帰宅
視点戻ります
「おかえりなさいませ。息子は役に立ちましたか?」
屋敷に戻るとマーサが手や顔を洗うための桶に水を用意してくれた。
「ええ。カイの知り合いにも会ったわ」
「誰でしょう?」
「ギルド長」
バシャッ。
マーサが桶にためた水を少しこぼした。
「えっ……と、どなたにお会いになったのですか?」
マーサが動揺している。もしかしたら、本当にカイの恋人なのかもしれない。
大丈夫よマーサ。私、男性同士の恋愛に肯定的だから。いや、妄想だけど。
「ギルドに行ってみたの。そこでギルド長に会ったんだけれど」
「まさか、もう討伐を終えて領都に戻っていらっしゃっていたとは……」
あら?やっぱりマーサもしっかりギルド長のこと知ってたのね。ということは親公認なのか?
討伐を終えて……か。だからあんなに汚れた格好だったんだ。……いや、冒険者はいつもあんな感じかもしれないけど。ギルド長自ら動くのか。
「そ、それであの、リリアリス様はギルド長とどのようなお話を?いろいろと思うこともあったでしょう」
いや、別に。
「なんか、誰かと間違えられたみたいだったけれど。誤解が解けたあとは特に話もしてないわよ?」
公爵夫人という立場なら、もしかしてギルド長とこの街の治安だとかなんか話をするものだった?そもそも新しく領主の妻になった人間ですとあいさつをしなくてはいけなかったのかもしれないけど。
3年でいなくなるしね。冒険者になりたかったしさ。……そういえばカイも私のこと公爵夫人だて黙っててくれたよね。
っていうか、アリスと書いたのを見て笑われたけれど、もしかして偽名を使っているのに気が付いて笑った?
まぁ、いいや。知られてても知られてなくても、あの時特に指摘されなかったから、知らんぷりしてくれるんでしょう。
「誰かと間違えた?いえ……あの、リリアリス様は、まさかギルド長のことをご存じないのでしょうか?カイも何も言ってませんでしたか?」
いや。察したよ。カイの恋人でしょ?とは、言えない。
「特に何も聞いてないわ。もしかして、公爵夫人としてギルド長に挨拶とかしなければならなかったのかしら?領主とギルドの関係もよくわからなくて……」
そういえば、Bランク以上は強制依頼があると言っていたけれど、それって領地が危機に瀕するような場合じゃない?となると領主がギルドに依頼するってことで、信頼関係を保つ必要があったりするんじゃない?
「あ、いえ、その……アルフレッド様から何も言われていないのであれば、その……必要ないかと思いますが。えーっと、屋敷ではギルド長の話はしない方がよろしいかと……」
マーサがしどろもどろ困ったように答える。
ん?まさか領主とギルドは敵対関係?良好な関係じゃないの?
いや、それともこれからもギルドには行くつもりだけど、ギルド長に会いに行っていると誤解されて浮気を疑われるとか?
そうよね。白い結婚とはいえ、人妻の私。男性の話をするのは良くない。うむ。
推し活社会人で、会社では推しの話はしないことに慣れてるから問題ない。屋敷の外でしか名前出さない。
「あ、そうだ、日記を付けたいのだけれど、日記帳を用意してもらってもいい?」
「はい、すぐに」
マーサが部屋を出ると、机の引き出しから紙とペンを取り出す。
「紙だとバラバラになっちゃうもんね。あとで日記帳にまとめておこう。
さっきから気になっていたのだ。
出かける前に出しておいた光の玉。
一つは消えている。もう一つは残っている。