お菓子作り?え?何のこと?
だよね。掃除するのを止めるんだから、料理するのも止めるよね。「こんなもん食べられるか!自分で料理した方がましだ!」って、思われても仕方がないよね。
「料理は満足しているわ。いつも感謝しているの」
なんせ侯爵家では使用人に嫌がらせされてろくなものが食べられなかったものね。それに比べたら、天国よ!
お腹いっぱい3食食べられるだけですごく贅沢。味付けは……。
まぁ、正直なところ、すごくおいしいというわけではない。これは、前世日本人の記憶的にね。8歳までのリリアリスの記憶では王都の料理と比べても遜色ない。十分。
「では、どうして料理を?」
……それは、レッドに対してやらかしてしまったお詫びを……。くっ。言えない。
ギルド長に失礼を働いたなんて知られちゃったら、もう行くの禁止されちゃうかもしれない。アルフレッド様がギルドとの関係をどれくらい重視するかにもよるけど……。
「どうしてですか?暇なのでしょうか?」
暇つぶしだと思われた!
「申し訳ありませんが、その……食べ物で遊ぶのはおすすめできません」
うひゃー。悪い子叱るみたいにマーサに注意された。遊ばないよ。罰が当たるよ。米粒一つにも神様が何人いると思ってるのの精神持ってるし!
「遊ぶんじゃないの。その、人に差し入れを作ろうと思って……」
「リリアリス様がお作りになるのですか?」
「あー、あの、お世話になっているから、お礼をしたいと思って……」
視線をさまよわせる。
嘘です。お礼じゃなくてお詫びです……。
「どなたに?」
「ギルド長に……」
かすれた声でつぶやくと、マーサの顔が輝く。
「まぁ、まぁ、そうでしたか!手作りのお菓子を贈られるつもりでしたか!それは、アルフレッド様もお喜びになることでしょう!」
ん?なんでアルフレッド様が喜ぶの?
ああ、あれか。公爵夫人からギルド長に贈り物をする。公爵家とギルドとの関係がよくなる。アルフレッド様が喜ぶ。……そういうことね。
ううう。アルフレッド様を困らせないように、しっかり謝ってきます。
……というか、もし関係が悪化したら、3年待たずに離婚してと頼まなければならないかもしれない。この地域ではギルドの協力がないと魔獣の脅威から人々を守り切れないのだろうから……。私一人を悪役として断罪することで関係改善をしてもらうしかない……。
やだー!まだ放り出された後の生活基盤ができてないから、困るぅ!全力で謝罪!全力でぇ!
調理場に行って驚いたのは、作業場の位置だ。
「え?食材傷まない?」
窓から光が差し込む場所に調理台がある。
煮炊きしている場所は奥。
……あ!暗いからかぁ。
「【LED】」
3つほど光の球を出す。
「お、おお、明るい」
作業していた調理人たち5名ほどが一斉に手を止めてこちらを見た。
「皆さま、いつもおいしいお食事ありがとうございます。リリアリスです。今日は贈り物をする料理を作りたいので、少し場所を貸してください」
光魔法しか使えないハズレ嫁だと思われているかもしれないけれど、嫌がらせされないうちはあの言葉は忘れる。
「リリアリス様?アルフレッド様の奥様……調理場に何の用だ」
「使用人のため魔法を使ったのか?」
「お礼も口にしたぞ?」
「噂通りの悪い人じゃないのか?」
「待て待て、まだ本性を隠しているだけかもしれないぞ?」