お父様!
「じゃ、邪魔って、俺が……か?」
俺以外の誰がいるんだ。カイといちゃこりゃしたいなら別のところでやってくれ。
「レッド……いえ、あなたギルド長でしょう?こんなところうろうろしてるのは暇なの?時間があるなら、さっきの彼とか、下半身が弱いってこと分かったでしょ?アドバイスくらいしてあげなさいよ。ほら、今いる彼だって、右側と左側のバランスがおかしいでしょ、あの人は足に傷をたくさん受けてるから、何が足りないの?いろいろ知ってるなら教えて指導しなさいよっ!」
レッドがポカーンと口を開けて私の言葉を聞いている。いや、ちゃんと聞いてる?
「ぶはっ」
大きく噴き出す声が聞こえた。
「あはははっ、ギルド長のお前にここまではっきり者をいう人間も珍しいな。それに、言っている内容もまっとうだ」
声のした方、後ろを振り返ると……。
レッドを一回り大きくしたようなダンディなおじさまが現れた。
「す、好き……大好き、神……」
ふらふらと吸い寄せられるようにおじさまの元へと歩み寄る。
「こら、俺のこと好きだって言っただろうが」
首根っこを掴まれた。
「はぁ?確かにレッドは好きだよ?でも、まだ若いの!筋肉は育てるものなの!筋肉はね、破壊されれて超回復して前よりも強くなっていくの!だから、そりゃ大人の方が素敵な筋肉になるに決まってるじゃないっ!レッドよりもずっとずっと素敵。どうしよう、運命の出会い。好き、好きぃ!」
じたばたと暴れる。
推し活の邪魔をするやつは許せない!
これが推しコンサートに向かう途中に並んでいた切符買う列に割り込んだやつとかなら目で殺す!
「レッド、なんだこの嬢ちゃん?」
レッドの知り合い?
「俺の嫁だ」
「そうか、お前の嫁か」
納得しちゃうの?待って!
「ちがーう!違う、違う。私には夫がいるので、断じて浮気はしませんっ!っていうか、誰?誰?レッド、紹介しなさいよ!いえ、紹介してくださいませ!」
ぽんっと理想の筋肉神がレッドの頭を叩いた。
レッドが嫌そうな顔をする。
「いつまでも子供扱いするなよ」
「ははは、お前はいつまでたったって俺の子だ」
!
「レッドのお父様でしたか!初めましてアリスと申します!昨日ギルドに登録しました。ギルド長のレッドにはお世話に……なってはいませんがよろしくお願いします」
「あはは、聞いたか?レッド、お父様だと。アリス、冒険者ギルドにようこそ。俺は先代のギルド長のガルダだ。レッドに負けたからギルド長の座を譲った、隠居だよ」
カイが後ろでぼそりとつぶやいている。
「誤解が広がってる気がする……」
ん?誤解?