ゆで卵と言えば?
「分かった、分かった。朝食は抜かない。……というか、筋トレってなんだ?訓練のことか?タンパク質っていうのは?カロリーとはどんな食べ物なんだ?糖質?」
しまったぁ!
現代知識が口から駄々洩れになってた。そうだよね。五大栄養素とか、全然ない時代だよね。そもそも、バランスよく食事をしましょうなんて言ったって、日々食べるものに必死な世界だもん……。そのうえ、ここは作物が育ちにくくて、冬は雪に覆われる。貧乏だから隣国から買って補うことすら難しいんだよね。ううう。
自分の浅はかさにひどく落ち込む。
だから、この領地の人たちは、冬を越すために鶏を飼育するんだよね。工夫だ。卵で栄養を取っているんだ。
ってか、卵よ、卵!
「すまない……俺はろくに教育を受けてこなかったから無知で呆れたよな……」
落ちこんで下を向いたら、レッドが沈んだ声を出した。
「え?ううん、全然そんなことないよ!教育とか関係なくて、えーっと、筋肉が好きな私の持論だから……ね?」
「は?」
「そう、私はとにかく筋肉のためになることには詳しいの!」
えっへんと胸を張る。
「俺のこと、馬鹿な男だと呆れたんじゃないのか?それで、青い顔して下を向いたんじゃ……」
「あ、いえ、その、持論をペラペラとしゃべったことが恥ずかしくなって……と、いうか……」
レッドが私の頭をぽんぽんと叩く。
頭ぽんぽんってなんでこんなに気持ちいいのか。
「俺は好きだ。恥ずかしがることない。いろいろ考えることができるのも、その知識を皆のために役立てたいと思うところも、全部。俺は……そんなアリスが俺は好きだ」
え?
「僕も!アリスお姉ちゃん大好き!」
「私もだよ!」
僕も私もの大合唱。うんうん、そうだね。そういう意味の好きだよね。
あは。私にもてき到来。
いやー、しかしだ。好きこそものの上手なれとはよく言ったものだ。自分が鍛えるわけではないけど、推しキャラと同じ世界が見たいと……同じ食事を作って食べたり、聖地巡礼したりしたなぁ。うん、うん。プロテインの味の違いも分かる女になったよ。……前世の私、何してる!
「と、とにかく、朝食……というか食事を抜いた訓練はだめ。空腹で訓練すると筋肉が衰えるし、怪我もしやすくなるから。そうだ、忙しくてご飯を食べる暇がなくても、茹で卵でもいいから食べた方がいいわ!そうね、茹で卵をギルドで売ったらどう?」
1個銅貨1枚?100円じゃ高いのかな。カイは銅貨1枚でパンが1個買えるみたいなこと言ってたけど。日本だと、卵は物価の優等生だとか言われてる。この世界だと卵っていくらくらいだろう。
「は?ギルドで茹で卵を売るのか?……よくそんな発想が出るな」
いやぁ、ギルドって食堂併設されてて飲み食いできるというのが現代の物語の中では割と定番で……。
「確かに腹が減っては力も出ないし体も動かないが……茹で卵か……」
レッドがちょっと考えてる。
子供たちを見ると、すっかり食事を終えていた。まだたくさん残っているけれど、手を止めているから持って帰る分なのだろう。
いい子たちだな。
「じゃあ、今日も張り切って実験のお手伝いをしてね!」
すくっと立ち上がると、レッドが私の腕を掴んだ。
「待て、そのことで話があるんだ」
は?




