騎士団
視点戻ります
結局、私は掃除の手伝いはさせてもらえなかった。ちぇ。
マーサとサラが張り切って掃除している邪魔にならないように部屋を出る。
廊下を進むと、コンコンとせき込む声が聞こえる。
振り返ってみても、前を見ても、誰の姿もない。
どこに誰が隠れてるの?
まさか、幽霊?なんて、思ったりしないよ。使用人通路か、どこかの部屋で仕事をしている人だよね。
しかし、この前も咳が聞こえてきたけど、風邪引いているのに仕事をしてるの?
アルフレッド様は使用人に慕われていたみたいだから、ブラック職場じゃないんだよね?
首をかしげながら外に出る。
昼間だというのに、屋敷の中はどこも薄暗くてあまり居心地がいいとは言えないんだよね。
外に出て建物を見上げる。
石造りの3階建ての城。窓は小さく鉄格子がはまっている。
町の建物も、窓は小さく鉄格子がはまっていたっけ。
同じ国だというのに、王都とはずいぶん違うんだなぁ。
庭園をうろついていると、人の声が聞こえてきた。
また、私の陰口を言っている可能性も考えたけれど、びくびくしても仕方がない。
声のするほうへ足を向けると、開けた場所で騎士たちが剣を交えていた。
その奥では魔法の訓練をする騎士の姿があった。
「おお、いいですなぁ」
いまいち筋肉不足だけれど、王都の騎士たちよりもよほど鍛えられている。好き。
制服も王都の汚れなくピシッとアイロンがかけらられたものではなく、使い込んでよれているところが頼りになる感じがして好き。
騎士になるには顔もよくなければいけないという王都とちがって、モブ顔がわんさといるところも好き。
「あ、奥様!」
ぎょっ!見つかった。
「整列!」
指導役が号令をかけた。
私の前にずらりと訓練しちた騎士たちが並ぶ。30名ほどだ。
「公爵夫人リリアリス様に敬礼!」
びしっと30名がそろった動きで手を額に当て、もう片方の手を肘をまげて背に回した。
くっ。かっこいいなぁ。モブ顔だろうと、統率の取れた動き。これだけで飯3杯はいける。
「ご挨拶が遅くなりました。私はアシュラーン騎士団長を務めておりますソウと申します」
「あの、こちらこそお礼が遅くなりました。騎士の方々が事故にあった私を見つけて助けてくれたと聞いています。ありがとうございました」
頭を下げるとすぐ隊長が声を上げた。
「頭をお上げください。人助けは私たち騎士の仕事ですから。無事に回復なさったようでよかったです。さぞ怖かったでしょう。運よく魔物に襲われなかったようですが、あの辺りは日が落ちると夜行性の魔物が大量に出る場所でしたから、発見があと少し遅ければ……」
ひぃ。そんな場所だったなんて!
ぞっとして青い顔をすると、騎士団長が謝った。
「失礼いたしました。リリアリス様にお聞かせするような話ではありませんでしたね」
「い、いえあの……」
青ざめている場合じゃないよね。マーサも騎士団長も魔物の話を日常会話の一つのように当たり前に口にする。
……ここでは魔物が本当に日常の一つというほど身近なのだろう。
「あ……あの、もしかして」
屋敷を見る。




