掃除
私が屋敷中明るくしちゃったら、今まで光魔法を使ってた人の仕事を奪うことになっちゃうじゃん。
マーサに屋敷中明るくすると言ったあとに、光属性魔法を使う娘を呼んで来いなんて……。もういらないから首って言う流れじゃん。
誤解されても仕方がないことしちゃった。
「ずっと働いて!」
私の言葉に、サラがぽかっと口を開けた。
「ねぇ、マーサ、サラは光魔法で灯りをともす以外にどんな仕事をしているの?」
「はい。休んだ使用人の代わりの雑用をいろいろと引き受けております。……その、誰でもできる仕事を」
なるほど。洗濯係は水魔法で洗い、風魔法で乾かす。光属性のサラは洗濯を畳んだり運んだりしてるとかそういうことかな。
「休んだ人の代わりってことは、何か決まった仕事があるわけじゃないのね?ってことは、いなくなっても平気でしょ?」
サラがまた両目から涙を落とす。
「は、はい……確かに」
マーサが重い口を開く。やばし!また言葉選びを失敗したようだ。
コミュ障前世持ちなうえに、虐待されてた今世、人との会話がへたくそなのも仕方がなくない?って、ごめん、無駄に傷つけちゃったよ!
「だから、雑用係じゃなくて、私の助手……実験の手伝いに引き抜いても問題ないわよね!」
私は、世界一の光魔法研究科になるのだ。助手の一人や二人必要よね!なんちゃってな。
離婚後もサラちゃんが屋敷で働けるようにアルフレッド様にはお願いしないと。
「3年間だけだけど、マーサと一緒に私のアシスタントとして働いてほしいの」
「え?わ、私が?光属性の私が?奥様のお世話という大役を……?」
大役って、離婚される予定の奥様の世話なんてむしろハズレの仕事だと思うけど。
サラがまたボロボロとなく。今度はプルプルと震える口で嗚咽を漏らし始めた。
うわーん。どうして泣き止んでくれないのか!
「わ、私、いいんですか?ひ、光魔法しか使えないのに、その魔法も、奥様よりずっと劣っていて……本当に役に立たない……の、に……」
なんか、このプルプル震える感じが、兎みたいだ。
か、かわいい!モフモフ枠だ。
カイが子犬でサラが兎。この兄妹、モフモフ枠で、二人とも推せるわ。癒される。
「光属性同士じゃないと、できない話がしたいから、サラがいいのよ!私にはサラが必要!サラが嫌なら、あきらめるけれど……」
サラが私の目をまっすぐと見た。
「私が必要?ほ、本当ですか?私、一生リリアリス様に仕えます!」
「あ、一生じゃなくて3年ね……3年の理由はマーサが知ってるから……」
マーサが、サラの肩を抱いて、頭を下げた。
「リリアリス様ありがとうございます。3年間、娘をよろしくお願いします」
マーサに合わせてサラも頭を下げた。
「では、早速部屋のお掃除をさせていただきます。サラ、掃除道具を」
マーサがサラに指示を出す。
「え?掃除?」
あ!そういえば、明るいうちに掃除をしたいと言ってた。そのあとにサラを呼んで世話係にって言えば、そうなるか!
「大丈夫です!私、掃除もよく手伝っていたので得意です!」
泣き止んだサラが腕まくりをしてぽんっと胸を叩いた。
「本当?私も掃除は得意!一緒だね!」
親近感を持ってもらおうと口にしたら、マーサとサラの動きが止まった。
しまった!またやらかした!ふつうは侯爵令嬢は掃除はしない……!
「あ、えっと身の回りを整えるの好き……なの……よ?」
だめだ、ごまかしきれる気が……ああ、そうだ。
「王都では流行ってたのよ!どれだけ自分できれいに雑巾がけできるか貴族で競い合って……」
困ったときの王都の偽情報。
「サラ、信じてはいけませんよ?リリアリス様はカイに冒険者のような服装が流行っているとからかっておいででしたから」
あう、マーサめ!
すでに私の行動を読んでやがる!なんて優秀なのだ!
「ふふ、奥様は楽しい方なのですね!」
若くてぴちぴちつやつやで、ふっくらしたほっぺ。クリっとした目に控えめなサイズの鼻と唇。裏表のない笑顔に癒されるわ。
くっ。さすが兎。寂しくて死んじゃわないように大事にするわ!