平和ボケに気合を
ぱっと上を見上げる。
ここは地下になっている。入り口付近は上からの明かりが漏れていて明るい。奥は暗い。
なるほど。普段倉庫は明かりがないから外から入ってくる明かりを頼りにしているのか。だからおのずと明るい場所に物を貯めていく。時折明かりをつけるものの、月光だとするとそれほど手が回らない。
「ごめんなさい。雑だとかずぼらだとか冒険者はこういう細かいことに気が回らないとか、いい加減でだらしがない人たちの集まりだとか思って……」
冒険者の3人が顔を見合わせ苦笑いしている。
謝ったのに?
「じゃ、この際徹底的にやっちゃいましょ【LED】」
陰になっているところがないように追加でLEDの光魔法を出す。魔力は少しだけ多め。……明るさじゃなくて、継続時間を長くするように込めた。
……って、待てよ?初めにLED出したのって、夜中も消えなかったよね。それよりも魔力込めちゃったけど、何日持つんだろう?
これもあとで実験した方がいいよね。日光1時間の子が全力でLEDに魔力を込めたら何時間持つのか……な?蛍光灯とちがって、LEDの場合は明るさと消費電力は正比例のグラフになったんだよね。明るさが半分なら消費電力も半分。10%なら10%と分かりやすい。
だから、10の明るさで実験すれば1の時の継続時間も大体わかるよね。どれくらいなんだろう。1回で何日も持つなら毎日毎日足を運ばなくてもいいから楽だよね。あとは依頼料。うーん。半日で銅貨3枚……今まで日光1時間で銅貨1枚だったのだから、8時間で銅貨3枚なら安いよね。
でも、待てよ。一月30日、毎日銅貨3枚だと90枚。日本円換算で9000円……。
うっ。
電気代……それも照明だけと考えると、高いかもしれない。日本の電気代って、冷蔵庫に洗濯機にいろいろ使ったうえでの値段だもんね。光魔法だけで月9000円は無理か。……商売で儲けている人ばかりなら問題ないのかもしれないけれど。
回った街の店はそこまで活気があって儲かっているようには見えなかったんだよね……。
流刑地って言われる公爵領だし、飢えずに生きていければ十分ってとこなのかもなぁ。それこそ別に暗くたって死にはしない……。
一般家庭ならなおのこと。必要があるとき以外は光魔法は必要ないかも。
あー、あー!
光魔法は役立たずだという言葉が頭の中をぐるぐると回りだした。
トラウマはそう簡単には払しょくできないんだ。思い出すな。
バンバンバンバン。足を強く叩く。SNSで見たライフハック。思い出したくないことを思い出しそうになった時に太もも5回たたくと脳は思い出すことをやめて叩かれている足に意識を向けると。
ふぅ。助かった。
まぁ、とにかく、領地が豊かにならないと、光魔法の活躍の場が広がらないってことだよね。
うーん、領地を豊かにするには……。いや、それより、照明以外の使い道を広げ方をもっと考えないと。あるはずだよ。照明弾だとか閃光弾だとか特殊な使い方じゃない、もっと一般的な何か。
「えっと、ど、どうしたんですか?」
冒険者が驚いて声を上げた。
「え?」
「突然足を叩いたのですが、小型の魔物でも出ましたか?」
いつの間にか冒険者3人が剣を構えて警戒していた。
「あ、いや、その、気合い?整頓するために気合いを入れようかと……?」
気合いだ!と頬を叩くレスラーとかいたよね。いや、違う、あれは闘魂注入だっけ?気合いのほうはレスリングの……。
「あ……す、すいませんっ。俺……こんなの冒険者の仕事じゃねぇと思っていました」
「私もです。申し訳ありません。気合いが足りませんでしたっ」
「お、おいらも……。この倉庫の中には、スタンピードが起きたときのための物もあるというのに……」
え?
スタンピードが起きたとき?
「えっと、もしかして、この武器って……売り買い用というわけではなく?」
たくさんの剣を見る。




