夫婦漫才
「なんだねーちゃんよ。好きでもない夫に操を立てる必要ねーだろう。どうだ、俺と付き合おうぜ!」
横から太い筋肉が伸びてきた。
筋肉の主を見ると、ボディービルダーバリの筋肉の持ち主だ。
「筋肉が好きって言ってたろ、どうだい?」
腕を曲げて力こぶを見せる男ににこりと笑って見せた。
「私、無駄な筋肉は筋肉を冒とくしていると思ってるの」
「は?」
「確かに太くて立派な筋肉だけれど、木こりじゃないでしょう?剣を振るには、ちょっと動きが鈍くなって邪魔じゃないかしら?それに上半身ばかり鍛えているようだけれど、下半身も大切なのよ?素早く剣を振るには、しっかりと体を支えなければならないわ。ふらついてしまえば、次の動作にうつるのが遅れる。あなたの筋肉は、無駄がある上に、足りないのよ。つまり、好みじゃないの。ごめんね?」
シーンと静まり返るギルド。
しまった。つい、筋肉について語りすぎたか。
「ぶはっ」
レッドが噴き出している。
「だ、そうだ。振られたな」
ニヤニヤしながらレッドが上半身筋肉男の肩を叩いている。
「笑うなんて失礼じゃない?私の好みじゃないってだけで、彼のこの筋肉は立派な物よ?」
太い腕にそっと手を置く。
どさくさに紛れて触ってやったわ。うわー、すご。いやいや、セクハラ駄目!……いや、肉ハラ?
「このギルドの中にいる誰もよりも立派な腕をしているわ。努力の証でしょう?ただ、努力の方向性が偏りすぎてると思うだけ。もったいないの。努力できるんだもの。もっとバランスよく鍛えたらもっともっと強くなると思うの」
だから、バランスよい私好みの筋肉に進化してね。という下心をもってして、笑いかける。
「あ、ああ。うん、悪かった。下種なこと言って……」
下種?
ああ、付き合おうとか言うやつだっけ?
「大丈夫よ。冗談だって分かってるもの。こんな風に自分を鍛え上げることができる人に、悪い人はいない」
筋肉は裏切らない。筋肉は正義。
「まじ……惚れるぜ。お前好みの筋肉になってやるからな。何か困ったことがあったら何でも言ってくれ。力になる」
「ありがとう」
上半身筋肉は嬉しそうに歩き出した。そして、振り返るとにやっと笑う。
「旦那と別れたら教えてくれ!」
「はぁーい!」
もしかしていざというときの知り合いゲットかしら?ラッキーとニヤニヤと笑うと、レッドが私の前に出て叫んだ。
「別れないからな!」
おいおい、レッド、何を勝手なことを。
「どうしてレッドがそんなことを言うの?何も知らないくせに勝手なこと言わないで!」
3年後には離婚が決まってるんだから。そうしたら冒険者として生きていくことになるかもしれないし。頼れる人を今のうちに増やさないとだめなんだからっ!
「何も知らなくなんか……いや、そうだよな。リ……アリスの気持ちは俺には分からない。今すぐにでも別れたいと思っているかもしれないんだよな……だが、覚えていてくれ。俺は、お前のこと」
私?別れたいと思ってるわけないじゃん。3年の間にその後の生活基盤を整えないといけないんだもん。今すぐ別れたら路頭に迷うわ!
って、そうそう。こうしちゃいられない。
「邪魔しないで!私にやることがあるんだから!」
レッドを押しのけてカウンターに向かう。




