★元ギルド長ガルダ視点★
クソガキが結婚すると言い出した。
いや、結婚なんて言葉が出るくらい、いつの間にか大人だったんだな。
そりゃそうか。ギルド長の座を譲って何年たったか。
「結婚か。祝いに何かやらないとな」
レッドは固い表情のまま頭を横に振った。
「いや。祝われるようなことじゃない」
「なんでだ?まさか、まだ独身の俺に気を使ってるわけじゃないよな?俺はこれでも女に不自由するようなことはねぇぞ。結婚できねんじゃねぇ。結婚しないんだ」
ギルド長として、何かあれば最前線に出て戦わなければならない。いや、すでに俺はギルド長の座をレッドにゆずったんだが……。
だからこそ、こいつを守るためにも俺は一番危険な役割を受け持つつもりだ。
いつ死ぬかも分からない身だ。結婚するつもりはない。嫁や子供……不幸にする者を増やすようなことはしたくない。
もちろん死ぬつもりなんてないがな。
それに、血のつながった子供なんていなくたって俺にはこいつがいる。
ワシっと、乱暴にレッドの頭を撫でる。
初めてこいつがギルドに来たのはいつのことだったか。こいつが13歳……。今の半分くらいの身長しかないがきんちょだった。まだ守られる年齢だというのにこいつは……守ろうとしていた。
王族の流刑地と呼ばれるろくでもない土地に送り込まれる公爵領だ。
ろくでもないことをしでかした人間が領主になるこの土地はいつまでたっても厳しい生活を強いられる。
それでも、俺たち領民はここで生きていくしかない。公爵位が空位になることもある。理由は様々だ。結婚せず子を残さずに亡くなる公爵、子がこの環境に耐えられずに公爵家を捨てて出ていく。
そんな土地に捨てられたというのに、こいつの目は死んでなかった。それどころか少しでも領地をよくしようと小さな体で懸命に戦った。
「こんなとこに嫁ぎたい貴族令嬢がいると思うか?」
レッドの言葉にんーと頭を抱える。
「どうせ、王都で手に余るろくでもない女を押し付けられるだけだ。すぐに追い出すさ。いや、勝手に逃げ出すかな」
そうか。確かにレッドは……名ばかりとはいえ公爵だし、結婚するとなれば貴族の娘か。
となると……。
魔物を倒したときの返り血が染みついたズボンを見下ろす。
「まぁ、場合によっちゃ、俺が何とかしてやる」
確かにひどい土地ではある。が、そんなところに送り込まれるなど、追い出すにしても逃げ出すにしても、帰る場所も行く当てもあるとは思えないんだがな。レッド……お前と同じようにな。
それなら居場所は作ってやらないといけないだろう。流石に野良れ死にされたら寝覚めが悪い。
それから、数日が経った。
「結婚した……」
「早いな?そろそろ令嬢が到着するとは聞いていたが。婚約期間を経ずに結婚か?もしかして、もういい仲になったのか?」
からかうように口を開くと、レッドが顔を赤くした。
「違う、そうじゃないっ。……ここに来る道中、魔物に襲われて谷底に転落して死にそうになっていた」
「は?」
谷底に転落?
「魔の谷か。昼間だったから助かったのか?だが、昼間ならそもそも襲われるような場所じゃないだろう?」
レッドが首を横に振った。
「いや、運がよかったんだろう。発見したのはすでに日が落ちた後だ。馬も御者の姿もなかった」
そりゃまた、運がいいってもんじゃないだろう。
「護衛が頑張ったってことか?」
レッドがまた首を横に振る。