アシュラーン公爵家
目が覚めた。
「知らない天井だ……」
あんなにしょぼしょぼしてもう何も見えなくなっていたのに、しっかり知らない天井が見えた。
部屋が薄暗いので、まぁぼんやりな感じはある。
「【光】」
得意の……というかそれしか使えない魔法を発動すると、部屋が明るくなる。
石造りの壁。地下牢が一瞬思い浮かんだけれど、私が今寝ているベッドも、ドレッサーや机やソファも立派な物で、牢屋というわけではなさそうだ。
息苦しさもないし、どうやら本当に助かった……助けられたみたいだ。
まずはほっと息を吐きだす。
「ああ、目が覚めましたか奥様」
部屋に、30代半ばに見える侍女が入って来た。服装から侍女と判断したけれど、誰?
「まぁ、明るい。早速照らしていただけるなんてなんと奥様はお優しいのでしょう」
優しい?別に大したことしてないのに。
「これほどまでに明るい光、魔力が多いと聞いてはおりましたが、体にご負担ではございませんか。奥様……無理をなさらないでくださいまし」
いや、体に負担とか全然だけど?無理なんてしてないけど?
というか、奥様?
「あの、私……」
いったいどうなってんの?
まさか、16歳の侯爵令嬢であった私は死んで、さらに転生してるとか?
いやでも、光魔法は私の魔法だよね?いや、再び光属性の人間に転生したとか?
「今まで見たこともない光が森から立ち上がっていると、騎士たちが確認に行ったところ奥様が倒れておいででした」
騎士?
「すぐに回復魔法で治療いたしましたが、3日間目を覚まされなかったのでとても心配しておりました」
まって、情報が足りないのに大すぎるという状態で、分からないし混乱する。
「あの、ここは何処ですか?」
まずは、ここは何処?私は誰?から解決していこう。
侍女はグラスに水を入れた。
「水魔法!」
初めて見た!いや、見たことはあるよ。前世の記憶が戻ってから初めて。なんていうのか、生まれた時からそれが当たり前だと思って気にもとめなかった。けど、前世日本人の記憶が戻ってから見る魔法って、すごく不思議だ。
どうして水が出るの?水魔法って何?空気中の水素と酸素を魔力で化合させてるの?え?なんで?
「ああ。そうです。私は小さな水魔法しか使えないので攻撃魔法も使えませんが、飲み水だけは不便なく出すことはできますので。いつでもおっしゃってください」
グラスを受け取ってごくりと喉を潤す。
3日も目を覚まさなかったということは、3日ぶりの水。染みわたるぅ。
「ここは、アシュラーン公爵邸です」
アシュラーン公爵邸って、私の嫁ぎ先だ。無事に着くことができたんだ。
いや、全然無事じゃなかったけどね!
死にそうになったけどね!
知らない天井……言わせたいセリフトップ10に入ってるはず。他に何があるかな