領地の問題
「窓が小さく鉄格子がはまっているのは……魔物の侵入を抑えるため?」
団長も私につられて屋敷へと視線を向けた。それから、すぐに頷く。
「ええその通りです。ですが、ご安心ください。ここ数年は、街への魔物の侵入をほとんど許しておりません。屋敷はここ5年一度も侵入はありません」
そうなんだ。
「あなた方のおかげなのですね。ありがとうございます。きっと街の人達も感謝していることでしょう」
隊長が首を横に振った。
「いいえ、一番の功労者はアルフレッド様です。彼が来てから被害がぐっと減りました」
「ああ、アルフレッド様は強い火属性魔法の使い手だそうですね」
隊長が顔を輝かせた。
「はい。ただそれだけではなく強くなる努力も人一倍しています」
そうか。使用人だけじゃなくて騎士たちにも慕われているんだ。
……でも、公爵自らが強くなる努力?
「強くなる努力……えーっと、ほかの努力は?」
「はい?」
「ううん、なんでもないの」
強い人がいるから魔物の脅威を防げているということは、その強い人がいなくなった後はどうなってしまうんだろう?
努力すべきは、自分がいなくなった後も大丈夫な体制づくりじゃないだろうか?
なんて思ったけれど、窓が小さく鉄格子がはまった石造りの丈夫な建物もあるし、屋敷の敷地を囲む高い城壁も魔物対策なのだろう。その内側に庭というにはただ広いだけの場所があったけれど、あそこは街の人たちを避難させる場所なのかもしれない。
とすると、すでに対策は代々の領主によって整えられているということか。
あとは、騎士たちの力の底上げ、それから冒険者たちの働き。
……とはいえ、公爵家は財政難。人を増やすにはお金がいる。騎士の個々の能力を上げるしかない。
冒険者を呼びこむには、公爵領で冒険者をするうまみが必要だろう。貧しい領地で冒険者をするうまみ……か。
領地が潤えば、依頼料も値上がり冒険者も増えるんじゃないかな。
……領地が貧しいのは作物が育たないから……って、どうしようもない話なの?
私の前世の知識チートで!……って、農地改革の知識はないよ。国を豊かにする作物……はわからない。飢えから救うためならサツマイモ。寒い地域ならジャガイモにトウモロコシ。それも北海道の名産だからくらいの知識しかない。
全然領地が潤う気がしない。
あ!そうだ!
クリスマスのイルミネーションを観光の目玉に!
……って、雪が積もっているのに、魔物も出るような街道を通って観光に来る人なんていないよ!
はぁ。もう、前世を思い出したからって、漫画のようにうまいこと知識チートなんて私には無理だわ。
私に領地改革なんて大それたことは無理よねぇ。っていうか、そもそも3年間だけのお飾り公爵夫人だし。
……とはいえ、夫人としての予算があるし、せめて光属性魔法の子たちの仕事くらいは増やせるように頑張ろう。ここを出てからの私の仕事をゲットするためにも!
「訓練の邪魔をしてもう分けなかったわ、続けて」
にこりと笑って訓練所から離れる。
「お前みたいな光属性のやつが騎士になんてなれるわけないだろ!」
ん?
訓練所の横に立っている建物の裏手から声が。




