★元ギルド長ガルダ視点★
「いや……護衛の姿もなかった。あまり多くの護衛を連れていなかったんじゃないかな。近くで魔物と戦った形跡もなかったから、もしかすると護衛が魔物の囮になって遠ざけてくれたのかもしれない」
「ふぅん。王都にも骨のあるやつらが多少はいるってことか……」
もしくは、腑抜けすぎて魔物を見てすぐに逃げ出したか……だな。
馬も御者の姿もなかったと言うが……護衛を兼ねた御者が馬に乗って逃げたなんてことはないだろうな?流石にそこまで腐ったやつらじゃないか?
待てよ……流刑地と呼ばれ、貴族には嫌われた土地に嫁いでくるというのはどういう人物なんだ?
王都で厄介者扱いされていた令嬢であれば道中魔物に襲われて死んだって構やしないとろくな護衛がつけられなかった可能性もあるな。
……まさか、流石に「魔物に襲われて亡くなったのは公爵のせいだ!責任をとってもらう!」などと言いがかりをつけるためにわざと……。
いや、流石に考えすぎか。
「で?どんな女だ?」
鼻持ちならないはねっ返りか、傲慢で自分の置かれた立場も理解していないか、それとも病弱で子も望めそうにないか……。
「やつれてはいたけれど、美しい女性だ……こんな土地には不釣り合いな……」
「美しいねぇ、お前が女性を褒めるなんて初めてじゃないか?惚れたか?」
ニヤニヤとからかうように言葉をかけると、レッドが真っ赤になった。
おい、マジかよ。本当に一目ぼれでもしたってのか?
「ほ、惚れるわけないじゃないか。彼女は王都で育った貴族令嬢なんだからっ!」
大きく顔を横に振ると、レッドは手で顔を額を抑えた。
「俺は、子供のころに王都にいたことがあるから知っている……ここと王都は全然違う。耐えられるわけがないんだ……」
王都には俺もギルド長会議で2度行ったことがある。
確かに、こことは全く違った。そうだな、色で表せば、公爵領がグレーだとすれば王都は真っ赤だ熟しきって実が落ちそうな果実の色。
毒があると分かっていても、甘い臭いとその赤く熟れた色に、思わずかぶりついてしまいそうな……。
レッドの嫁はもしやそんな感じの女性なのか?
男を魅了してやまない女性。……もしかすると、男性トラブルが元でここに嫁がされたのかもしれないな。
だとしたら、その色香に、女性に免疫のないレッドならコロッとやられても仕方がないか?
せいぜい、我儘に振り回されないように注意して見ておかないとダメだな。浪費家の公爵夫人がいては、せっかく立ち直ってきた公爵領がまた地獄に戻ってしまう。
「きっと、すぐに王都に戻りたいと言う……。魔獣におびえて精神を壊してしまうかもしれない。だから、好きになったりしない。俺は、離縁する。貴族の法では3年の白い結婚が証明できれば離縁できるんだ」
あー。
好きになったりしないなんて、自分にくぎを刺すようなことを口にするなんてな。もう好きになってるってことだぞ?
「なぁ、レッド、お前はここにいて不幸なのか?」
俺とさほど変わらない身長に成長した”息子”の頭に手を置く。すでに戦闘力では抜かされたが、精神は俺の方は、まだまだ子供のままだな。
レッドが俺の顔を見た。




