。……そういえばさ、よく漫画とかでほっぺたをはさみこむように自分でバチンって叩くシーンあるけど、あれも気持ちを切り替えるというよりも、脳に考えることをやめさせる役割もあったのかな?
「ど、どうしたんですか、リリアリス様っ!」
カイがびっくりして私を見た。
「あ、えっと、なかなかコンテストの優勝賞品が決まらないから、困ったなぁって?」
公爵領つんだとか、光魔法役立たずとか考えていたなんて言えない!
「んー、子供が喜びそうな物ですか?あ、そうだ」
カイが何か思いついたみたいで私をある店に連れて行ってくれた。
「うおっ!推しグッズショップ!」
「はい?」
「あ、ううん。何でもないの……」
店には手の上に乗るサイズの木彫り人形がわんさと並んでいる。
「いらっしゃい」
店の前に椅子を出して、女性が縫物をしていた。。
「かわいいですね」
とても出来がいい。1つずつが丁寧に彫り込まれている。
「買い物してくれた人のおまけにしてるのさ」
「へ?おまけ?」
王都で買ったら銀貨数枚はしそうなのに……?
「ああ。旦那が冬の間、家の中ですることがないからと彫ってるんだが売れないからねぇ」
売れない?
「こんなによくできてるのに?」
「あー、よくできてても何にも使えないだろう?だから、コップや皿を彫れって言ってるんだけどねぇ。コップや皿も、たくさん作っても売れる数には限りがあるからねぇ……」
冬の間……雪に閉ざされた間の内職?
なんとなく、この土地は北海道に近いイメージだけど、そういえば北海道のお土産の定番って木彫りの熊だよね。冬の間の男の内職だったんだろうか?
いや、木彫りの熊よりも繊細でまさに職人芸なんだけど。こんなに技術があっても売れない……。いや、まぁ、たしかに木彫りの熊が欲しいかといえば……。買ってどうするのかといえば……。
お土産でなければ買わないというか……。お土産で貰っても微妙だけども……。
手の平に乗る木彫りの人形。そうか。確かに子供が人形遊びに使うくらいしか使い道がない?
推しのフィギュアを部屋一面に並べる文化のある日本。ガチャガチャで小さい人形を集めて並べる文化のある日本。木彫りの熊みたいに大きくないから、集めて並べて楽しいと思うんだけどなぁ……。
って、それも……お金があればこそか。
もったいないなぁ。これだけすごい物が作れるのに……。
王都なら銀貨数枚。人気の騎士様モチーフとか……そう、ブリキの兵隊じゃないけど、木彫りの騎士団なんて貴族の子供に人気があったはず。この技術で作れば人気商品になるはず。
ん?王都なら……?
って、ここで売れないなら、売りに行けばいいんじゃない?
だって、傘地蔵だって、お爺さん作った傘を町に売りに行ったんだよね?……あ、だめだ、あれは売れなかった話だ。
この人形は売れる。何も、領地の作物だけが売り物になるわけじゃない。日持ちする作物とか考えたけど……食べ物じゃなきゃ日持ちなんて考えなくたってよかったんだよ!
鉱山ないかなぁと思ったけど、鉱物以外だって売れる物はどれだけでも探せばあるはずだ。




