最大の問題
でしょうね!他に希望者いなかったんでしょうね!
でも、残念ながら前世の記憶を取り戻した私にとっては大変ラッキーな話。
だって、王都から離れるイコール、君たち侯爵家とかかわらずに済むってことでしょ?
それに、旦那になる20歳の公爵様も社交の場に出ないなら、私も出なくていいのもうれしい。年の離れた男の後妻でもなければ、「流刑されたハズレ領地の貧乏公爵」ってだけで、本人が猟奇的だとかいうわけでもない。
三食食べられれ虐待されないなら問題ないし。
現地で推しが見つかれば幸せに暮らせる自信がある!寝食忘れて推し活、寝る間も惜しんで推し活、食費削って推し活……なんて、普通だしね!三食食べられなくても睡眠時間短くても問題ないのさ!
いや、最大の問題は、今、死にそうになってることなんだけどさ!
うおー、息が、息が苦しい……肺もやられてるのかっ。
「ああ、それからお姉さま、怪我には気を付けてくださいね?もう、私はいないのですから。馬車が谷底に転落して大怪我しても、私なら治せるでしょうけど」
くそ、ユメリアめぇ!
「見事なフラグを立ててくれたもんだ……」
シューシューと息がどこから洩れる情けない声でつぶやく。
肺がマジでやばそう。
死なない!死ぬもんか!
まだ16歳だぞ!うら若き乙女だ!
推し活には体力も必要なんだよ!16歳といえば、心の体力が一番ある!推して推して推して、狂おしいほど推しまくれる心の体力が!
いや、ほら、推しに寝癖がついてるだけで、3日はご飯がおいしく食べられるじゃろ?あれはな、アラフォーになると、推しの寝癖で仕事が頑張れるのは1日だけとかになるんよ……。どんどん新しく補給していかないと仕事で疲れ切った心は癒されない。だから課金しちゃうのだよ……。
って、遠い目をしたら、そのまま息を引き取りそうになった!
あっぶなぁーい!
「【光】」
何が周りを明るくするだけの役に立たない魔法だ!
どんどん上がっていけ!
信号弾、空高く上がって。
私がここにいることを、誰かに知らせて……。
日が陰ってきた。私の上げた信号弾……照明弾ともいうんだろうか?暗くなればなるほど目立つはずだ。
私はここ。見つけて。死にたくない。お願い!
何とか、動く右手を突き上げ、光魔法を打ち上げ続ける。
灯台がなきゃ、船は方向を失うし、信号機がなければ交通事故だらけだし、飛行機だって夜間飛行するには光がいるんだぞ。
光を馬鹿にするな!
光通信がなければ、インターネットで動画も快適に見られないんだから!光は大事!
ああ、もう意識が……。
寝たら死ぬぞとほほを引っぱたかれる映像を脳内に浮かべる。
あ、あれは雪山の話だっけ……だ、め、だ……死にたく……な……。